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朝ごはんのパンにマーマレードのジャムをぬり、コーヒーで胃に流し込んだ。
送られてきた幾つかのクリスマスカードに返信を書いてふくろうに持たせる。寒空を彼方へ飛んでいくふくろうの働きざまたるや、と羽ペンで汚れた手を洗いながら絶賛休暇中のハイディアは早めに課題の片づけに取り組むことにした。 



休暇中特にこれといってやる事もなく、ただただゆっくりと時間が過ぎていく。
そうしてすぐにホグワーツ特急に乗る日がやってきた。
大きな赤い汽車はもくもくと白煙をたてている。ところどころで別れのハグをしている親子をみながら、今回は家でお別れをしてきた母を思い出す。

「落第しなければどんな成績をとってきてもかまいません、病気をしないようにね」

と言われたのでそこそこに頑張る所存である。




コンパートメントに行くまでに何人かの級友に出会うも、マーレが見つからない。
座るところがない、困った、とトランクの上に座り込むことにした。こういうところに人望の厚さが出るな、と半目になる。

「おや、そこにいるのはMs.オサリバンじゃないか」
「スリザリンの変わり者」
「「ハイディア・オサリバンじゃないか」」

交互に喋ったあとそろってこちらをみて名前を呼ぶのは、いたずらだい好きウィーズリーズである。
ひょろりとのっぽの赤毛が面白そうに私を見下げている。

「座るところがないのか?」
「友達がいないのか?」
「スリザリンは冷たいな」
「そんな君を、我がウィーズリーズのコンパートメントに招待しよう!」

心底遠慮したいが、逃げ切れないルートであると悟ったのでおとなしく従うことにした。フレッドかジョージが分からないが、片方がトランクを持ち上げ、もう片方が恭しく私の手をとる。

「「こちらへどうぞMs.オサリバン」」
「どうもありがとう、Mr.ウィーズリーズ」

こうしてホグワーツにつくまで私はさんざんっぱら彼らの悪戯グッズの実験台となり、なぜか一緒に悪戯グッズを考えることになったのだ。我スリザリンぞ?



▼▼▼



「ハイディア!!」
「マーレ、おはよう」

髪の毛を上げたマーレにやっと出会うことができた。その耳には私がプレゼントした花のイヤーカフが飾られている。365日毎日違う花が咲く、耳にはめることでつたや葉が伸び固定される。穴を開けていなくても使える便利品だ。

「耳飾り、似合うね」
「休みの日しか使えないけど、かわいいものをありがとう!」
「こちらこそ毎日使える髪飾りをありがとう」

好き放題伸びた髪の毛を、きれいに自動でまとめてくれるバレッタ。ありがたすぎる。
今日もきれいに私の髪の毛をまとめてくれていて、首がスースーとする。

「似合うわね、毎日使えるものにしたかったから、場面に合わせてもっと地味になるわよ」

今日つけたときにはビーズはほとんど黒になり、派手な色合いのものは見られなかった。
どこまでも親切な親友、ありがとう。ものぐさな私のことを良くわかってる。






突然になるが、私は水が苦手だ。
そのため現在の状況は非常にまずい。


夏休みに入る前のわずかな休日、ハグリットに声をかけられ私は小屋に来ていた。大きなハグリットの身体と小さな家。ファングがよだれをたらしながら走り回っている。
ハグリットがつれてきたのはグリフォンである。

嘘だろ、と言う驚きは厚い面の皮の下に隠しハグリットに言うとおりにして近づく。生肉を食べるこの子(アルビンというらしい)はハグリットが数年前に保護し、自然に帰そうとしたものの彼になついて離れなくなってしまったそうだ。
純粋な高さだけだったら私よりも少し高いだけだが、全長的な意味で尻尾まで入れるとハグリットに負けないほどの大きさのアルビンの嘴をこすりながらハグリットが私に用件を告げた。

「有人飛行…」

既にこの時点でグロッキーである。

「俺じゃあ重すぎてアルビンも気の毒だろう、その点おめーさんなら軽くて、背もデケェから首に手を回すことができるだろう?」

他の男子に頼むことはできなかったのか。
貴重なグリフォンへ乗ることができる人選を喜ぶべきなのだろうか、これいかに。

「そうだね、私がおちて死ぬなんてことはない?」
「そんなことあるわけねェ。アルビンは賢い子だ、ハイディアの限界ぐらい見抜くさ」
「なるほど」


という流れで、アルビンの背に乗り空を飛んでいる。
飛行事態は問題ないのだ。箒に載るのも好きだし、高いところも問題ない。
しかしアルビンは上空飛行の状態から、湖に突っ込んだ。

なぜ。

水圧でアルビンから手が離れ私だけが湖に取り残される。嘘だろ。

バサバサと雫を飛ばしながら湖から羽ばたいていくアルビンを見送り、どんどん重くなる体が湖に沈んでいく。これはだめです。
湖に沈んだ瞬間身体に力が入らなくなり、岸辺で慌てるハグリットを最後に私は頭まで水の中に沈んで行った。







「…目は覚めたかのぅ」
「、はい、ダンブルドア校長」
「それはよかった、ハグリットが落ち込んでおったよ、大事な友人をイカの餌にするところだったと」

それで落ち込んでいなかったらびっくりするが、彼のことは嫌いではないためあとで慰めにいこう。

「水の中に沈んだのは想定外でしたが、空中散歩は楽しかったですよ」
「わしも乗せてもらいたいものじゃのう」

長いひげを撫で、半月眼鏡の奥で青い目が細められた。睫毛まで真っ白なダンブルドアが、ところで、と話を切り出した。

「君の身に着けているロケットじゃが、それの意味は分かってるのかね?」
「…あー、校長先生。 クリスマスのプレゼントに誰かからもらったんですが、一度つけたら取れなくて…校長先生なら外すことができますか?」

シャワーを浴びるときや着替えるときに存在を思い出しても、どうしてもいつも忘れてしまっていたためこの時まで誰にも話せないでいたのだ。謎のロケット。
おそらくびしょ濡れの服を着替えさせるときに外そうとしたら外れなかったのだろう。いやはや、思い出させてくれて助かった。
校長は鷹揚とした動作で瞼を数度合わせてから、にこりと笑った。

「ふむ…まぁ、外さんでも問題ないじゃろう。 君のお母上も言っただろうが、闇の魔法の気配は感じられんよ、大切にしなさい」

ダンブルドアすらこういうのだ。もうほっといて問題ないだろうと結論付け、ロケットのことは知らない人からのもらい物を安易につけないという教訓にすることができた。
そういえば、何年か後に呪われたネックレスなるもので目の前の人物は暗殺されることになるんだよな。失敗するけど。
闇の魔法使いたちに接触する機会も、闇の魔法の被害もとんと聞かないから、油断していた。彼を救うならもっと慎重にならなければ、と改めて心に刻む。



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