シャムスにおもてなし

 
 王子様を家に入れるなんて…そう思っていたが、シャムスは来る気満々で鼻歌でも歌いそうな程機嫌がいい。
 そんなシャムスは家に入った瞬間、キョトンとした顔でこれは家なのか?と呟いた。

「こんな狭い部屋に服や生活用品が収納できるのか?」
「……できるぞ、一応」
「すごいな…」

 ーーキラキラした目で俺を見つめるな、シャムス。
 王子様からすればこんな狭い部屋で生活するなんて想像できないかもな、そんなことを思いながら俺はシャムスをソファに座らせた。
 適当に紅茶を淹れて、シャムスにゆっくりするように伝えて台所に戻る。

 金もないし、今日は軽い洋食を作ることにした。
 大鍋に湯を沸かし、塩をひとつまみ入れる。沸騰した後、安く売ってあったパスタをぶち込んだ。時計に目をやって時間だけ覚えておく。
 次に、今日買った鮭に塩胡椒をして小麦粉を塗す。今日新しく購入したフライパンを取り出し、油を敷いた。熱したフライパンに鮭を置けば、ジュッと美味しそうな音がした。
 うっとりしながらも時計を見て茹で時間を確認する。まだ余裕があり、ホッと息を吐いて鮭をひっくり返した。
 鮭が焼き終わった頃にパスタも茹で終わり、俺は急いで鮭を皿に移す。

「……新品は違うなぁ」

 一つも焦げ付かないフライパンに小さく感動した。洗うのが億劫で、そのまま予め切って置いたベーコンを炒める。鮭とは違う、ベーコンのいい匂いが台所に充満する。
 また小麦粉を入れて、馴染んだら牛乳を少しずつ入れていく。粉チーズを入れて、塩胡椒もふりかけ混ぜていけばどんどんクリームがもったりしてくる。火を止めて卵黄を中に入れ、またどんどん混ぜていく。
 パスタを入れて混ぜれば簡単カルボナーラの完成だ。
 あとは適当に昨日使った野菜の残りでスープを作れば、今日の晩御飯は完成する。

 リビングのシャムスの元に向かい、料理を並べた。

「相変わらず美味そうだな」
「大したもの作れなかったが…フライパンのお礼だ」
「気にしなくてもいいのに、ハジメは律儀だな」

 そんな会話をしながら俺はスープに口をつける。ベーコンのあまりを入れたスープは野菜の味とベーコンの出汁が効いて、素朴ながら美味い。鮭のムニエルもソースをつけてないから物足りないが、普通に美味しいとは思う。
 カルボナーラも言わずもがな美味い。安いチーズでも味が濃いし、もったりしたクリームが最高だ。
 ちらっとシャムスに目をやれば、口元を緩めながらゆっくり咀嚼しながら食べていた。いつもぶっきらぼうな雰囲気のシャムスでも、いまは周りに花が咲いているように見える。
 その様子にホッとしながら無意識に俺も口元を緩めた。

「今回はパーティーだけのために来てるのか?」
「いや、それがメインだが外交のことで少しな…とは言っても、兄上は神子に会いたかったようだが」

 神子の名前を聞いて少し表情を曇らせる。あれ以降どうなったのかは知らないが、レイトンからは特に連絡はない。
 まあ、会ったとしても二度と関わりたくはない。話を聞けば、ダバルドンはアネストンからの輸入品を増やすみたいだ。何を輸入するのか気になったが、さすがに俺みたいな庶民には秘密らしい。
 小麦や野菜だったら嬉しいが、遠いから少し難しいだろうか。

「…兄上の機嫌がいいからまだ仕事がやり易いのは助かるな」
「どうして?」
「どうやらユージン国王陛下と神子が喧嘩をしているらしい…それに乗っかって兄上は神子を国に呼び込もうとしているんだ」

 馬鹿らしい、そう言いながら溜息を吐くシャムスはかなりお疲れのようだ。
 もしかしたら俺とのことで喧嘩でもしているのだろうか。神子は意外と俺のことを気に入ってくれているようだったし、何かしら国王と揉めているのかもしれない。
 揉めていようがどうでもいいことだけど…そう思いながら、カリカリベーコンを口に含む。
 疲れているシャムスが少しでも俺の狭い部屋でゆっくりしてくれたらいいな、なんて俺は思った。


 *


 シャムスはどうやら俺の家に泊まる気らしく、仕方なく風呂に案内した。狭い風呂に驚いていたが何とか我慢してもらう。
 シャムスが出て、俺もその後に続いて入った。何となく後ろの処理をしてしまった自分に嫌気が差したが、職業病だから仕方ない。

「シャムス、何か飲むか?大した酒もないけど…」
「いや、何でもいい…そんな気を使うな」

 申し訳なさそうにするシャムスは、同じ王族でもどこぞの国王とは大違いだな何て思ってしまう。俺は台所に収納棚を開けお酒を漁る。
 確か前に客から貰ったワインがあったはずだ。それを探して取ろうとすると、背後からいきなり抱きしめられた。
 ふわりと香る俺と同じ石鹸の匂いに胸が跳ねる。

「し、シャムス?」
「…早くこうしたかった」
「っ……!」

 耳の少し上から聞こえる低音に身体が少し震えてしまう。ワインから手を離し、前に回った逞しい腕に触れる。
 じんわりと熱い体温が掌に伝わった。

「ずっと…ずっとアンタに会いたかった。期待はしていたが、まさか本当に会えるなんてな」

 本当に嬉しい、そう呟く声に身体が少し熱くなった。思わず俺も…と返してしまう。
 いつの間にこんな色気を出せるようになってたんだ?前までは童貞ボーイだったのに…そう思うと少し悔しい。
 身体を背後に向けられ、シャムスの両腕が俺の身体を閉じ込める。壁ドン状態になって背中が棚に当たった。
 何故か熱気を感じて、じんわりと額に汗が滲む。

「俺は…」
「シャムス…っ」
「俺は神子じゃなくて、ハジメを持ち去りたい」

 苦しげに眉間に皺が寄り、黄玉色の鷹のような瞳から熱のこもった強い眼差しが俺に突き刺さる。
 今すぐにでも…そう囁いた後、シャムスの顔が左耳に寄せられる。ぬるついた溶けそうなほど熱い舌が俺の耳をいやらしく舐めていく。

「ぁっ、……ッ」
「ハジメ、ハジメ…っ」

 必死に名前を呼ぶ声を聞きながら、俺はシャムスの背中に腕を回した。


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