変わらぬひと


 ようやく正解に辿りつき、鉄箱に手をかざして“練”を行う。
すると、どれだけ力を入れても開けられなかった箱が鉄きれに分解された。
 床に散らばった鉄を1本拾いあげる。

「箱の中に……また箱が?」
「うん」

 ゴンがマトリョーシカ人形のように鉄箱の中に入っていた箱に目を向ける横で、キルアは分解された鉄に目を落とす。

「ただの鉄っきれだ。全然接着した跡もない」
「(やっぱり“神字”か)」

 “神字”とは、長時間かけて念を込めながら特殊な模様を描くことで、物体や特定の範囲に特別な効果を持たせることができる、能力を補助するものだ。
 “練”を行うことで箱が崩れるよう、ジンさんが鉄の棒1本1本に念を込めていたのだ。10年以上も前に。

「ゴン、この模様に見覚えないか?」
「これって……ウイングさんがくれた誓いの糸に似たような模様が描いてあった!」
「ああ。どうやら念と似た力がこの模様にもあるみたいだな」

 キルアの推測は間違っていないけれど、今はまだ教える必要もないと判断して肯定も否定もしないでおく。
 ジンさんがゴンに何を渡したかったのか気になるから、“神字”についてはおいおい考えることにする。

「ゴン、その箱は開きそうか?」
「この箱にはちゃんとライセンスの差し込み口があるぜ」

 ゴンはうなずいてハンターライセンスを差し入れた。
 かちゃり、と開閉音がして箱が開く。

「指輪とテープと」
「ROMカード」

 ライセンスで開けた箱の中には、指輪とテープとロムカードが収められていた。ふたりで箱を覗き込んでキルアが指輪を手に取った横で、ひとり静かに冷や汗を流す。
 この指輪は、ジンさんと出会うきっかけになったもので正直言っていい思い出は何ひとつない。

「見ろ、指輪の裏にもあの模様だ。うかつにはめないほうがいいかもな」
「それってジンがオレに何かするかもってこと?」
「念のためさ」
「じゃあまず、テープ聞いてみる?」
「そだな」

 言いながらゴンがカセットデッキを取りに立ちあがる。

「ゴン。ダビングの準備もな」
「え?」
「念のためさ」

 よくわからないままに、ダビング用のテープとジンさんからのテープをセットして再生ボタンを押した。
 最初の数秒はノイズだけで、沈黙が続く。

『………………よぉ、ゴン』

 ややあって紡がれた声は、最後に聞いたそれより少しだけ若いように感じた。
 どくり、と心臓が脈打つ。

『やっぱりお前もハンターになっちまったか』

 そう言った声音は少し苦笑気味で。けれども、やはり確信の色も感じられた。
 一瞬、カイトがこの島に来て、ゴンと出会ったことすらもすべてジンさんの計算どおりではないかと思ってしまった。ジンさんがどれだけすごい人であろうと、さすがに無理だと考えを捨てる。

『それでひとつ、聞きたいことがある』

 ――お前、オレに会いたいか?
 ゆったりと紡がれた言葉のあと、ジンさんは間を開けずに続けた。会う気があるならこのまま再生するように。会いたくないならここで停止ボタンを押せ、と。
 ゴンの気持ちは変わらない。それがわかっているからキルアも俺も何も言わず、ジンさんが口を開くのを待った。

『…………イエス、ってことか』

 当然だよな。そんな思いが、今の呟きに含まれていたような気がした。ゴンがハンターになると信じていたのなら、そう思っていてもおかしくはない。





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