「ねー、なまえもそう思うでしょー?」
「う、うん。そうだね。」
教室の一角に女子たちの塊があった。中心には表情が固いままのなまえと呼ばれた女子が席に着いている。
まるで逃がさないと言わんばかりになまえの両隣と目の前に派手な女子たちが陣取っている様子は、とても仲良しなクラスメイトには見えない。左右の女子たちはなまえの髪の毛を軽く引っ張り合い、反応を面白がっている。控えめに「やめて」と伝えてはいるもののただクスクスとした嗤いが返ってくるだけで止める様子はない。
「かっこいいよねー? 神代凌牙クン!」
左右の女子たちがなまえの髪の毛で遊んでいるのを目の前の女子も嗤いながら教室中に響くように言った。幸いにもその名前を呼ばれた相手は今この教室にはいない。正確にはあまり登校すらしていない。
「でもさ、凌牙くんってヤバイ奴らとつるんでたらしーよ。」
「ヤッバー。今もなのかな? さすが不良じゃん。」
ゲラゲラとした下品な嗤いがなまえの両耳から同時に聞こえる。どっちが本物の不良だ、となまえは思うがそんなことは決してこの3人には気づかれてはならない。
「そんな凌牙くんがなまえはカッコいいって思うんだよねー?」
半ば強制的に頷くように言われた言葉に同意しただけにも関わらず目の前の女子は、口角を釣り上げて嗤う。
「それって愛の告白?」
「アハハ! いいじゃんいいじゃん!!」
髪の毛をいじる手が止んだと思ったら右隣に座る女子がなまえの肩に腕を回した。覗き込むように顔をジロジロと見られ「お前が?」と耳元で言う。
「デート誘っちゃえよ!!」
左隣の女子は冷やかしのために言う。
「それ最高ー!!」
ここにいる女子3人が望んでいるのは愛の告白なんてものではない。ただ見たいのだ。身の程も知らずに告白をし、無様に振られる様を。学園の札付きであれど人気を誇る彼に、学園のカーストにおいて低い地位のそれすらも奪い取りたいのだ。
「次、凌牙くんが学校来たらデートのお誘いね。」
「いつ来るかわからないけど。」
「楽しみー!」
目の前の女子が決定事項だと言わんばかりに嗤いながら言った。なまえは首を力なく横に振るが左隣の女子に「デッキ返さないよ?」と静かに言われ、ただただその言葉に頷くしかなかった。
ふと見た廊下に深い青色の髪が見えた気がした。気晴らしになればと目線を扉の摺りガラスに向けると、そのガラス越しに見えた頭は数秒そこで立ち止まっているばかりで教室へ入ってこようとはしていなかった。そのままその人物を見ていると予鈴が鳴った。教師が入ってくる前に女子たちは自分の席へ散り、何事もなかったように教科書を開き始めていた。予鈴が鳴ってもその人物は教室へは入ってこない。諦めたのか青色が遠のいた。もう授業が始まるというのに何故そんなことになるのか見当もつかないなまえは自分の教科書とノートを机に広げた。広げたノートには「バカ」と大きく書いてあった。使いものにならないページをびりびりと破き丸めると、廊下から「何してる。教室に入りなさい」と教師だろう人のすこし大きな声が聞こえた。
自分が悪さをしたわけではないのに叱られた気分になりびくっとなまえは肩を揺らす。そして、後ろの扉がガラリと勢いよく開けられ、入ってきた人物に思わず血の気が引いた。
彼の髪色に負けないほどきっと今自分の顔は真っ青なのだろうとなまえは思うが、そんななまえの元へ丸め込まれた紙が投げられた。見事頭に当たり、机に着地したがどうやら何か書いてあるらしく広げる。「来たね」と語尾にハートマークまで付けられた手紙が乱暴に届いていた。
教師に気づかれないように後ろを振り向くと先ほどの女子がにやりと嗤っていた。後ろついでに、彼も見てしまい思わずそのまま凝視してしまう。ダルそうにすこしイラつきながら鞄を担いで、そのまま一番後ろの席に座った。
授業が始まる挨拶のために起立の号令がかかるが彼は、神代凌牙は、頬杖をつきながら窓から校庭をただ眺めているだけで従う気はさらさらないのだと身体全体で語っている。同じクラスではあるがどこの誰にも属さない彼が羨ましく思えた。
そしてほんの数秒、目線が彼とぶつかった。
ぶつかった瞬間になまえの心臓が大きく跳ねた。「やばい」と心で叫ぶものの誰にも聞こえるわけもなく、目線も逸らせず、髪色よりも深い青色をただただ見ていた。彼は一瞬怪訝そうに眉をひそめて、それから目を閉じふいっと顔をそらした。しかしまたすぐなまえを見て「まえ」と口の形を作った。その行動が理解できずなまえは頭にハテナマークが召喚される。
「!!」
「どこ見てるんだ、名字!」
後頭部に衝撃を受けてなまえの心臓は止まった。しかしすぐにどくどくと激しく動き出し、後頭部の痛みを理解するとだんだんと目に涙が滲んだ。「集中しろ」と大きな声で教師が怒りを噴火させていた。一連のことを見ていたであろう女子たちから嘲笑の嵐が起きる。その嵐は連鎖を起こし、教室中がみななまえを嗤っていた。ただ一人だけを除いて。