変わらぬひと


 カチ。
 ふいに聞こえた小さな音。カセットデッキから聞こえた気がして、振り返る。
 と、ほぼ同時にきゅるきゅると音を立ててカセットデッキが動き始めた。

「ゴン! 止めたテープが勝手に動き出したぞ!!」

 ゴンが停止ボタンを押してから、俺もキルアも指1本触れていないどころか近づいてさえいない。
 普通ではありえない現象に、ゴンとキルアが慌ててオーラを目に集中させたのがわかった。

「デッキにオーラが!?」
「念! 念でテープを巻き戻してる!!」
「まさか現在イマ!? どこかで!?」
「まさか!! 念を込めたんだよ、10年以上前に!! “停止ボタンを押したら巻き戻すよう”に!!」

 テープを巻き戻して録音した音声に上書きするように、ジンさんは10年以上も前に念を込めていたのだ。デッキ自体にもオーラが纏われていて、壊すことも難しそうで。
 こうなってはもう、成す術はない。

「(10年以上も前に込めた念が誤作動なく……)」

 録音用のテープが始めに戻されると、今度は勝手に録音が開始された。せっかくのジンさんの肉声がゴンとキルアの声で上書きされていく。
 おそらく20歳前後だっただろうジンさんには、すでにこれだけの力を定着させられるだけの技量があったわけだ。

「悪いな、ゴン!」
「え!?」
「壊すぜ!!」

 停止ボタンを押しても、コードを抜いても稼働し続けるデッキ。
 何をしても無理だと悟ったキルアがゴンの戸惑いの声を無視して片手で持ちあげたカセットデッキを殴りつけた。壁に叩きつけられても、キルアからの追撃を受けてもデッキは壊れることなく稼働し続けるのだった。


XXXXX


「ふー……。ダビング用のテープもやられてる」



 それからしばらくしてデッキが停止し、ナマと録音したテープの両方を聞いてみたが、どちらにもジンさんの声は残っていなかった。
 取り出したテープを放って器用に弄ぶキルアを目の端に入れながら、ゴンの視線がこちらに向けられた。

「なんでここまでする必要あったのかな」
「ジン=フリークスってかなり有名なんだよ。でも、有名なのは名前と彼の功績のみで、それ以外についてはほとんど謎」
「それってジンが、前にクラピカが言ってた極秘指定人物だから?」
「そ。せっかく権力と莫大な金を使ってまで加入してるのに、テープ1本から特定されたくないだろ?」
「?」
「音声からでも相当のデータが得られるってことだよ。身長・体重・性別・年齢・顔の造形やら持病もわかるし、相手の心理状態だって読みとれる。背景の雑音から録音した場所が特定できることも多い」

 何かの拍子でこのテープが誰かの手に渡ってしまった場合や、俺がゴンに解析するようアドバイスをする場合など様々なことを考慮しての念だったのだろう。もっとも、ジンさんが警戒したのはもっと別のことであるが。
 それはキルアも同じだったようで、少しの含みを持たせて言った。

「でも、もっと警戒したのは別のことだぜ」
「え? どういうこと?」
「念能力だよ。機械よりはるかに優秀な解析が可能な念能力の持ち主がいてもおかしくないだろ? 例えば声を聞いただけで相手のすべてがわかる能力とか」
「そうか」

 念能力者として、世界でも5本の指に入ると、ネテロ会長は言っていた。ハンター界はもちろん、そうでなくても有名なジン=フリークスの情報を欲しがる者は大勢いる。
 キルアが言うように、肉声を聞くだけで本人さえ知りえない病気から何まで知ることができる能力者を警戒して、テープを破壊した。

「手強いな」
「ん」

 おそらく、“発”を使ってカセットデッキを壊そうとしても弾かれたに違いない。いつ、だれが、どういう能力を使うかもわからないにも関わらず、それらすべてを相殺させるくらいの念を、ジンさんなら込められる。
 念能力のあらゆる可能性を考慮して先手を打つジンさんに、けれどもゴンは追うのを諦めない。相手が強ければ強いほどやる気に溢れる姿がジンさんと重なる。
 どこまでも似たもの同士だと心の中で笑った。





to be continued..

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