前編

カタカタとタイプライターを打つ。できた書類の紙をペーパーナイフで素早く切り整え、尖った太めの針で左上に穴を開け、麻紐を通す。
無心で鮮やかに作業を繰り出し、それが終われば計算に見落としがないかを確認する。猫耳を頭から生やした男は大量の書類をさばいていた。
そして一息を吐き、手を止めた。

「ーーお昼、お先に失礼します」

その男の前に座っていた、同じく猫耳を生やした猫獣人は唖然としながら男が去る背中を見送った。

「す、すげぇ…」
「お前も同じネコ科なんだからユウキを見習ってしっかり働けよ?」
「無理っすよ〜〜!あんなん!」

隣に座っている犬獣人に言われ、猫獣人は首を横に降る。




スレナ国の首都、カルヴァンのカルヴァン中央ギルドで今有名な事務員がいた。それは、サノ=ユウキという小柄で地味な黒髪黒目の猫獣人。半年前に突如現れ、入社試験を全て満点で合格し、事務局では既に重宝されている男だった。

ギルド職員の噂の人物、ユウキはギルド近くにある公園のベンチに腰掛けた。仕事中の無表情とはうって変わって、ご機嫌な様子で巾着袋から小さい箱を取り出す。
蓋を開ければ、真っ白な柔らかいパンに色とりどりの野菜とハム、エビ、チキンなどを挟んだサンドイッチが入っていた。
ハムのサンドイッチを手に取り大口を開けた瞬間、隣に大柄の男が腰を下ろした。

「ーーバレスト事務局長」
「私もお昼を共にしてもいいだろうか?」
「はい、構いませんよ」

強面の表情を緩めた男は、凶器のような角を生やした牛獣人の水牛ーーカザル=バレストだ。バレストはユウキの職場の上司、事務局長をしている。
バレストはユウキの弁当箱を見て、感嘆の声をあげた。

「それは何というパンなんだ?とても鮮やかで綺麗だが…」
「サンドイッチというものです。具材をパンに挟んだだけの手抜き料理なんですけど、美味しいですよ」
「この前のオムライスと同じで、サンドイッチも君の故郷の料理なのか?」
「ええ、まあ…」

濁すユウキを不思議に思いながらも、バレストはサンドイッチに興味津々だった。
ユウキは内緒にしているが、異世界から来ていた。ある日、職場のハロウィンパーティ中にいきなりトリップをした。ユウキは動物のように耳も尻尾もなく、毛もほとんど生えていない人間だった。
だが、トリップした世界では町中の人々は頭から耳を生やし、尻から尻尾を生やしていた。またある人は鋭い爪を生やし、獣のような手足をしていた。そのほかにも、獣そのままで二足歩行であるく人も見つけた。
そんな獣人を見て、違う世界だとユウキはすぐに悟った。すぐに持っていたパーティ仮装用の耳や尻尾を付け、あっという間に世界に溶け込んだ。
溶け込んだと言っても獣人に比べると毛も少なく人に近い。かなり小柄で子供のような見た目のユウキは周りに驚かれていた。
子供に間違えられるが28歳成人男子、アラサーであるユウキは元事務員で簿記や書類整理などはかなり得意だった。タイピングも元の世界でのデジタル作業のおかげで、この世界の獣人に比べるとだいぶできる。そのため、大企業であるカルヴァン中央ギルドで就職することができた。
そんなこんなで、人間のユウキは猫獣人として働いていた。


サンドイッチを見つめるバレストにユウキは笑いかけ、照り焼きチキンサンドを差し出した。
バレストは頬を染め、目を輝かした。厳つい強面の水牛獣人がこんな表情をすることが面白く、ユウキは吹き出した。

「い、いいのか?私が頂いても…」
「はい。1番の自信作なんで是非食べてください」

バレストは、持つとオモチャのように小さく見えるサンドイッチを一口頬張った。
一瞬で幸せそうに頬を緩めるバレストに、ユウキは上げてよかったと内心喜んだ。

「…素晴らしく美味しいな。オムライスもそうだが、ユウキはかなり料理が得意なようだ」
「いえいえ!普通です、こんなの僕の故郷ではみんな作れますよ」
「そうなのか?君の故郷は素晴らしいんだな」

サンドイッチ如きで大袈裟な、ユウキはそう思ったが、かなり料理に慣れていた。仕事以外に特別趣味もない独り暮らしのアラサーサラリーマンは、必然的に料理に凝るようになった。謙遜しているが、料理が得意な主婦程度には料理はできる。

前の世界でも弁当を自分で作っていたユウキは、この世界でも平然と毎日昼食に弁当を用意していた。
先日、たまたま公園で一緒になり、オムライス弁当を一口分けてかユウキはバレストと共に昼食をとることが増えた。

「………」
「…あの、何か?」
「ぁ、いや…気にしないでくれ!」

ははは、と笑うバレストにユウキは首を傾げる。バレストは逸らした視線をもう一度隣に戻す。サンドイッチを上品に、美味しそうに小さな口で頬張るユウキに頬を染めた。
色が白く、触れなくてもわかるすべすべの肌。毛の少ないのが特徴の猿獣人より毛が少ないが、猫耳を生やした立派な猫獣人。地味だが素朴な顔も可愛らしい。奥二重だが大きく黒い瞳を持つ目。それを縁取る睫毛が長いことにも、バレストは最近気づいた。

そう、ユウキの上司…カザル=バレスト35歳はユウキに恋心を抱いていた。




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