このひとは、どうして私のことが好きなんだろう。
ふと目を覚ますと、明るかった。
朝だ、と思って、包まっていた掛布から少しだけ顔を出す。ベッドの中は私の体温で温かい。肌に馴染むシーツはとろけるように柔らかくまとわりついて、その感触をしっかり確かめる。
枕の下のケータイを取り出して時間を確認。
いつも自然に目が覚める時刻をとっくに過ぎていた。
起きたくない。疲れているのだ。
昨日はシャワーを浴びて髪を乾かしてベッドに潜り込んですぐに眠ったのを覚えている。ほんとうにすぐだ。
そもそも、シャワーを浴びるときも服を脱がせてもらい。
そう考えて気がついた。
服を脱がせてもらい、替えを用意してもらい、だらだらスキンケアをしている間にドライヤーを使ってもらい、その場で寝そうな私をベッドに運んでもらい、掛布をすっぽりかけてもらい。
そうだ、悠くん!
気がついて隣を見るも、いない。
起きて、所在を確認したい。
それと同じ分だけ、まだこの心地良い空間で微睡んでいたいと思う。
兎にも角にも疲れている。
比較的寝つきの悪い私が、あっという間に眠れたのは疲れていたからだ。
私は、掛布に頭まで包まって、ケータイをいじる。
ゆーくん、どこ?
これだけをラインで送信。と同時に既読の文字が付く。早い。早すぎる。
のわりに返事が来ない。焦れて、拗ねた顔のスタンプを送る。また既読が付く。
連打してやろうか、と思ったら寝室のドアが開いた。
「おはようございます」
「ゆーくん」
「よく眠れましたか?」
「うん。でもまだ出たくない」
「そうですか」
言いながら、悠くんは掛布をめくって隣に入ってくる。
その腕を求めて、もそもそと寄っていけば腕が伸びてくるから頭を上げる。
「ぐっすりだったでしょ」
「おやすみ三秒でしたよ」
「すごい疲れたの」
「そのようですね」
くしゃりと悠くんが髪をかき混ぜて、私は目を細める。その手の質感がたまらなく好きだ。その首筋の匂いがたまらなく好きだ。
「お腹空いてませんか」
「空いたけどまだ出たくない」
悠くんが、苦笑。
「昨日、言ったこと覚えてます?」
「…なんだっけ?」
「レモネードが飲みたい。クルトンの入ったシーザーサラダが食べたい。カレーが食べたい。ピザが食べたい。お寿司が食べたい。とんかつが食べたい。プリンが食べたい。パフェが食べたい。パンケーキが食べたい」
「…すごい食い意地だね?」
「頑張って働いたからでしょう」
その薄い体に抱きつく。なのに筋肉なんだ。意味が分からないし、羨ましい。
世界一の抱き枕を抱えながら、とろとろのシーツに埋もれていられる幸せを噛み締める。
「とりあえず、クルトンの入ったシーザーサラダとカレーとプリンは用意しました。レモネードもあります。他は頼めますけど、何が食べたいですか」
「…サラダとカレーとプリン作ってくれたの?」
「残念ながらプリンは既製品ですが」
なんだこの彼氏。
そう思って力の限り抱きついた。
至れり尽くせりとはこのことを言うのだ。
悠くんは私のことが大好きすぎて、私のためなら何でもしてくれるのだ。
そんな気がして、目の前の彼がとてもとても愛しく感じられた。
「食べる。もう少ししたら、サラダとカレーとプリン食べる。レモネードも飲む」
「分かりました」
「そのあと、ゴハン食べに行こ」
「良いですよ。食べたいもの考えておいてください」
「うん」
乾いた足先に、私の温かいそれを当てる。悠くんを抱き締めながら掛布も引き寄せ、この世は天国だ。
すべての決定権は私にあり、彼は何もかもしてくれる。
そんな錯覚さえしてしまう。
悠くんの唇が額の生え際に当たった。
「なんでこんなに優しーの」
多分、言うであろうことは分かっている。
声音すら想像できる。
できるけど。
「なまえさんを愛しているからですよ」
なんて尊い。
そう思って目を閉じた。
ずっと愛してもらえますように。
ずっと愛していられますように。
それがどれだけ難しいことかよく分かっているつもりだから、とりあえず、いまこの瞬間を体と心に刻み込んだ。
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