――わたしの彼氏さんになってください!!


 嗚呼、なんてことを口走ってしまったんだ自分。勢いにもほどがある。
 こんな学校の廊下で、その他大勢に見られながら、公開告白。どこの学校へ行こう? あ、古すぎるか。
 って現実逃避してる場合じゃなかった。
 後ろで花が「あちゃ〜」と今度こそ声に出しているのが聞こえた。わかってる、わかってるから声には出さないでほしかったよ花さん。


「…………」
「…………」


 雲雀さんが登場したときよりもさらに静まり返った廊下。静まり返った、というよりも南極だか北極だかに放りこまれたような絶対零度の空間。ブリザードが吹いている。おかしいな今夏なのに。

 ありえない、何言ってんだコイツ!? 誰だよ命知らずなヤツは!!!
 どこかしこからそんな意味の込められた視線がヒシヒシと送られてくる。
 あははは……笑えない。


「…………」


 無言のまま、雲雀さんと見つめ合う。
 気まずいなんて言葉で片付けられないほど痛々しい。窓から飛び降りてこの場から消え去りたい気分だ。
 けれど言ってしまったものは仕方ない。取り消すことができなければ、考えなしの勢いとはいえ本心なのだから取り消す気もさらさらない。
 じっと雲雀さんの鋭い目がわたしを見据える。品定めでもされているのか、わたしの真意を確かめているのか。
 負けじと睨む勢いで見つめ返す。仮にも彼氏になってくれと告白した相手にする態度じゃない。

 しかし廊下の張り詰めた空気に耐えきれなくなったわたしは意を決して言葉を紡いだ。


「あ、あの雲雀さん、そんなに溜めなくてもフルならきっぱりフってくれて――」
「いいよ」
「いいですよ…………?」


 の、だけれど、わたしの言葉に被せるように放った雲雀さんの返事に耳を疑う。
 思わず間抜けな顔をしてしまっている気がする。


「君、退屈しなさそうだしね。なってあげてもいいよ、君の彼氏」
「……っ!!」


 口元をつり上げて、妖しいけどどこか中学生離れした色気を出す笑みにノックアウト。


「じゃあ見回りついでに、一緒に帰ろうか」
「ふぇ!?」
「放課後、教室まで迎えに行くよ」
「っ!!」


 雲雀さんの綺麗な顔が近づいてきたと思えば、昨日のことで寝坊しかけて適当に櫛を通しただけのわたしの髪をならりと撫でた。
 そのあまりの近さに、さっきからキャパオーバーしそうで立っているのがやっとのわたしは声も出ない。


 ――ちゃんと待ってなよ、名前。

 そう言って彼は放心状態のわたしと唖然とする生徒たちを残し、昨日と同様、背を向けて何事もなかったかのように颯爽と廊下を歩いて行ってしまった。




(ほんとうに夢みたい!)

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