お誕生日おめでとう


 その後、杏の「私だけプレゼント宣言」も取り消しになり、俺たちはそれぞれの贈り物を楓に渡した。中身は帰宅してからのお楽しみということで、彼女はワクワク、待ち切れない、早く確認したい、という調子で「皆、本当にありがとう!」と笑った。まあ、祐介のは布で包まれてはいるものの、絵画だということはすぐ分かってしまったが。
 こうして惣治郎さんへのお礼の挨拶も程々に、俺たちは楓一人では抱えきれないプレゼントを大切に持って、まだ少し冷える春の夜の東京へと繰り出したのだった。






「皆、今日は本当にありがとう。私のためにここまでしてくれて、本当に嬉しかった! 嬉し過ぎて、今日が一生続けばいいのにって思ったくらい。えへへ。だから、皆からのプレゼント、絶対に大切にするね!」

 楓の家の前に到着した俺たちは、ただ彼女の思いに耳を傾けていた。別にもう会えない訳ではないのに、彼女の言葉の一つ一つが物凄く幸せで、切なかった。だって、この言葉を聞き、この笑顔を見る為だけに俺たちは今日まで頑張ってきたのだ。だから泣きそうになったのは仕方のないことだと、どうか分かってもらいたい。
 別れ際に最後の言葉でも紡ごうと、それぞれが口を開く。

「私たちはいつでも仲間だから。楓のこと、大好きだよ!」
「何かあったら俺を頼れよ。絶対に、いつでも力になってやるから」
「たとえ何があっても楓は楓だ……誕生日を祝えてよかった」
「楓、また出かけたいときは私に言って? 絶対に連れて行ってあげるわ」
「私、楓ちゃんの笑顔が大好きなの。だから、どうか十七歳の楓ちゃんもたくさん笑ってね!」
「年上の楓も好き! なんちて。もっといっぱい遊ぼうな!」
「ワガハイ、楓の撫で方は気に入ってるぞ。だからまた会ったときは目一杯撫でてくれよ!」

 一人ひとり(そして一匹)楓に声をかけた。順序からして俺が最後のようだ。俺は楓をちゃんと見つめて、静かに言った。

「楓、誕生日おめでとう……生まれてきてくれて、ありがとう」

 最後の最後で少し声が震えてしまったけど、何とか伝えられた。俺は安堵に胸を撫で下ろした。

「皆……」

 楓は目に涙を溜めている。それは星か月か、夜の光を受けてキラキラと輝いて見えた。かと思えば突然、目を細めた楓から二つの雫が溢れた。目を細めたのは、ただ笑う為だった。

「ありがとう、皆。大好きだよ」

 彼女の春の陽射しのような笑みに、声に、俺たちもつい笑ってしまった。





 あれからすぐに楓から怪盗団全員に連絡があった。その内容はこうだ。

『皆、改めて今日は本当にありがとうございました! こんな幸せな誕生日、生まれて初めてでした!』
『皆からの誕生日プレゼントも見せてもらったよ。皆、すっごい凝ってて感動した! 全部最高の誕プレなんだけど、特に嬉しかったのはやっぱり暁くんの! 何といっても手紙だからね、手紙。早速読ませてもらったけど、ボロ泣きしちゃいました』
『とにかく! 皆、本当に、本当にありがとう! 私、今日の出来事は絶対に忘れません』

 どうやら「ザ・ベスト・オブ・プレゼンツ」には俺の手紙が選ばれたらしい。俺はスマホを片手にガッツポーズを決めた。幸い、惣治郎さんと双葉は家に帰った為、モルガナ以外には目撃されていない。よかった。
 それからも楓のマシンガントークと仲間たちの会話は続くのだが、全てを話すのも面倒なので簡単に省略しておく。

「楓は 杏から お揃いのヘアゴムをもらった!
「楓は 竜司から くまさんのお人形を もらった!
「楓は 祐介から 『楓』を もらった!
「楓は 真から 手作りの読書セットを もらった!
「楓は 双葉から 思い出のアルバムを もらった!
「楓は 惣治郎さんから コーヒー無料券一年分を もらった!
「楓は 春から 春野菜の詰め合わせを もらった!
「楓は モルガナから 暁特製モルガナマスコットを もらった!
「俺たちは 楓から 笑顔を もらった!」

 以上である。


(完)

  



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