翌日の月曜日。週の始まり。
 クラスの大半が登校してきた時間帯、わたしは目に入った花に駆け込んだ。


「なにそれ! あんたいつの間に好きな人できたの?」
「だ、だから昨日……!」


 力強く両肩を掴まれてグラグラと揺さぶられる。
 クラスメイトの黒川花は同年代の子たちより大人びた美人さんで恋に敏感だ。
 最近は同じくクラスメイトの沢田くんの知り合いだという牛柄服の年上さんに夢中らしい。


「花、名前ちゃんを揺さぶってどうしたの?」


 そろそろ解放してくれないと脳ミソがシャフルされる……!
 限界が近づいてきたところで学校のマドンナである笹川京子が登校してきた。
 ショートカットの外ハネ具合がまた今日もかわいい。純粋な笑顔でおはようといつもと変わらず声をかけてくれる京子が、とっても救世主に見える。


「た、たすけて京子……!」


 花さんってば周りがまったく見えてません!



「……で? なにがあったのか吐いてもらいましょーか」


 なんとか京子に花を止めてもらって解放されたけれど、朝からどっと疲れた。
 ようやく落ちついて向き合って花は鋭い視線をわたしに向けてくる。
 早く聞きたい、と訴えている視線にさてどう説明しようかと考える。直球に昨日の経緯を説明すればいいのだけれど、遅い時間まで本に没頭していたことに呆れられるのは必須。


「わたしもすごく気になるなあ」


 京子も意外と興味があったらしく、ノリノリでわたしが話し出すのをじっと待っている。
 ちょっとカッコいい人に助けてもらって、好きになっちゃったかも、と言えばこの状況。
 もういっか、わたしも二人に聞いてもらいたいし。
 小言を覚悟して、口を開いた。


***

「……というわけなの」
「わあっ!」


 昨日のあのわずかな時間のことを余りにも長く語りすぎたせいで、一時間目の授業が移動教室のため廊下を歩きながら話をしていた。
 話を聞きおえた京子はただでさえ大きな瞳を輝かせている。天然でもこういうヒーローっぽいのに弱いんだよね京子は。あの熱血おにーさんの影響で。


「花?」
「…………」


 一方、京子よりもニヤニヤと話を聞きたがっていた花は先ほどから何故かだんまりだった。
 確か学ランの人が現れた、くらいから静かになった気がするし、よく見れば顔色も悪いように見える。


「ねえ名前、その助けてくれた人って――」
「ヒバリさんだぞ!」


 考え込んでいた花が何かを言いかけたとき、廊下で固まって話していた男子たちが声をあげた。
 そしてその言葉に騒がしかった廊下がシン、と静まり返る。

 いったい何だろう?
 不思議に思いながらも、他の生徒たちが廊下の真ん中を開けて端へ寄るために、わたしたちもそれに習う。
 ……あれ、さっき男子は何て言った? ヒバリ? え、ヒバリってもしかして……!


「雲雀さん!!」
「君は……」


 廊下の真ん中を涼し気な表情で歩いてきのは思い描いた彼、雲雀恭弥だった。
 同じ学校だったなんて信じられない、と驚きで固まってしまう。


「やっぱ風紀委員長だったか……」
「え? どういうこと?」


 あちゃーと頭に手を当てて呟いた花に尋ねると、ヤケになったように話してくれた。


「昨日のあんたの話。ナンパ男を一瞬で倒した学ランの人……真っ先に浮かぶのが並盛中学風紀委員長よ。まさか本当に知らなかったの?」
「……あ、」


 そういえば聞いたことがある。
 並中の風紀委員長でありながら不良の頂点に君臨する男。
 学校指定のブレザーでなく昔の制服だった学ランを着て、気に入らないやつは誰だろうと容赦なくトンファーという武器で半殺しにするとかなんとか……。


「うそ……雲雀さんが……?」
「そうだよ」


 鬼より恐ろしいと言われている風紀委員長は、もっとガタイが良くて人相もキツく、髪型も他の風紀委員の人たちみたいにリーゼントだと思っていた。
 ニヤリと笑みをつくって肯定した彼は、どこからどうみてもその想像とは結びつかない。確かに切れ長の鋭い目は昨夜の通り、獲物を狩る強者のそれだけれど。

 どこからか小さな悲鳴も上がった。彼の笑みを見てそそくさと教室に引っ込んだ者も何人かいた。
 それだけ恐怖を感じるということだろうか。花の顔色も、先程よりさらに血の気が引いている気がする。
 京子の反応はこの際はぶくとしても、みんなが彼に抱く感情は一貫してよくはないものだ。

 けれどわたしは、昨日わたしを助けてくれたあのときから、この人に恐怖とは違うものを感じている。
 風紀委員長の噂はたくさん耳にして知ってる。危ない人だと認識していた。
 それが雲雀さんだとわかっても尚、高鳴るこの鼓動は――、


「ひっ、雲雀さん! わたしの彼氏さんになってください!!」




(勢いってすばらしい)

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