カイルのお仕事

 早朝に宿を出て、朝日に照らされている路地を足早に歩く。春だというのに、朝の空気は冷えていた。
 暫くしたところに黒塗りの馬車を見つけ、俺はそれに近づいた。

「ーー朝からすまんな、カイル」
「いや、構わねぇよ」

 中に入れば、白髪混じりの髪を後ろに流し、髭を蓄えた初老の男が微笑みながら出迎えた。俺も小さく笑みを返し、横に腰を下ろす。
 ーー暫くして、馬車が動きだした。

 男…ウィップ・スターンさんは俺が持ってきた重い革の鞄を取り出し、中を物色し始めた。袋詰めにされた、サファイア、ルビー、ダイヤモンドなどを確認して最奥にある黒い袋に詰められたモノを取り出した。
 中には所々白く濁った半透明の結晶がいくつも入っている。ウィップさんは1つ取り出し、ゆっくり見始めた。

「…どうやら本物のようだな、しかしこんな大量にいいのか?」
「…こんなもん持ってても仕方ねぇよ、ダバルドンじゃ売れねぇんだから」
「ははっ、捕まったら大変だからな」

 この結晶はブルームーンと呼ばれる薬で、名前の由来は月光で青く光るからだという。所謂、違法薬物でダバルドンでは売れねえ代物だ。まあ…買う奴もいるが、少数だ。
 どっぷり快楽に浸れるが依存すれば廃人になり、酷い奴は死に至る。だから、あまり買う奴はいない。あっちで見つかれば一発でお縄だが、アネストンではまだ規制されていない。

「…毎度思うが、貴族様がこんな下品な薬を欲しがるとはね」
「貴族は暇人で常に刺激に飢えている、これはいいオモチャなのだろう」
「はっ…くだらねぇ」

 鼻で笑い、馬車の窓の外に視線を向けた。
 俺は貴族が嫌いだーー昔、宝石商だった親父は貴族に違法薬物やら人身売買を無理やりやらされていたらしい。位も上がって爵位がもらえる、そういう話しが出た後に暗殺された…親父も母さんも。
 どうやら父はもう裏の仕事はやりたくない、そう告げたらしいが貴族が気に入らず消されたらしい。俺もタダでは済まされなかったが、必死で逃げ出し何とか逃れることができた。
 どん底の中で、ウィップさんに俺は拾われた。ウィップさんは平民から爵位を貰い、貴族になって成功した1人だ。
 親父と同じように宝石商をして、そして同じようにウィップさんの下で、違法薬物やら人身売買に手を貸している。でも、親父と俺が違うところが1つある。
 それは俺が好きでやっている、というところだ。
 貴族相手に違法薬物を売るのに罪悪感なんてない、平気で大量に売ることができる。死のうが廃人になろうが知ったことじゃない、むしろ滑稽で面白くて笑える。
 憎い貴族を地獄に落とせるならそれでいい。無くすものもない俺は、親父のように破滅なんかしない。


 とにかく俺は貴族は憎い、いい奴だろうが関係ない。反吐がでるほど嫌いだ。ウィップさんも恩人だが、家族だなんて思っていない。ただの雇い主、上司なだけだ。


「…今回、連れがいるようだね。どういった関係なんだ?」
「…あんたには関係ないだろ、ウィップさん」
「教えてくれてもいいだろう?」
「…ただの男娼だ、あんたが気にすることじゃねぇ」

 ほう、と笑みを浮かべるウィップさんに俺は視線を逸らした。


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