空白の第一希望(上)
雨が絶え間なくデュエル・アカデミアを包むように降っている。
今日の天気は荒れに荒れている。まだ夜という時間帯ではないのに雨雲が太陽を隠し、真っ暗な空模様だ。そして、●●は不思議なことに万丈目と二人きりで講義室に居る。いつも講義が行われるような広々とした部屋ではなく、小規模なもので四角形を縁取っているように配置された長机と椅子が置かれている小さな会議室のような部屋だ。授業準備室としても使われているのか部屋の角には錬金術で使われるようなフラスコや文献が無造作に置かれている。
遡ること数十分ほど前にクロノスが「早めに書くノーネ」と渡してきたプリントを●●はそっと受け取った。休んでいた間に配布されたであろうプリントの上部には「進路調査表」と大きく書かれている。第一希望、第二希望、そして第三希望と続いており、盛大なため息が出た。しかも今日中に提出して欲しいという無理難題も押し付けられ、早いところ書いてしまおうと低気圧で頭痛がする中、歩幅を広げた。寮に帰って書いても良かったがもう提出しただろう友人たちの前で、自分だけが進路を書くのがなんとなく手の内を曝け出しているような気がして、一人で書くために比較的人がいないだろうこの講義室を選んだ。念のためノックをし、誰も居ないことを確かめドアノブを回した。しかしそこには、先客が居た。
「万丈目、くん。」
「万丈目“さん”だ。そういう貴様は、」
ノックをしたはずだが万丈目の顔が驚きに溢れていた。何度か目をぱちぱちとさせて「▲▲か」と言った。名前を知られていたことに●●も目を丸くし万丈目を見る。なんだその顔は、と言いそうな万丈目の怪訝そうな顔に「私の名前知ってたんだな、ってびっくりして」と先に答えた。
「同じオベリスクブルーの者の顔と名前ぐらい知っているわ!」
決して覚えが悪いから、などという意味ではなかったが万丈目にはそう聞こえたようだ。万丈目の頭の上に噴火している小さな火山が見えた。●●が咄嗟に「ごめん」と謝ると「ふん」と万丈目は大きく鼻を鳴らした。そんな万丈目はこの小さな講義室で一人窓際に座っていた。机の上を見てみると●●が渡されたものと同じ進路調査表と書かれた紙が置かれており、きっと自分と同じように提出を催促されたのだろうと●●は察する。こういうものは誰かに見られるべきではないと思っていた●●は静かにドアを締めながら「それじゃ」と言った。
「待て待て。」
万丈目が慌てた様子で狭い講義室の中を器用に長机を避けながら駆け寄り、さっとドアを掴んだ。●●が閉めようと軽く引いてみるも仮にも男の万丈目の力には敵わずびくともしない。●●の視界の上に万丈目のとんがった特徴的な前髪が現れ、ふと上を向く。意外にも整った顔がドアの隙間から●●を見ていた。不覚にも●●の心臓が高鳴った。そういえば女子の誰かがイケメンだと言っていた気もするが、と●●は視線を縫い付けたまま動けずに居ると万丈目がまた怪訝そうな顔をして唇を動かした。
「貴様もそれを書きに来たのだろう。」
万丈目の人差し指が●●の持つプリントへ向けられている。素直に●●は頷く。万丈目はそのままドアを室内へと引いた。ドアノブを握ったままだった●●は、そのまま万丈目の前に引っ張り出される格好になり、万丈目との距離が目と鼻の先ほどになった。同級生といえど男性がこんなにも近くにいたことがなく、●●はやんわりと手で遮りを作ると万丈目も察したのか少し頬を赤らめながらズカズカと元居た場所へ戻って行った。戻りながら「うるさい」と手で蠅なのか何かを振り払うようなしぐさをしていたのはとても滑稽な姿に●●の目には映った。そして、そんな万丈目をもっとみたいと思った。手に持っているはずの進路調査表はもう●●の頭の中では存在が消えかかっている。そんなものよりも、万丈目が気になった。
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