その光景を目にした瞬間、頭で理解するより先に身体が動いていた。
強く地を蹴り上げて、走る。
腕を広げてその背を庇うように立ちはだかった瞬間、衝撃が私の身体を貫いた。
不思議と痛みは感じなかった。
ただ、その衝撃に耐えられなかった身体はぐらりと揺らいで、地面へと倒れ込む。
ああ、熱い。
胸元が燃えるように熱い。
徐々に痛みが姿を現して、私は思わず顔をしかめた。
見知った顔が焦った様子で私の顔を覗き込んで、何か叫んでいる。
それなのに私の耳は、その声を届けてはくれない。
声だけじゃなかった。
聞こえるのは、荒く繰り返される自分の呼吸だけ。
痛みと熱で朦朧とする意識の中、私の心はとても穏やかだった。
だって、私は守れたのだ。
あの人が守ろうとしたものを、私に託してくれたものを、守ることができた。
自然と笑みが零れる。
安堵した途端に、意識が遠のいていく。
身を任せようとした瞬間、誰かが私の名を呼んだ。
それまで自分の呼吸した聞こえなかった世界に、ただそれだけが響き渡る。
一瞬ですら忘れなかった、忘れることなどできなかった声が、私の名前を呼んでいる。
あなたは、私を叱るだろうか。
それとも、よくやったと褒めてくれるのだろうか。
いや。
もうどちらでもいい。
あなたがいるなら。
私はそれで。
瞳を閉じる寸前、季節外れの桜の花びらが、見えた気がした。
散る桜花
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