計画性のないシナリオ


『え?どーしたの?何があったの?大丈夫?!』
「多分大丈夫じゃない」
『んん!?』


私の助けを求める声を聞いた幼馴染の声が、焦りと動揺の色に変わる。
助けを求めているのは私なはずなのに、何故か落ち着いているのはどーしてだろうか。
理解が追い付いてない出久の動揺が電話越しでも伝わってくる。
大丈夫安心して出久、私もまったく理解してないんだこの状況。


『え?え?説明してよ!わけわかんないよ!?』
「私もわけわかんないんだよ」
『は!?今どこだよ!』


さすがの出久も理解できないことに苛立ち始めたのか、言葉に刺を感じる。
そんな彼に場所を教えようとした瞬間、スマホが掌から奪われた。いきなりのことで驚きのあまりスマホを奪った奴を睨む。


「ちょ!なにす」
「おい、お前が彼氏か」


電話の向こうにいる出久に向かって低い声を出す目の前の男に、私は言葉も出なかった。
あまりにぶっ飛び過ぎた展開で、私の頭が理解に追い付いてない。誰か助けてください。


「彼女が危険な目に合ってるってのにお前さっきから何言ってんだ。助けてやるのが彼氏の役目だろ」


出久が焦ってる様子が簡単に浮かぶ。
ごめんね出久、巻き込んで本当にごめん。
この人警察に連れていく方が一番早いんじゃないの?


「!?お前、なんで俺の名前知ってやがる」
「へ」


どのような会話をしているのかわからないけど、この人の言葉を聞いて私は動きが止まった。

え?出久、もしかしてこの人知ってるの?
さらに頭がこんがらがっていく中、彼らの会話は私の理解を待つことなく進んでいく。
相槌を数回うった後、電話を切った彼は私にスマホを返してきた。ポカンとする私。

まじでなにこの状況。


「お前の彼氏ここに来るってよ」
「はい?」
「あ、バイト大丈夫か?」


思い出したみたいにこちらの仕事について心配してくる彼。そして私は思う。


切実に、誰か助けてください。
こんな訳もわからない状況で、しかも幼馴染まで巻き込んでしまったのに呑気に仕事なんて行けるわけない私は、仕方なく職場に連絡を入れた。


「すみません、人が足りないのはわかってるんですけど体調が悪いんで休ませてもらえますか?」


電話だというのにペコペコ頭を下げて何度も謝り、なんとか今日は休みを頂いて大きなため息を吐く。
どーしてこんなことになってしまったのだろうか…。
私は何を間違えてしまったのだろうか、と頭を抱えたくなった。


「──name!大丈夫!?」


電話を切ったタイミングで現れたのは私の幼馴染。
息を切らせているということは、わざわざここまで走って来てくれたのだろうか。
やっぱり優しいね出久は。
かっちゃんが相手なら助けてさえくれないだろう。
さすがは未来のスーパーヒーローだ。


「!緑谷!?な、なんでお前が…」
「やっぱり気付いてなかったんだね轟くん…」
「まさか…お前が彼氏……」
「?」


2人は私をほったらかしで会話をする。
この状況、間違いなくお互いに誤解していると思う。
私は2人のリアクションを見て、場違いにもそんな冷静な分析をした。


「電話でも思ったんだけど、彼氏ってどーいう意味なの?」
「は?本気で言ってんのか緑谷」
「え?うん」
「お前……、見損なったぞ」


どーしよう、会話が一人歩きしてる。
「すみません、誤解があります」って会話に入るべきなのだろうか。本当にどーしよう。
これって私が悪いのか?


「お前はいい奴だ緑谷。俺はお前に助けられたし、俺はお前のおかげで前を向ける」
「う、うん」
「でもな、お前がそんな薄情な奴だとは思わなかった」
「え?さっきからなんの話してるの轟くん」
「惚けんじゃねぇ!」
「ちょ、…あの……」


今にも一方的な喧嘩が始まりそうな予感がしたので、私はすかさず間に入って2人を交互に見上げた。


「とりあえず、落ち着きませんか…?」
「ねえ、なにこの状況」


私を見下ろす出久の視線が、これまで見た彼の中で一番怖いものだった。
どうやら私は、とんでもない選択を選んでしまったようだ。


「あのさ」
「うん」
「ちゃんと説明してもらえる?」
「私もしてもらいたい気分」


こんなにも互いが状況を理解していないことなんてあるのだろうか。
とりあえず私は、出久と2人で話がしたくてストーカーの疑いがある彼にはちょっと待ってもらって耳打ちをする。


「なんか私ストーカーされてるっぽいんだけど」
「え?誰に!?」
「あの人…」
「うそでしょ!?!?」


出久は知り合いみたいだし、多分信じられないんだろうけど、私だって信じられない。
こんな経験、私みたいな凡人には無縁だと思ってたしなんだかんだ彼イケメンだし…。


「私が仕事で通る道とか把握してるみたいだし」
「え、でも轟くんの家確かこの近くだよ」
「え?嘘じゃなかったの?」


まさか本当にご近所さんだったなんて思ってなくて本気で驚いた。
私と出久でヒソヒソと話をしていたら、ムスッとした顔の彼に腕を引っ張られる。
突然のことに吃驚してしまった。


「ちょ、なにするんですか!?」
「悪い…なんか腹立った」
「出久のこと呼べって言ったのそっちでしょ……」


苛立たれても、そんなの理不尽だ。
こちとら誰のせいでこんなことになってると思ってるんだよ、と今すぐにでも叫びたい気分なのに。


「nameは轟くんのことまったく知らなかったの?」
「うん、まったく」
「……」


黙って何も言わず私と出久の会話を聞いている彼が、何やら寂しげに眉を寄せたように感じた。
でも私は彼のことを今まで認識したことなかったし、ご近所さんだとも知らなかった。


「てゆーか、なんで私が仕事帰りだって昨日わかったんですか」
「?知ってたからな」
「そりゃそーだ」


真顔で普通のことを言わないで。
私がなんか馬鹿みたいに感じてくるから。
私が聞きたいのはそういう意味じゃなくて、どこで聞いたのかっていうことなんです!


「俺からも質問いいか」
「え?…うん」


問題の中心にいる彼が疑問を抱いているらしく、私達に訊ねてきた。


「本当にお前ら付き合ってんのか」


彼が投げてきた質問は、あまりにも直球でそしてなにより、この状況において最大の問題だったりする。
私はまず、出久を納得させなければいけないのに、まだそのミッションすら成し遂げていないのだ。


まさに、詰んだ。