ハロー、青春。
序章 悩みはやどりぎのタネのように
キバナくんは天候を駆使したダブルバトルを誰よりも得意とする、ドラゴンタイプのポケモンの使い手だ。対してメロンさんはこおりタイプのポケモンの使い手。彼女もポケモンにあられを降らせるように指示することがあるので、天候を操って戦うタイプのトレーナーといっていいだろう。
大まかな情報だけで判断すれば、ドラゴンタイプのポケモンはこおりタイプの技が弱点であるため、キバナくん側が圧倒的に不利だ。しかしキバナくんが言うには、彼はちゃんとこおりタイプの弱点を突ける技をパートナーのポケモンたちに覚えさせてからメロンさんとのバトルに臨んでいるのだ。それならば一度くらいはメロンさんに勝ててもおかしくはないはずだけれど、キバナくんはまだ一度も彼女に勝てていない。となると確かに他に原因がある気がする。では、その原因とは何か――。
「まず、いくら一番の敗因じゃないとしても、ドラゴンタイプのポケモンがこおりタイプの技に弱いっていうのは、やっぱり敗因の一つとしてあると思うの」
「そうだな……それは確かにそうだ」
キバナくんは悔しそうな顔をしながら、けれども変に威張ることなく頷いた。その様子を視界のど真ん中に捉え、少し申し訳ない気持ちになりながらも、わたしは彼から視線を逸らして言葉を続ける。
「けど、キバナくんが弱点対策をしっかりしてるなら、メロンさんにも負ける確率は同じだけあるはずだから、一番の敗因がそれとは確かに考えにくいよね」
「っ、だ、だよな! キバナさまの最高のパートナーたちが敗因だなんて、そんなことあってたまるか」
わたしの意見に前のめりに、かつ目をキラキラと輝かせながら同意してきたキバナくんは、よっぽど自分のポケモンたちに敗北の責任を感じさせたくないらしい。いや、彼は絶対に敗北をポケモンたちのせいにはしないだろうが、きっと巷で彼のポケモンたちが敗因だと主張する人がいるのだろう、そのことに少なからず心を痛め、怒りを覚えているのだ。彼のそういうパートナー想いなところを、わたしは同じポケモントレーナーとしてとても尊敬している。まあ、近付かれ過ぎてちょっと困惑はしたけれども。
「あ、えっと、それでね」
同年代かつ異性の人に目前まで近付かれるということが中々ない――というか、今までそんな経験をしたことがない――ため、自分でも分かるくらい挙動不審になってしまったけれど、ちょうど自分のポケモン凄いんだぞ語りに躍起になっていたキバナくんには気付かれなかったようで、「あ、悪い。続けてくれ」と話の続きを促された。わたしは「あ、うん」とまだ少し緊張が解けていない状態で頷いて、急いで心を落ち着かせる。
「えっと……それで、じゃあキバナくんがメロンさんに勝てない一番の理由って何かなって考えたんだけど」
「ああ」
気持ちいつもより柔和な雰囲気を醸し出して、わたしが続きを話すのを待ってくれているキバナくんに、わたしはまたもや罪悪感を覚える。これから放つ一言が、もしかすると彼の自尊心を傷付けてしまうのではないか。そう思ったからだ。けれどもここまで話を進めておいて言わないのは違うし、何よりキバナくんにわたしの考えが伝わらない。つまりは、キバナくんの力になれないということだ。それは嫌だと思い、わたしは腹を括って、じっと彼の目を見つめた。そして、緊張で少し乾いてしまった口をゆっくりと開く。
「一番の理由は……キバナくんにあるんじゃないかなって」
「……は?」
キバナくんは呆然としていた。目が点になっているのではないかとこちらが疑ってしまうくらいには呆然としていた。やはりキバナくんにとっては寝耳に水だったようだ。パートナーたちに責任は負わせたくないと思いながら、自分に何か原因があるのではという思考に至りづらいのもまた、キバナくんらしい。即ち、彼がちょっぴり自信家であるということだ。
「あの……キバナくん?」
そんな彼の長所を短所だと言っているようで申し訳ない気持ちを抱えつつ、キバナくんが今どんな感情を抱いているのか聞きたくて、わたしは首を傾げる。すると、わたしが動いたことで我に返ったらしいキバナくんは、何故か焦った様子で言葉を紡いだ。
「ああいや、悪い。意外な指摘だったから、少し驚いただけだ」
「……本当に?」
「ああ。何せ今までオマエみたいにド直球でオレが悪いって指摘してくれるヤツ、いなかったからな。ダンデは何だかんだオレのこと褒めてばっかりだし」
「……そっか」
「……おう」
何故焦っていたのかはよく分からないけれど、とりあえずキバナくんは本当に驚いただけのようだ。彼の心を傷付けずに済んだことにホッとしつつ、わたしは思う。あれ、何だかキバナくんが可愛く見える、と。
さっきまで彼に物申すことに及び腰になっていた奴が何を言うかと思うかもしれないけれど、おう、と頷いたときのキバナくんの照れ臭そうな仕草や声、表情が、何だかとても可愛く見えてしまったのだ。こんなにも背が高くて、バトルの最中は獲物を狙うマニューラのようにギラギラと両目を輝かせているような人なのに。
最早キバナくんの顔色を窺う自分の存在は忘れてくすくすと笑っていると、どうやら彼にとっては想定外の反応だったらしく、「おい、何で笑うんだよ」と少しおかしそうに理由を聞いてきた。
「いやあ……キバナくんにも可愛い一面があるんだなあと思って」
思ったことをありのまま伝えると、どうやら彼にとって嬉しくないことだったらしく、「は? いやいや、そこは可愛いじゃなくてカッコいいだろ」と不満を零してきた。わたしはそれすらも可愛い――とは思えず、ただただ予想外のツッコミにびっくりして、素っ頓狂な声を上げる。
「えっ? 突っ込むところ、そこなの?」
「ああ、だってオレさまがカッコいいのは事実だろ?」
「あ、えっと……うん、確かに」
さも当然のように頷いて、逆に言い返してくるキバナくんはやっぱり、結構な自信家のようだ。わたしが苦笑していたことを、キバナくんは知らない。