不思議なくらい真っ直ぐな君



──僕も好きって言ったらどーする?

幼馴染が頬を紅く染めながら云った台詞を思い出して、私は焦りが最高潮になった。

可笑しい、可笑しすぎる。
何故こんなことになってしまったんだ。
私はただ、出久なら協力してくれるって思って軽い気持ちで連絡しただけなのに。

こんなはずじゃなかった。
「僕のこと利用しただけだったの?なんだぁ、びっくりした」「ごめんごめん」って、後にこんな会話をするはずだったのに。
なんだ、なんで私出久にも告白されてんの?
どーしてこんなことになってしまったんだ。

仕事なんて休んだのに適当なこと言って、出久から逃げてきた私が一番最低な気がした。
人の気持ちで私は遊んでしまったんだ。
どーしよ、落ち着いてほしくて選んだ選択が、修羅場への道だったなんて。


「本当にどーしよ…出久に会わせる顔がない」


断れるわけない。私が言い出したことだからこそ、「ごめん、誤解なんだ」なんてそんなこと言えるわけないんだ。
こんなことになるなら、出久に連絡なんて入れなかった。なんとか自分でどーにかすればよかったんだ。


「私…最低だ」


家に帰ってきてから私は、仕事もしてないのに疲れ果てたみたいに布団へダイブしていた。
これからどーすればいいんだろうか。
幼馴染にとんでもないことをしてしまった。

布団の上でいくら寝返りをしても落ち着かなくて、起き上がった私は何も持たずに家を出た。
外の空気でも吸って気持ちを落ち着かせて、ちゃんと出久に謝ろうって覚悟をするための時間が欲しい。

近くの公園に入って、ブランコに座った。
子供どころか誰1人としていない公園でブランコに座って風に揺られる自分。公園はまるで貸切状態だ。


「…はぁ、私のばかやろう……」
「おい、緑谷はどーした」
「帰った」
「早くないか」


何故私は会話してるのだろう。
無意識だとしても無防備過ぎだぞ私って思いながら声がした方を見てブランコから落ちそうになった。
先程別れた轟くんという人が私の背後でコンビニ袋片手に立っていたのだ。そりゃ吃驚する。


「な、なんでここに」
「コンビニで弁当買ってきた」
「え、毎日?」
「面倒なんだよ自炊」
「あー…わかる」


毎日はできないよねって力なく笑う。
私、なんでこの人に共感なんかしてるんだろう。
馬鹿だなって、内心で思いながら自嘲する。

コンビニの袋を片手に、彼は私の表情を伺うように覗き込んできて「隣、いいか?」と訊ねてきた。


「…うん、いいよ」


断らなかったのは開き直りか、それとも私なりに彼を認識したからか。
どちらにせよ皮肉なことに彼とはもう他人ではないのだ。不服だけど。
意識しないように彼を見ずにぶっきらぼうに言ったが、特に気にしていない様子で普通に座って普通にブランコをキイキイ鳴らしている。


「緑谷と喧嘩でもしたのか?」
「…喧嘩ならまだよかった」
「そーなのか?」
「うん」


足を地面につけて、キイキイとブランコをゆっくり揺らして遠くを眺める。
この人に言ったところで仕方ないし、なんならこの人のせいって部分も若干ある。
だからだろう、不機嫌な表情で彼の方を見もせずにぼやく私は本当に態度が悪い。
私が悪い部分もあるが、この人のせいでもあるから私がこんな態度になってしまうことも許してほしい。


「緑谷はいい奴だ」
「知ってる」
「自分より他人を優先しちまうくらいいい奴だ」
「知ってる」


だから心がこんなにも痛むんだよ。
出久は優しいから、素直だから心が痛い。
騙してしまったんだという罪悪感で一杯だ。


「出久にね、酷いこと言っちゃって」
「ああ」
「そのまま怖くて逃げてきちゃった」


簡単に許される問題じゃない。
いくら優しい出久でも、絶対許してくれない。
だから何も言えなくて逃げてきた。
あんな酷いことして逃げてきたんだ。


「緑谷は許してくれると思うぞ」
「いや、無理な気がする」
「このまま何も言わない方が、俺は駄目な気がするがな」
「…」
「それに緑谷がお前を嫌っても俺は嫌いにならないから大丈夫だ」
「いや、なにが大丈夫なの」
「お前のことずっと好きだったからな」
「……」


私を見る真っ直ぐな瞳から逃げるように視線を逸らして、明後日の方向を眺めた。
彼の顔を見なければ、会話ができると思った。


「ねえ」
「なんだ?」
「…ずっとって、いつから?」
「…考えたこともねぇな」
「あはは、どーせ最近でしょ」


冗談言うみたいに軽い言葉を言って、そして誤魔化すように笑ってみせた。


「いや、お前がガキの頃から知ってるぞ」


そーやってまた私の頭を混乱させるような言葉言わないでくれ。
いやいや、そんなわけないそんなわけない。


「冗談言わないでよ」
「いや、本気だ」


真顔の彼に動揺して「私覚えてないもん」と笑いながら言った。
あり得ない。そんなわけない。
こんな人、出会ってたら覚えてるはずだ。
特に頭が印象的過ぎるし、忘れられないはず。


「印象がなかったんだろ」
「え、子供の頃からその頭…だよね」
「ああ」
「だったら忘れるわけないって」
「現に忘れてるじゃねーか」


え、うそでしょ。
子供の頃に出会ったことあるの…?


「まあ忘れてても無理ねぇよ。一緒に遊んだことなんてねぇし、仲良かったわけでも知り合いってわけでもねぇから」
「は!?」
「でも俺は、…忘れられなかったんだ。それだけのことだろ」


寂しげな表情で笑ってる彼。
何故か、覚えてないことが申し訳なく感じた。
私が覚えてないだけで、出会ったことがあるなんて、なのに私ストーカーとか勘違いして……。
最低な上に最低が積み重なったよ。
その事実を聞いただけで、今の私はかなり落ち込んでしまう。何やってるんだろう私。


「まあ、そんなことよりお前緑谷のところ行かなくていいのか?」
「出久に会って何を言えば…」
「俺も行ってやろうか?」
「それだけはやめてまじで」


それこそ焼け石に水でしょ。
これは私が起こした問題だし、私がなんとかしなきゃいけない。
人には頼れない。特にこの人には。


「お前緑谷のこと好きなんだろ」
「……うん」


でもそれは、友達としてなんだって。
それを彼に伝えてどーにかなるわけじゃないけど、私のせいで出久の気持ちを傷つけてしまいたくないってそんな綺麗事を考える。


「だったらそう言えばいんじゃねーか」
「そんな簡単じゃないって」
「なんでだ?自分の気持ち隠したまま緑谷といるより、素直な気持ち伝えてお互いに傷つく方がずっといいだろ」


「言わなきゃ伝わらないことも、言えば伝わるだろうしな」って、当たり前のことを当たり前のように吐くこの人は、今どんな気持ちでこの言葉を選んだんだろうか。
なんでそんな真っ直ぐでいられるんだろうか。


「傷つけるってわかってて、言える?」
「ずっと何も言われない方がよっぽど傷つく」
「…」


真っ直ぐと私を見るその瞳があまりにも真っ直ぐ過ぎて、ため息が出そうになった。