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ジリジリ…と、刺すような日射し。滅多に外に出る事の無いオレは、凡そ一般人よりも遥かに暑さ耐性が低い事だろう。少し外に出ただけだというのに、もう視界が揺れ始めている。
帰りたい…が、帰る訳にはいかない。何故なら、今日は目の前の恋人の我儘を叶えてやる日だから。

「イーノック、早くぅ〜!」

へばっているオレとは違い、満面の笑みを浮かべているマキシア。一体何が面白いのか、黄色い声を上げながらはしゃぎ、オレの手を引いて急かしてくる。
やれやれ…こんなに暑いのに、どこからそんな元気が湧いて出てくるんだか。

「待ってくださいよ…オレはアンタと違って、そんなに若く無いんですから」
「何言ってんの?十分若いじゃん。ほら、川までもう少しだよ!早くお水に入りたいよ〜!」
「ああもう…はいはい…」

ヘロヘロになりながらも、なんとか彼女の足取りについていく。
仕方ない…川で水遊びしたいという、彼女の要望に応える為だ。一度了解した以上、今更断る訳にもいかないというものだろう。暑さを軽く見積ってしまった事を、後悔しているが…ただでさえ、出掛けることが堪える身体なのだから。

まぁ、出掛けると言っても、誰にも見られないような近くの川だ。普段我慢させている以上、これくらいの事はさせてやらないといけないよな。

「んしょ…着いた〜!」

やっとの思い(実際には、それ程の距離では無いのだが)で辿り着くと、マキシアは川岸まで一気に駆け出した。
歩くのだってやっとなのに、走るなんてとんでもない。オレは覚束無い足取りで日陰を探し、そこで荷物を解く事にした。

彼女が作ってくれた、昼飯のサンドイッチ。冷たくした紅茶が入った水筒と、敷物と…それから…

「…この辺で良いか」

彼女が持ってきた『どこでもお着替えキット』なる物を、その場で組み立てた。相変わらず微妙なネーミングセンスではあるが、便利な代物ではある。普段研究している傍らで、こんなよくわからない物も作っているのがマキシアらしい。

「えへへ、組み立てありがとう!疲れてたんだし、休んでても良かったのに」
「一応レディのアンタに、組み立てさせるのも何ですから」
「一応って何よ!もう…組み立ててくれた事に免じて、今のは聞かなかった事にしてあげる」

ふふーん!と、胸を張って笑顔を見せる彼女を尻目に、キットを組み立て終える。もはや、突っ込む気力も湧かない。とにかく、早く寝転んでしまいたかった。
ああでも、ついでに夕飯用の川魚も獲ってしまいたい。仕掛けを川に入れないと…まだまだ休めないな。

「ふんふふーん♪見て見て!新しい水着〜!」
「何ですか、ちょこまかと…どこで脱いでるんですか」

チラと見ると、彼女はもう既に水着を着ていた。どうやら、服の下に着てきたようだ。脱ぎ捨てられた服を畳むと、「ありがとう!」なんて、満面の笑みで言ってきて…自分がやらなきゃオレがやるって、分かってる癖に。本当に甘えたがりで、一挙一動がまるで子供だ。

…でも、可愛い。色合いや柄も、よく似合ってる。白くて滑らかな肌が日に照らされていて、とても綺麗だ。
ここが、誰も来ない所で良かった。マキシアの身体、水着越しでも見られたくないんで。

「む、何か言いたそうにしてる」
「いや?家から着てくるなんて、子供みたいだなぁと。ところで、これ組み立てた意味あります?」
「子供だなんて失礼な!…帰る時にお着替えするから、ちゃんと意味あるよ。それに、貴方だって水着着るでしょ?」
「は?」

いや、オレは水着を着る気なんて毛頭無い。そもそも、持って来てないんだが。
なんて思っていたら、鞄の底からオレの水着が出てきた。問い正せば、オレが見ていない間に入れたのだとか。

面倒くさい…が、川に罠を仕掛けなきゃならないんだ。着替えた方が、好都合かもしれない。

「…はぁ」

全く、我ながら貧相な身体だ。薄暗い室内ならともかく、こんな明るい場所で見せる程のものでも無い。
…でも、

「きゃっ!やっぱりイーノックの身体、大好き…♡」

なんて言ってくれるものだから、まぁ良いかと思ってしまう。
マキシアを甘やかしているつもりでいたが、オレも大概甘やかされてるんだなぁ…今更か。

自分の思考に呆れつつも着替えた後、次の作業に取り組み始める事にした。
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