私の選んだアルバム、キャッチーな歌詞に、夏を連想するしかないアップテンポでガチャガチャしたメロディライン。
もうとにかく薄着で、ノースリーブのてろてろシャツにデニムのショーパン、やたら踵の高いサンダル。睫毛バシバシのアイメイクにベージュリップ、巻いた髪はルーズめにポニーテールにして、どこから見てもギャル!な格好をしているのは、暑いからでもあるし、サマーバケーションだからでもある。
運転手の悠くんはドリンクホルダーに水。助手席の私は強炭酸。私は旅行専門雑誌をパラパラ。高速道路は好きだ。このスピード感が堪らない。
「あっ、ねえねえ、ここのソフトクリームおいしいらしいよ!」
「良いですよ」
「わーい!」
私はそれしか言っていないのに、悠くんはすぐに肯定してくれる。えっとねえ、と住所を読み上げたら、悠くんは分かりましたと返事をした。
多少の距離なら、ふたりでドライブが良いと私が言い出した。好きな音楽をかけながら、悠くんとふたりきりで色んな話をする。
いつもの車内ではあるけれど、ひっきりなしに外を流れていく風景は非日常であって、ただただ楽しい。
私の意見を採用した旅行プランが悠くんによってしっかり組まれているため、フラフラできるのは行き帰りくらいになる。勿論、私の意見が100パーセントであるからして、プランに文句はない。
お行儀悪くても良い?と一応断って、ダッシュボードの上に脚を乗せる。
ああ、夏っぽい。
社内のどうでも良い噂、最近の掃除課での出来事、欲しいものや行きたいところ、私がずーっと喋って、悠くんが返事をしたり、話を広げてくれたり。
ハンドルを握るその手に見惚れたり、喉仏のラインに惚れ惚れしたり、とにかく忙しい。
滑らかに人差し指だけでウィンカーを上げた悠くんは、とても緩やかに高速道路を降りた。
私は、何も聞かない。悠くんが連れて行ってくれる場所で、良い。場所が、良い。私はただ、アップテンポな曲に乗っているだけ。
「そろそろじゃないですか?」
「ソフトクリーム?」
「そう」
足を下ろしてきょろきょろすると、左側にそれらしいところを発見。混んでいる駐車場に車を入れて、嫌な顔をした悠くんと一緒に降りる。メルヘンな建物の中にはソフトクリーム以外にもジェラートがあって、どっちも食べたい私は並びながらメニューを眺めて悩む。
「ソフトクリームもジェラートも食べたい」
「いいんじゃないですか」
「ええ、食べれないよう」
「なまえさん、ジェラートにすればいいでしょう」
「悠くん、ソフトクリーム?」
「うえの部分、あげますよ」
「…そうする!」
私はジェラートの味をふたつ、決める。車を降りたときから繋ぎっぱなしの手を、揺らしながら順番を待った。
注文は私がして、悠くんは繋いだ手を離さないまま、器用に財布を出してくれて私はそれに甘える。
横にずれて、ジェラートが盛られ、ソフトクリームが巻かれるのを見る。建物は反対側から外に出られるらしい。そこはのどかな原っぱのようで、たくさん用意してあるベンチのひとつにふたりで掛ける。こういうとき、先を歩くのは私だ。乗り気でない悠くんを、繋いだ手で、引っ張った。
仕方なく手を離して、小さなスプーンを持つ。悠くんは、まず一口めを私にくれる。少し欲張ってそれを含むと悠くんが口角を僅かに上げる。
「おいしいねぇ」
「甘いです」
「はい、あーん」
スプーンに乗せたジェラートを食べさせて、笑う。なんて幸せなんだ。いまこの瞬間を、私は噛み締める。きっと、悠くんもだ。次の仕事で、死ぬかもしれない私たちの、ささやかでささいな幸せ。
このソフトクリームのように甘く、このジェラートのように溶けてしまう、ふたりの時間を、遠くに目をやって感じていた。
蜃気楼みたいな景色を眺めていたら、やたらと視線を感じて、悠くんに顔を向けた。
「…かわいい?」
「可愛いですよ、非常に」
悠くんの指先が、私の流した前髪をなぞる。その指先が、何よりも優しくて、とても嬉しくて、すごく切なかった。
まわりを見て、一瞬、唇を重ねた。
悠くんが困ったように笑って、また私にそんなに減っていないソフトクリームを向けた。
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