悪鬼様が通る

山の中にある全寮制男子校、花桐(はなきり)学園。

この花桐学園につい最近転校生がやってきた。
名前は唯山 春人(ただやま はると)。見た目はボサボサの黒髪で瓶底メガネ、BL小説界で言う王道転校生だ。

俺の読みでは唯山君はどうやらあんまり性格がよろしくないらしい。所謂アンチ王道君だ。
そんなアンチ王道君の同室者はだいたい平凡で脇役、しかも気が弱い生徒がなるのが定番だ。
ーーーまあ、テンプレ通りにそんな子が同室者になる、なんてことはないわけですが。

アンチ王道、唯山君の同室者になったのはこの学園では問題児中の問題児、金村 流鬼(かねむら るき)だった。
金村 流鬼は名前に鬼が入っているが、その通り鬼のような性格をしていた。あだ名は、悪鬼。
はっきり言って見た目は平凡だ、特徴があるとすれば天然パーマと身体が小さいことくらい。でも、性格は全く平凡じゃない、非凡だった。
基本無害そうな顔をしているが、口が悪くて、怒ると鬼の形相に変わり、気に食わなかったら暴力を振る。
身体も小さいし、堅いのいい奴からしたら何ともないんじゃ…と思うかもしれないが、金村の彼氏は学園で知らないやつは居ない不良クラスのリーダー、鷺沼 祟(さぎぬま たたる)だった。鷺沼はあり得ない位喧嘩が強く、更に実家は裏社会で有名なヤクザ。
だから、みんな手は出さない。出したら最後、鷺沼から100倍返しで報復されて、病院送りだ。


紹介が遅れたけど、俺の名前は中谷 三咲(なかたに みさき)。唯山くんと同じクラスで、BL小説界で言う所謂爽やか君だ。
因みにみんなに言っておくけど、俺は腐男子じゃないから。腐女子の姉の影響でこんなこと考えちゃうんだよね。
なんだかんだで、面白いから爽やか君続けてまーす。


今は食堂でみんなと昼飯食ってるんだ。みんなっていうのは生徒会と一匹狼不良と唯山君。
唯山君はオムライスを食べてるけど、食い方汚すぎてちょっと食欲失せる。
まあ、顔に出さずにニコニコ笑ってうどん啜ってるんだけどね。うん、美味い。

「春人はまだ同室者に会ってないのですか?」
「うん!なんか、全然帰ってこないんだよな」

副会長がそう聞きながら、唯山君の口の周りをナフキンで拭いてあげてる。ケチャップつけすぎでしょ、どうやって食べたらそんな汚れかたすんの?不思議すぎて、ウケるんだけど。

「まあ、俺の春人に害がねえから別に帰ってこなくていいけどな?」
「なっ、何すんだよ!」

会長が唯山君にキスした。食堂に親衛隊の悲鳴が響き渡る。
副会長や会計ががやがや会長に詰め寄る。
俺の横にいる一匹狼君は舌打ちした。された本人の唯山君は満更でもなさそうな感じ。
おもしろーいなんて思いながら俺はうどんを啜る。うん、美味い。

話を聞いてるとどうやら生徒会や唯山君は悪鬼、金村 流鬼を知らないらしい。
全然関わりないから仕方ないか、悪鬼がお世話になってるのは風紀だからね。

生徒会と唯山君のやり取りをニコニコ笑いながら見てると、食堂がやけに静まりかえった。
どうしたんだ、そう思って周りを見たら目立つ長身の男と小柄な男が食堂に入ってきたらしい。

ーー悪鬼と鷺沼だった。
周りも生徒会と唯山君じゃなくてその2人に視線を送っている。

「流鬼、何でも頼んでいいぞ?」
「んー…肉食いてぇ、肉」

生で見る悪鬼と鷺沼はやっぱオーラが違う気がする。何ていうか異質なオーラ纏ってるよ、この2人は。
俺は初めて2人を見るけど、鷺沼はあり得ないくらい男前だし、悪鬼は天然パーマの平凡にしか見えない。それにしても身長差がやばい、たぶん30cmくらいあるんじゃないのかな。
言い忘れてたけど、この2人は有名人だけどあんまり見かけないんだ。基本鷺沼の部屋かクラスにいるみたいだから。
だからこの状態はすごいレアなわけ、俺のテンションもだだ上がり。

今日は食堂来てよかったな〜、そう思いながらさり気なく生徒会を見るとみんな不思議そうな顔をして周りを見回していた。
そりゃ不思議になるか、あんな騒がしかった食堂がいきなり静かになったら。

「なんだ、あいつら…」

どうやら唯山君は興味津々らしい。鷺沼はすごい男前だし、イケメンレーダーが反応してんのかな。

「俺には劣るが、まあまあ美形だな」
「…鷺沼 祟ですか、穢らわしい」

会長は鼻で笑って、副会長は顔を歪めた。
唯山君は席を立ち上がり、メニューを見てる2人に近づいた。
生徒会も立ち上がりそれについて行く。俺は嫌な予感がして座ったままでいると、隣の一匹狼君は怪訝そうな顔をして俺を見た。

「…お前行かねぇのか?」
「うん、君もここに居たら?」
「……」

何かを察したのか一匹狼君も席に着く。
賢い判断だと思うよ、笑顔を送るとまた怪訝そうな顔をした。


「なあ!」

そうこうしてる内に唯山君が鷺沼に声をかけていた。鷺沼は気づいてないのか、無視してるのか悪鬼の肩に腕を回してメニューを見ている。

「なあってば!」

唯山君がもう一度声をはりあげると、鷺沼が振り返った。一緒に悪鬼も振り返る。

「…なんだお前」
「あんた、なんて名前なんだ?!」
「あぁ?」

鷺沼に顔を近づけて嬉しげに聞いてる唯山君。
悪鬼はイライラしだしているのか無表情だ。鷺沼は怪訝そうな顔をしている。

「名前教えてくれよ!!俺、あんたと友達になりたいんだ!」
「…なんだこいつ」

明らかに鷺沼は引いているし、悪鬼は明らかに怒ってる。生徒会は後ろで見守ってるし、なんか面白い。

「なあ…」

唯山君が鷺沼君に触れた瞬間、唯山君の悲鳴が食堂に響いた。
どうやら悪鬼が、熱々のお茶をぶっかけたらしい。
唯山君は呆然と座り込んでいた。

「汚ねぇ手で祟に触ってんじゃねーよ、クズ」

しまいに、悪鬼はその湯呑みを唯山君に向かって投げつけた。
派手に地面で割れたそれの破片が、唯山君の頬に赤い線をつけた。生徒会ははっとして、唯山君に駆け寄った。
鷺沼は面白そうに笑って、悪鬼の頭を撫で回している。

「…すっごい修羅場、ぶふっ!」
「なんで笑えんだ、お前…」

思わず吹き出していると、一匹狼君は信じれないものを見る目で見てきた。


「テメェ、春人になにしやがる!」

会長が悪鬼の胸ぐらを掴んで、怒鳴り上げる。

「そいつが祟に触ったからだよ!クソ野郎、死ね!」

悪鬼は思いっきり唾を吹きかけた。会長は一瞬動きを止めたが、顔を赤くして拳を振り上げた。
だけどその拳は悪鬼に当たらなかった。なぜなら、悪鬼が会長に平手打ちをしたから。

「カスの分際で粋がってんじゃねぇよ!!ぶっ殺すぞ、ゴラァ!」

逆に胸ぐら掴まれて、悪鬼にすごい怒鳴られてる。もう悪鬼の形相はまさに鬼、悪鬼だ。
会長は頬を押さえて、唖然としている。やばい、めちゃくちゃビビってるじゃん、会長。

鷺沼はケラケラ笑いながら悪鬼と会長を離れさせた。

「お前、生徒会長だっけか?顔腫れてんぞ」
「…何なんだ、一体」
「そりゃこっちのセリフだ。俺の嫁は怒りやすいからよぉ、あんま怒らせんな」

鷺沼は穏やかそうな笑みを浮かべながら、会長の胸ぐらを掴んだ。

「……テメェも流鬼に気安く触ってんじゃねぇぞ?次はねぇからな」

遠いからあんま見えないけど、ドスの効いた声が食堂に静かに響いた。
もう放心状態の会長を離して、イライラしてる悪鬼の肩に腕を回した鷺沼。

「じゃあ、その眼鏡にもよーく言っといてくれや」

鷺沼はひらひら手を振って、悪鬼と共に食堂を去っていった。
食堂はまたシーンと鎮まりかえった。


「いや〜、面白かった〜〜」
「お前何言ってんだ…?」


一匹狼は顔を青くしていた。
あれ、もしかして鷺沼にビビってるの?一応君、学校一の不良みたいな感じだったじゃん。
鷺沼いる時点で違うか。いや、鷺沼は不良じゃなくてヤクザだったっけ?ははっ!

姉ちゃん、あんまりこの学校来たくなかったけどさ…今ならはっきり言えるよ。


ーー王道、最高です!!!


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