寂しげな瞳に揺れる心
『もしもし』
「…緑谷出久くん、ですか」
『僕じゃなかったら誰が出るの』
「ママ」
『今家じゃないからね』
「そっか…」
彼の瞳に負けて出久に電話することにした。
私が電話するって言ったら、「じゃあ俺帰るぞ」ってブランコから立ち上がって公園から出ていく背中を見送ったのは先程の話。
最初はストーカーストーカーって騒いでたのに、なんだか不思議な気分になった。
私が何故電話をしたのか、多分出久自身もよくわかってると思う。
電話越しに流れる沈黙は、お互いに何を言えばいいのかわからないからだろうか。
「…ねえ」
『ん?』
先に口を開いたのは私。
私から電話した以上、私が何か話さなきゃ。
「あのね、」
『うん』
「私、…出久の気持ち知らずに、出久の気持ちを傷つけるようなことした」
『…うん』
「あの人にストーカーされてると思って、出久を彼氏だって言ったの」
『…』
「好きって言ったのも、友達として大好きだよって意味で、その……あの…、ごめんっ!」
何を言ってもすべて言い訳に聞こえる。
だったらもう、謝ることしかできない。
謝って許される問題じゃないのは百も承知だし、許してもらおうなんて思ってない。
「出久に酷いことしたし、出久自身もきっと私のこと嫌いになったかもしれないけど、それでも…謝りたいの」
『…』
「こんなこと、電話で言ってごめんなさい」
『…まったくだよ。目の前にいたら直接言ってやったのに』
『電話越しじゃなくて顔見て謝ってくれなきゃ許さない』って言われて、ごもっともだなと言葉に詰まる。
ブランコから立ち上がって、落ち着きなくキョロキョロと動き回りながら言葉を考えた。
『さっきから何キョロキョロしてんの』
「え…!?なんで知って、」
まさかどこからか見てるのかと周りを見渡し、公園の入り口に人影を見付けた。
もしかしなくても出久だと気付いた。
だから私勢いよく駆け寄り、その人影の目の前で頭を思いきり下げて叫ぶ。
「ごめんなさいっ!!」
「ねえ」
「知ってたよ」と呟いた出久。
私は恐る恐る顔を上げる。
「知ってたの…?」
「いや、あの状況は間違いなく僕に助けを求めてた雰囲気あったからね。その場しのぎってすぐわかったんだけど、でもやっぱり嬉しかったんだ」
嬉しかった?え?どういう意味?
知ってたならなんであの流れで私に好きなんて言ったの?
なんで嬉しかったの?わけわかんないよ。
「最初は普通に嫌だったよ。いくらその場しのぎでも、nameに好きなんて思ってもないこと言われたくなかった」
「…」
「でも、轟くんに取られるのはもっと嫌だって思った」
「!」
私を見下ろす瞳は、幼馴染を見る目じゃなかった。
だから動揺して後退りする私だけど、そんな私の腕を出久に優しく掴まれてさらに動揺する。
「name」
「な、なに」
「もう一回、ちゃんと言わせて」
まって。やめて、誤解だったならそれでいいから。
それ以上言わないで出久、お願いだから。
「僕は、nameが好き」
改めて言われたことによって、もう間違いでは済まされない状況になってしまった。
掴まれてる腕には力が入ってなくて、逃げようと思えば逃げられるはずなのに体が動かなくて、私はただただ出久の真っ直ぐな瞳に吸い込まれそうになる。
「わた、しは…」
「その場しのぎの彼氏でもいいよ。利用してくれても構わない」
「いや、あの、それは駄目だって」
「なんで?そのつもりで僕を呼んだんだろ」
「状況が違うじゃん!」
「一緒だよ」
あの時は軽い気持ちだった。
でも、そこに重みが加われば話は違う。
私に出久を利用するなんてできるわけない。
それに私は、出久と友達でいたいんだ。
「ごめん、勝手なこと言ってるんだって気はあるんだけど……無理。私はそんなつもりなくて、」
「それでもいいよ」
「よくないって」
「なんでだよ!」
今まで見たことなかった。
出久が男なんだと思い知らされる瞬間がくるなんて思ってもなかった。
出久は幼馴染で、大切な友達で。
優しくていつだって真っ直ぐな人だから傷つきやすくて、だから傷つけるようなことしたくなくて。
なのに今目の前にいる出久は、見たことないくらい男らしい顔をしていて、切羽詰まった表情をしていた。
「僕のこと、少しは見てよ」
「っ…」
私が軽い気持ちで選んだ選択肢が、大切な友達を傷つける結果になってしまって私は心が痛くて仕方なかった。