とってもとっても、本当にとーっても、めちゃくちゃカッコいい人に出会いました。
「オレたちの相手してくれよ」
日曜日。町の図書館で本を読んでたせいですっかり遅い時間帯になってしまった帰り道。
ついでに学校で使うノートが切れていたのを思い出しお店に寄って色味していれば、もう夏とはいえさすがに7時にもなると辺りは暗い。
どうか変なモノと遭遇しませんように!
いわゆる幽霊だとかホラーに滅法弱いわたしのそんな願いは呆気なく崩れ、幽霊ではないけれどナンパと言うにはあまりにも不良すぎてロマンスもなにもないナンパ男に掴まってしまった。
「わたし帰宅途中でして……」
「そんなカタイこと言わないでさー」
「カラオケとかどう?」
なにがどう? だ!
人の話を聞かずどんどんこちらに詰め寄って来る3人の不良さんたち。
その迫力は怒ったお母さん並みにすごい……ことはないけれどやっぱりゴツくてピアスを開けてすごい髪色髪型の不良さんに凄まれたら震えてしまうのは仕方ない。
ついに背中が家の塀にぶつかってしまい、前には不良。囲まれてしまった。
「カラオケとか行かないんで。はいさよーならッて!?」
ここはナチュラルに帰ろうとしてみたけれどやはり失敗。
不良の間を抜けようとしてみた腕を掴まれて、また家の塀と不良に囲まれる位置へ戻ってしまった。
痛いいたいイタイ!! 力強い!!
電灯で見える不良さんの目が見開いて怖い! 幽霊もコワイけどこれはこれで恐怖!!
腕を捻って逃げようともがいても力の差には敵わず、不良から舌打ちがもれた。
「チッ、無理やり連れてくしかねーみたいだな」
その言葉に同意する他の不良たちに、わたしの顔から一気に血の気が引いていく。
そんな、どこにでもいる平々凡々な女子中学生をどこに連れて行く気!?
こんなことなら本を読み終えるまで粘らなければよかった。
思いっきり叫んで暴れて逃げてやる、という考えは実際にこんな目に遭うとこうも恐怖で動けなくなり意味がない。
声すら出せない中、この状況がどれだけ危ないのか理解してくると同時に、奇跡が起きた。
「グアッ!!」
「うへ!?」
いきなり不良の一人が声をあげて倒れた。
「――僕の並盛で誘拐なんて、いい度胸だね」
不良たちとは違う、落ち着いた声が届いた。
いつの間にか溜まっていた涙の向こう側、学ランを肩にかけた真っ黒な人が、仏頂面で立っていた。
「おっ、お前は……!」
「覚悟はいいかい」
不良たちが震えだして、倒れた不良を置いたまま逃げだそうとしたけど、それは黒い人によって呆気なく遮られてしまった。
一瞬のことで一体何がなんだかわからなかったけれど、いまこの場に立っているのはわたしと学ランの黒い人だけ。
黒い人が手にしている銀の棒の武器には、不良の血がべっとりと付いている。
「……汚いな」
一振りでその血を払い倒した不良たちを一瞥すると、興味が失せたとばかりに立ち去ろうとする彼。
「あ、あのっ!」
思わず声をかけてしまった。
さっきまでの恐怖のせいか、まだ震えが止まらない。けれど、これは――。
呼び止めたまま言葉が続かないわたしに痺れを切らしたのか、背を向けられた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「……なに」
「えぇっと、あの、な、名前! 名前なんて言うんですか!?」
咄嗟に出たのは助けてくれたことに対するお礼ではなかった。
けれど焦って頭の回転が働かないわたしにはそれに気づく余裕すらない。
振り返った彼の切れ長の目が真っすぐにわたしを射抜く。まるで感情を移さない瞳が電灯でさらに鋭く見える。
蛇に睨まれた蛙のごとく、緊張で動けないわたし。
「……雲雀恭弥」
「――え、」
少しの沈黙のあと、素っ気なく告げられたそれがわたしの質問の返答だと気付くのに時間がかかった。
顔色一つ変えずに不良を倒した冷徹さから答えてくれると思わなかった。
数秒、冷たい瞳と視線が絡み合っていたけれど、今度こそもう用はないと消えてしまった。
「……雲雀…恭弥」
とってもとっても、本当にとーっても、めちゃくちゃカッコいい人に出会いました。
出会って速攻――
恋をしました
(一目惚れ、というやつです)
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