カイルのお仕事(2)
ーー貴族は嫌い…のはずだった、あの夜までは。
あの日の夜、俺は悪友達と飲んでいた。ベロベロに酔っ払いながら、なんとなくスラムを通りかかって身なりのいい男を見つけた。俺は酔っ払っていながらも、貴族だとわかった。日々の憂さ晴らしに絡んで、殴って、犯した。
いつもは男にはあまり興味はわかないのに、貴族の男の歪んだ顔に酷く興奮したのを覚えてる。
グッタリした男を放って、悪友の1人が財布を奪って俺たちはまた違う飲み屋に向かった。
数日経って、俺はふとあの貴族を思い出した。貴族の男が強姦されたなんて通報はしていないとは思うが、あの後どうしたのか気になった。
仕事帰りにスラムの路地を彷徨く。当たり前だが、変なゴロツキやコジキのような奴らしかいなかった。
…さすがにいないか、そう思った矢先に狭い路地に横たわっている男を見つけた。近づけば、見覚えのある服を着ているのがわかった。
顔を覗き込めば、殴られたままの顔は腫れ上がり荒い息を吐き出していた。声をかければなかなか焦点の合わない黒目がこっちを見上げた。暫く経って俺だと気づいたらしい。
どうしてかわからないが、俺はあの日の歪んだ顔をもう一度見たい、そう思った。グッタリした男を担ぎ上げて家に向かった。
男、ハジメは熱があったが気にせず好きなだけ犯した。死にそうになればやめて、放っておいてもいいのに俺は甲斐甲斐しく世話を焼いていた。
ハジメは動けるようになっても俺に何もしなかった。やられたことを忘れたのか、そう思ったが忘れてはいないらしい。
食い方の作法や言葉遣いからして貴族なのはわかったが、貴族の癖にハジメは料理が上手かった。暫くしたら嫌々ながらもセックスも出来るようになってきた。
そんなある日、俺はハジメに聞いた。
「お前、家帰んねぇのか」
「……家なんかない」
「はあ?お前は貴族なんだろうがよ」
「………」
無言の返事に、俺は理解した。こいつは家出したんだと、しかもただの家出じゃないのだと。
だって、普通犯された相手と住めるのか?無理だろう。俺のように恨んでいるのかもしれない、そう思った。
暫くあいつとのことを思い出していた。貴族に対してのことは言おうとは思わないが、あいつも俺と似ているのかとそう思うと気分が安らいだ。
グッタリしたまま今頃寝ているだろう男を思い出し、少し笑った。
…貴族だけど、ハジメはそれほど嫌じゃない。
「………」
「なんだよ、ウィップさん」
「…いや、なんでもないさ」
珍しく無表情のウィップさんはすぐに笑みを浮かべた。怪訝に思いながらも、俺は長い時間馬車をのりつづけた。
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