あなたが星に願うとき

第一章 あなたが誰かは関係ない

わたしは成宮楓。東京都内の進学校の一つである「秀尽学園高等学校」に通い始めたばかりの新一年生だ。
 十五歳という、世間一般では親に反抗しやすいといわれる年頃に、未だ母親に人形遊びをしようとねだっているからか、良く言えば純粋、悪く言えば幼稚、と家族からはよく言われる。ただ、今までこの様を肉親以外に見せたことはない。だから自身がイタい系女子だということは、何とか周りには隠し通せているつもりだ。
 しかし無邪気さや幼さは全面にアピールしている。主な手段としては、笑顔だろうか。そう、笑顔は人を幸せにできるから、わたしは笑顔が好きで、普段から笑顔を心がけているのだ。結果として、笑顔でいると人に好いてもらえることも多い……最後の一言は余計だったかもしれない。しかしまあ、こういった策略家的才能はあると自負している。
 そして、幼さの話から想像できるかもしれないが、頭は冴える方である。まあ、秀尽学園高等学校入学試験を首位で合格する程度だけれど。よくある「頭のいい人は変人」の部類に入れてくれたら光栄だ。
 ああ、あと、無類の恋愛ゲー厶好きでもある。小さい頃から少女漫画が好きで、しかし恋愛自体は憧れるだけで実際にしたことがなかったわたしにとっては、ゲームを介して恋愛を体験できるというのがとても新鮮だったのだ。以来、様々な恋愛ゲームを遊んでは、母に感想を聞いてもらうというのが通例となっている。これが恋愛に飢えているという証明であったとしたら、恐ろしいけれど。因みに、特に好きなのは「戦国武将と身分違いの恋」系統である。





 満開の桜を見られるピークも過ぎ、辺り一体の長閑な景色を眺めるよりも身体を刺激してくる花粉に対する苛立ちが表面化し出す、この頃――四月上旬。入学式も始業式も無事に終え、皆が新たなる生活空間と向き合い始めるこのときに、秀尽学園高等学校(略して秀尽)の一年生であるわたしは、級友から奇妙な噂を耳にした。

「秀尽に『前科持ち』の男子が転校してくるんだって。先輩らしいよ」

 わたしは少しだけ恐怖を覚えた。
 まあ、この噂に恐れを抱くのは仕方のないことだったとして、何故に少しだけなのか。それはわたしが高校一年生だからだった。というのも、彼は高校二年生で、しかも異性。つまり、運命でもない限り絶対に接点を持つことのない人なのだ。だからわたしは彼と知り合う筈がないと信じて疑わず、安心していたのである。しかし、それは単なるわたしの油断でしかなかった――わたしは彼と出会ってしまった。


 ・・・


 パッと目が覚めた。こういう日がたまにある。しかし他はいつも通りで、目覚まし時計のアラームを止めれば――あれ? いつものチリリリン、チリリリンと煩いアラームが鳴っていない。

「……まさか」

 わたしの寝起きの小さな声が、わたしの寝床の小さな部屋に響いた。
 嫌な予感を全身に受け、冷や汗がいきなり出てくる。ドキドキと動悸が激しくなってきた。目覚めたての体に冷水でも浴びせられた気分だ。
 どうか、どうかいつも通りでありますように。どうか、どうか時計の針が、午前七時を指していますように。祈りながら恐る恐る目覚まし時計へ目を遣るも、我が願い叶わず。やはり、嫌な予感は当たってしまうものらしい。デスティニーランドで父に買ってもらった可愛らしい目覚まし時計の針は、何と午後零時ちょうどを指していた。

「――やばい!」

 わたしは叫びながら飛び起きた。寝坊は幾度となくしたことがあるものの、幸運なことに学校に遅刻したことはないのだ。だから「遅刻」それも「大遅刻」という事実が、わたしを強制的に突き動かした。
 父母は早朝から出勤のため、弟はわたしと同じ時間に起きるくせに不親切だから、わたしを起こそうとはしてくれなかったようだ。いいや、他人のせいではない。昨夜「美男戦国」という有名な乙女ゲームの期間限定イベントに午前四時まで参加した自分のせいである。因果応報とは正にこのこと。
 もう夜ふかしはしまいと、わたしは懲り懲りといった気持ちで決意を改め、急ぎ担任に遅刻の連絡と謝罪をし、最低限の支度を済ませ、鍵を閉めて家を出た。焦燥していたが、それで鍵を閉め忘れるほど慌てん坊ではない。
 少し歩いて東急田園都市線四軒茶屋駅に着くと、わたしは通勤ラッシュ時間外の――しかし昨日に起きた「精神暴走事件」によるダイヤの乱れのせいで混雑していた――電車に乗って渋谷駅に向かった。秀尽高校の最寄り駅である蒼山一丁目駅に辿り着くには、渋谷駅で銀坐線に乗り換えなければならないからである。
 地下鉄に二度揺られ、せっせと歩くこと約二十分。やっとの思いで秀尽高校の正門へと繋がる一本道に差し掛かったとき、わたしは二人――黒い髪と黄色い髪――の男子生徒を目撃したのだ。

ある昼のできごと

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