憐れな一族

 
 とある田舎村には立派な日本屋敷が建っていた。そこに住んでいたのは土地の地主でもあり、機械の部品製造を行う工場を持つ河上家である。この家には当主の河上敏信、先代当主である河上敏寿がそれぞれ妻と共に暮らしていた。息子の信幸は都会で一人暮らしをしている。


 *

「信幸、いい加減嫁を決めたらどうだ?親父が…先代が死んでもう一年も経つんだぞ」
「俺はまだ21です。まだ会社でも成績を残せていないし、結婚なんて…」

 敏信は呆れたように溜息を吐き、おちょこに口をつけた。俺が20そこらの時には既にお前を産んでいたぞ、そう思ったが口にすることはなかった。信幸は居心地が悪いのか何度か胡座を組み直している。
 一人息子の信幸は敏信の友人の会社に就職し、営業として働いていた。ある程度実績を積めば、こちらに戻り敏信の下で働くことになっていた。

「まあ…信幸さんも気にいる子が見つかれば、すぐに籍を入れたいとおっしゃいますよ」
「母さんまで…やめてくれ」
「信幸さんはお休みだけど、貴方は仕事で朝早いんでしょう?今日はこの辺でお開きにいたしましょう」

 信幸は有給を使い1週間ほどこの家に戻ってきていたのだ。父によく似た顔を何か言いたげに歪め、目の前にいる父を見つめる。結局信幸は何も言わずに居間から出て行った。その様子を見て敏信は形の良い眉を片方だけ少し上げ、小さく息を吐いた。徳利に残った最後の酒を注ごうとする妻を手で制して、敏信は立ち上がる。

「…どこに行くのです?」
「まだ仕事を残しているからな、書斎に戻る。お前は先に寝ていろ」

 寂しそうに頷いた妻を無表情で見下ろし、敏信は居間から出る。その足で厨房に向かい、使用人に声をかけた。使用人は何も言わずお盆を取り出す。そこには夕飯に出た、煮魚と味噌汁、小鉢に野菜のお浸し。少しだけの白飯が乗っていた。
 敏信はその全てを一口ずつ摘み、満足気に頷いた。お盆を受け取り敏信は外に出る。
 広い敷地内を進んでいくと、中庭を抜け離れの側にある蔵の前で足を止めた。離れには信幸が泊まっている。チラリと目線を向け、灯りが消えていることを確認し、敏信は一度お盆を下に置き懐から鍵を取り出した。
 音を極力出さないように静かに鍵を開けて、扉を横にずらした。古い扉が擦れる音が少しだけ辺りに響いたが、気にせずお盆を持ち中に入っていく。
 敏信は用心深く、内側からまた扉に鍵をかけた。

 壁際に置いてある蝋燭に火をつけると、慣れた足取りで蔵の中を歩く。本や骨董品が乱雑に置かれた蔵の中は埃臭く、蜘蛛の巣も至る所に張ってあった。敏信が奥にある棚をずらすと、下へと続く階段が現れた。
 その地下から微かに聞こえる鼻歌に口端を緩め、敏信はその階段を下って行った。


「ーー三葉」
「あっ、やっと来た!遅いよ、俺お腹空いてもうぺこぺこなんだ」
「すまんすまん、悪かった。今日はお前の好きなキンメの煮付けだぞ。これで勘弁してくれないか」

 牢にいる見窄らしい男が敏信を見るなり嬉しそうに声を上げた。敏信は牢の鍵を開けて中に入ると男の前にお盆を置く。男は起き上がり、いただきます!と言ってから食べ始めた。
 敏信はその様子を愛おしげに見つめながら、男が口端を汚す度に手拭いでそれを拭った。
 男は三葉という名前である。見た目は特筆する箇所もないほどごく普通の青年であった。強いて上げるなら、そこらの女性よりも透けるように肌が白く整っていることだろうか。
 目も鼻も口も、パーツは整っているはずなのに配置があまりにも収まりが良すぎるのか、特徴が何一つない。言わば記憶に残らない顔なのだ。
 しかし、三葉には他の人間が持っていないものを持っていた。それは前髪に隠れている額にもう一つ目玉があることだった。三葉は人間ではない。遥か昔からこの屋敷、いや村に住まう妖怪だった。
 敏信はこの妖怪を地下牢に閉じ込め、食事を持ち込み世話をしていたのだ。

 すぐ無くなった盆を下げて、敏信は三葉を抱き寄せた。真っ黒の髪に頬を寄せ、髪の間から見える耳に舌を這わせる。風呂に入っておらず、たまに湯で身体を拭うだけなのにこの妖怪からは甘い菓子のような、乳飲み子のような香りがしていた。敏信は昔からこの甘い香りを気に入っており、よく嗅いでいた。
 三葉はそんな男の行動に身体を震わせて、敏信が着ている紺色の着流しを甘える様に握った。

「…今日もするのか?」
「あぁ…お前が欲しくて仕方がないよ」

 冷んやりとした三葉の肌は敏信が触るとすぐに暖かくなっていく。自身の指や唇、舌で触れるたび乱れる妖怪の姿に敏信の身体もどんどん、熱っていく。
 長い前髪から覗く額の真ん中にある瞳も、両の目と同じようにとろんと溶けて潤んでいた。敏信はそこに舌を伸ばし、飴玉を舐めるようにいやらしく舌を這わした。くすぐったいのか気持ちがいいのか、三葉は身体を震わせて涙を流した。
 三葉が身動ぎを繰り返すからか、着ている浅葱色の着流しが肩からずり落ち、骨ばった華奢な肩と背中が露わになる。透き通る肌が橙色の火の灯りに照らされ、艶かしく映った。

「あっ、ぅ…だめ、あぁっ、ひ、…っ」
「だめじゃないだろう?お前のここは俺のマラを締め付けて喜んでいるぞ」

 意地悪く言葉で詰れば啜り泣くような喘ぎ声がより酷くなり、身体が痙攣するように震えた。執拗な愛撫の後、敏信は自身を男の尻に挿入し、何度も何度も犯した。三葉はすでに数回果てており、乱れた呼吸音と甘い嬌声を牢に響かせていた。
 妖怪の薄い腹には飛び散った体液で小さな水溜まりができている。それを見て敏信はいやらしい笑みを深めた。
 背後から犯すように体制を変え、小ぶりな尻たぶを両手で掴みグッと開く。赤く腫れた後孔は皺を目一杯伸ばし、狂気のような太く長い性器を飲み込んでいた。敏信が腰を引けば捲れ上がり吸い付くそこは酷く淫らで、男の情欲を煽った。

「おぉっ、ぉ、ああっ、あ…っ!もう、壊れちまうよ、おれっ…ひぃいっ、あぁっ、こわれりゅ…っ」
「っ、ぐ…壊れてしまえ、はぁ…っ、早く俺の元に堕ちてこい…!」

 膨れ上がった亀頭がぐぽぐぽと何度も最奥を貫く。三葉はその暴力的なまでの快感に目を見開き背を弓形にそらした。悲鳴のような声を上げると、プシュッと何かが噴き出す音が耳に入る。敏信はそれが何なのか気づき、口端を歪ませた。腰をより激しく打ち付け、結腸に先を嵌めた熱い精液を注いだ。

「ぉ、お、っ…は、ぁ…っ」

 性器を抜き、腰だけを高く上げた男を見下ろす。ぽっかりあいた尻からは大量に吐き出された白濁液がトロトロと溢れ出していた。愛しい妖怪は目を虚にしながら時折身体をびくつかせている。
 脚の間にある性器は力なく垂れ下がっているのに、地面には吐き出した精液でシミを作っていた。その様子に己の奥にある加虐心を擽ぐられた敏信はその尻に手を振り下ろした。

「ひぃいっ、や、っ、ああっ!」
「嫌じゃないだろう、尻を叩かれて気をやっている癖に」

 尻を強く打つ度に、垂れた性器から透明な液がプシュップシュッと噴き出していた。敏信の言う通り三葉はイッていたのだ。潮を壊れたように噴き続ける三葉の痴態に堪らなくなった敏信は、その身体を抱き上げまた淫らな穴に性器を突き入れた。


 *



 敏信がその妖怪を見つけたのは7歳の頃だった。父親と母親が住む本邸に向かう途中、庭で遊んでいる男を見つけたのだ。その庭で遊んでいた男こそ、三葉であった。
 声をかけ、振り向いた顔の額にある目を見て敏信は酷く衝撃を受けたことを覚えている。

『何だ、お前は俺が怖くないのか?』
『うーん、そんなに怖くない』

 熊のように大柄な父親と比べると目の前の細身の妖怪は貧弱そうに見えた。敏信の父は厳格で躾と称して殴られることもあったのだ。三葉になら勝てると確信した少年は物怖じしない態度で妖怪に接した。三葉はそんな少年を見てケラケラと笑い声を上げた。

『敏寿と同じこと言うんだな、あぁ…お前はあいつの子供か!』
『お父さんを知ってるの?』
『うん、俺もここに住まわせて貰ってるから』

 三葉は敏信が生まれるずっと前からこの家に住んでいたらしい。敏信は三葉を見たのはこれが初めてで、ここまで出会わなかったことを不思議に思った。妖怪がどこに住んでいるのか気になってしまい尋ねると三葉は曖昧に言葉を濁しただけだった。
 それ以降、敏信は家で三葉を探してはよく遊ぶようになった。家柄もあるのか敏信には友達がおらず、三葉が唯一の友達だった。実年齢は不明だが、大人に見える妖怪。それでも明るく人懐っこい性格の三葉は喜んで幼い敏信と遊んでくれた。


 敏信が中学に上がったころ、三葉との関係に変化が起こった。とある日の夜、目が覚めて喉が渇いた敏信は本邸にある厨房へと向かっていた。冷蔵庫を開き、麦茶を注いでいると廊下の奥にある両親の寝室から言い争う声が聞こえた。その声の主は父と母で、気になった敏信は寝室の襖へと近づいた。

「私は必要ないのですか?女として見れないのですか…っ」
「後継はもう出来ただろう、無理に子を作る必要はないんだ。それに俺はお前の身体に負担をかけたくはない」
「そんな体のいい事を言って、私を抱いてくれないのですね…私は知っているんですよ。貴方が…夜な夜な、あの蔵で…っ」
「ーー妙子、お前とこれ以上話す気はない。そんなに抱いて欲しいなら明日抱いてやる。もう寝なさい」

 父は冷たくそう言い放ち、眠ったのか部屋からは母の啜り泣く声だけが聞こえた。父が母に対しどこか冷めた態度で接するところを何度か見たことがある敏信は、母の泣き声に胸を痛めた。
 暗い気持ちになりながら離れへと戻ると、大きな蔵が目に入った。先程母が言っていたのはこの蔵なのだろうか、一つだけある格子がついた小さな窓は真っ暗で、不気味な雰囲気を醸し出していた。怖いと感じたが、敏信は蔵の入り口に近づき扉に手をかけた。鍵がかかっていてその扉が開くことはなかった。
 敏信はホッと息を吐き、その日は離れへと戻った。

 そこから数日が経ったある日、また夜中に目が覚めた敏信は厨房に水を飲みに向かった。その時、ふと目についた蔵の扉が小さく開いていることに気が付いた。どくりと心臓が大きく動く。引き寄せられるように敏信はそこに足を向けた。
 扉を開けて恐る恐る中へと入る。真っ暗で殆ど何も見えないが、棚や壁に手をついて何とか蔵の中を進んでいく。
 そして奥に見つけた小さな入り口。覗き込めば地下へと続く階段があった。

「………っ」

 ドクドクと気がおかしくなりそうなほど、自身の鼓動の音が耳元で聞こえていた。呼吸音も足音も殺し、ゆっくり慎重に階段を下る。
 ーー秘蔵の宝でもあったらどうしようか。敏信の中にそんな淡い期待が階段を下りるたびに膨らんだ。宝があれば少しだけ盗んで部屋に隠そう、そう思うと無意識に口角が吊り上がっていく。
 階段を降りた先に見えたのは木の格子で区切られた牢であった。
 その牢の中で行われている光景を見て、敏信は大きく目を見開いた。


「あっ、はぁ…っ、としひさ、もうやめて…んっ、あぁっ」
「まだだ…今日は香油を切らしてる。後で泣くのはお前だぞ、三葉」

 体格の良い男が細身の男の脚を持ち上げ、股に顔を埋めていた。敏信は声が出そうになるのを必死に堪えた。陰嚢の下…尻を舐められ、女のような声をあげているのは妖怪の三葉で、その尻を舐めているのは自分の父親である敏寿であった。
 くちゅっ、じゅるるっと何かを吸い、啜る音が響いている。その度に三葉が甘い声を出していた。敏信はその嬌声を聞いて、全身から汗が噴き出していくのを感じた。

「だめ、だめ…っ、出るから、あぁっひ、ぃっ、いく、いく…っ!」

 三葉は全身を大きく震わせて、亀頭から白濁した液を吐き出した。目を虚にしてはくはくと浅い呼吸を繰り返す妖怪を見て、敏寿は下唇を舐めた。着流しを緩め、臍につきそうなほど大きく勃起したモノを取り出す。敏信は自身の父親の通常時のマラは見たことはあるが、あそこまで大きくなっているところは見たことがない。
 敏信はごくりと生唾を飲み込んだ。淫猥な空気が地下に充満している。
 青臭い匂いと、妖怪の甘い香り。

 細い腰を掴み、敏寿はそれをゆっくり挿入していった。妖怪の小ぶりな尻と父親の逞しい腰がくっついた瞬間、三葉のマラから少量の液が噴き出した。精悍な顔を厭らしく歪めた敏寿は腰を大きく引き、勢いよく中を突いた。

「お"っ、おぉっ〜〜〜〜っ!」

 三葉が獣のような声を出した瞬間、敏信は全身を震わせた。身体の奥が沸騰するように熱くなり、褌の下にあるマラが痛いほど膨張していた。
 身体を痙攣させ、白い肌を桃色に染める妖怪から目が離せなかった。
 敏寿は気をやっている三葉を起こし、膝の上に乗せるように抱えた。膝の下に腕を入れて、激しく下から突き上げる。崩れ落ちそうな三葉の腕を自身の首に回させると、三葉はその逞しい肉体に縋りついた。

「あWっ、あWぁっ、あ、ひぃっいっ!ふか、っ、ふかい、よ、ぉ…っ」
「は…っ、はぁ…深いのが、好きだろう…っ、ほら、ここだ」
「ひぎっ、ぃっ!?や、ぁぁっ、あぁっ、〜〜〜〜っ!」

 大きく突き上げた瞬間、ドチュッと肌が大きくぶつかる音が聞こえた。三葉は透明な液体を敏寿の腹筋にぶっかけて何度も達している。子供のように漏らす妖怪に興奮したのか、敏寿は貪るようにその唇を塞いだ。こもった甘い声、激しい挿入音、厭らしい水音。何もかもが敏信の情欲を煽り、燃え上がらせた。

「ふ…っ、……ふ、……っ」

 気づけば敏信は褌からそれを取り出し必死に扱いていた。三葉と父親の痴態を食い入るように見つめながら。二人の性行為はどの成人雑誌や春画よりも厭らしかった。
 父親は暫くすると呻き声をあげて腰を震わせた。何度か緩く中を突き、ゆっくり引き抜く。ぐぽっと空気の抜けた音を出した後孔は、ぽっかりと口を開け粘度の高い白濁液を溢している。

「………っ!」

 敏信も息を詰めて、手の中に精を吐き出す。もう自分が三葉の中に出したかのような気持ちになっていた。熱に浮かされた瞳でジッとひくつく穴を見つめる。敏寿はまだ硬い自身を扱きながら三葉を四つん這いにさる。背後から挿入された三葉は首を逸らせて淫らに舌を突き出した。

「あ"、ぁ"っ?ん、ぁっ、お、ぉっ、ひ、ぃいっ!」
「……ぁ」

 階段の方を見た三葉と敏信は目が合った。敏寿の目には階段の影の暗がりにいる敏信を見つけることができないが、妖怪の三葉には敏信の姿が見えるようだった。一瞬驚いたような顔をした三葉だったが、激しく後ろを犯されると破顔して喘ぎ出した。
 三葉にバレて怖くなった敏信は震える脚で立ち上がり、音が立つのも気にせず階段を駆け上がった。
 離れに戻った敏信は布団に潜り、硬く勃起したそれを必死に擦り上げた。

「うぅ…っ、はぁ、ぁ…っ、三葉…、三葉…っ」

 三葉が敏信の下ではしたなく、淫らに喘いでいる。何度も小便のような液を噴き出しながら、俺のものを咥えて…そんな妄想が頭から離れなかった。
 結局その日、敏信は空が白くなる頃まで自身を慰め続けた。


 *



「あ、助平小僧の敏信だ」

 学校が早く終わった昼間。敏信が中庭を歩いていると背後からそう声をかけられた。その声にビクッと肩が震え、心臓が煩いくらい音を立てている。
 敏信が恐る恐る振り返ると、緩い着流し姿の三葉が立っていた。その顔は悪戯な笑みを浮かべている。

「あの後お前の父ちゃん吃驚してたぞ?覗き見してたのバレたかもな」
「う、うるさい!淫乱妖怪め!」
「おぉ?そんな破廉恥な言葉知ってるなんて、いけない子供だねぇ」

 三葉はニヤニヤと笑いながら面白おかしく敏信を揶揄った。顔を赤く染めて黙り込む少年をジッと見つめた妖怪は口角を上げたまま口を開く。

「悪かったよ、あんな姿見せちまってさ。俺が怖くなったか?」

 ーーそれとも、お前は父ちゃんみたいなことしたいのか?
 耳元でそう囁かれ敏信は身体を大きく震わせた。冗談のつもりだった三葉は湯気を出しそうなほど顔をより一層赤くした少年の姿に目を瞠る。
 そして少年が学ランの裾をさり気なく下に引っ張ったのを見て、ふっと優しい笑みを浮かべた。

「俺のせいでもあるからな…それ、慰めてやろうか?」
「……なにを、言ってるんだ」
「敏信のしたいことしてやろうかって意味だよ」

 三葉の言葉に敏信の心臓はもう破裂しそうだった。父親によく似た切れ長の、しかしまだ幼い潤んだ瞳が物言いたげに妖怪を見つめる。三葉は少年の腕を掴み、蔵へと歩き出した。



 蔵の地下牢へ連れられた敏信は噤んでいた口を開く。

「なぁ、三葉はここに閉じ込められているんじゃないのか?何で屋敷を出歩いてるんだ」
「敏寿は優しいからたまに鍵を開けていてくれるんだ。お前もまだ小さいし、間違いが起こることはないって思ってるんだろうなぁ」

 ーーまあ、もう起きちまってるけど。三葉がボソリと呟いた言葉をその時の敏信は理解することができなかった。でも、大人になってその言葉の意味を理解した。
 父親は自分の息子がこの妖怪に欲情してしまうかもしれないと思っていたのだ。だから幼い内は妖怪を見てしまっても問題ない。何故敏寿がそんなことを危惧しているのかさえ、この時の少年は知る由もない。

「流石、あの親父の息子だな。子供のくせにデカい」
「うるさい…っ、父上と比べるな」

 スラックスを脱がすと、褌の布を押し上げているものが露わになった。幼い少年の身体からすると不釣り合いな大きさのそれは、大人顔負けであった。
 三葉は褌を緩めて、硬くなった竿を取り出した。まだ皮の被った陰茎が空気に触れて小さく震える。

「ちゃんと剥かないと…人間はここにも汚れが溜まるらしいぞ」
「いっ…た…、何するんだよ!」
「父ちゃんに皮の中もちゃんと洗えって教えてもらわなかったのか?」

 先っぽの皮を下に引っ張られ、そのピリッとした痛みに敏信は顔を歪めた。雁首が露わになり、そこには白い垢が着いていた。三葉は竿を掴むとそのまま長い舌で垢を舐めとった。
 生暖かい舌の感触、時折ちゅうちゅう口付けるように吸われて、敏信は腰が溶けそうになった。

「…ぁ、…っ」

 何だ、これ…っ、初めての感覚に思わず声を上げた。止めなければ、そう思うのに敏信の手は妖怪の髪を掴み腰を揺らしてもっとと強請ってしまう。
 そんな少年の様子を三葉は目を細めて見つめ、口の中にそれを咥え込んだ。

「ふ…っ、ん、…ん…っ」

 じゅぽじゅぽと音を立てて舐める舌と唇。三葉の頬が吸い付くたびに凹み、時々こちらを見上げる。敏信はそのいやらしい様を熱に浮かされたように見つめた。ふと視線を下に向けると着流しの襟から覗く淡い色合いの突起が目に入った。ピンッと立ち上がっているそこへ誘われるように手を伸ばす。

「んぅ!?んっ、ふ、ぁ…んぅ、んっ」

 三葉は乳首を捏ねられると先程の余裕をなくし、咥えながら甘い声を漏らし始めた。爪先で引っ掻いて、中指と親指で挟んで扱けば三つの瞳を蕩けさせた。そんな妖怪の痴態に敏信の興奮もどんどん高まっていく。

「ん"んっ!んぁ、っ、は、ぁ…っ、ぁ〜〜〜っ!」

 ギュッと両方の乳首を強く引っ張れば、三葉の身体は大きく震え、マラから口を離した。まだ敏信を気持ちよくしようと思っているのか、だらしなく舌を出して亀頭を舐めている。
 ビクッビクッと痙攣させながら達している妖怪の何と淫らなことか。敏信は先を舌に擦り付けたまま竿を激しく擦り上げた。
 ビュルッ、ビュルルルッと、もったりとした大量の精液が破裂するように三葉の舌と顔に吐き出される。

「ぁ…んっ、ん……っ」
「は…っ、は、ぁ……っ」

 三葉は亀頭に唇を付け、チュッチュっと音を立てながら鈴口に残った子種を吸った。その様子を息を乱しながら見ていた敏信の下腹部はまた熱を集めていく。
 敏信は優しく三葉の頭を撫でる。そのまま長い前髪をかきあげて、潤んだ三つの瞳を見下ろした。

「んぅ…っ、このすけべ小僧め…」

 勃起したそれを顔に擦り付けられ、妖怪は小さくそう呟いて無邪気に笑った。
 この日を際に、敏信は三つ目の妖怪と淫らな遊びをするようになった。



 *


 敏信が18歳になった頃、見合いの話があった。三葉のことを好いていた敏信は勿論断るつもりでいた。しかし、それはできなかった。
 ある日、父・敏寿の書斎に呼び出された敏信は父から聞かされた言葉に唖然とした。

「お前が妻を娶り、子を成せば三葉を譲ってやろう。だが、それを断ると言うのであれば今後一切の接触を禁ずる」
「っ、そんな…俺は三葉以外を好きになれない。三葉じゃないと駄目なんです」
「妻を愛する必要はない、子供を作ればそれでいい」

 敏寿はそう言うと、三葉の名を呼んだ。書斎の奥にある扉から三葉は顔を覗かせると、気まずそうにそのまま父親の元へと近寄っていく。
 三葉の艶やかな黒髪を優しく撫でながら、敏寿は続けた。

「私もそうだった…三葉以外の者を抱くことなど出来ぬと思っていた。それでも親父が子を成せば三葉を私にくれると言ったんだ」
「爺、さま…が…?」
「親父の先代も、またその先代も…どうやら私達一族は三葉に魅了され、三葉を褒美に子孫を残してきたらしい。全くイカれた習慣…狂った一族だ」

 信じられない事実に敏信は言葉を失った。
 そんな…ありえない。こんな事があってたまるか…!激情が敏信の頭の中を支配していく。拳を握り締め、下唇を噛み、怒りに震える敏信を妖怪は悲しそうに見つめた。敏寿から離れた三葉は力の入った拳にそっと手を伸ばした。

「ごめんな…敏信。全部俺が悪いんだ」
「っ、三葉…、俺はお前がいい。お前と一緒に居たいんだ。他の女を抱くなんて出来るわけがない」
「ごめん、ごめ…っ、ぁ…っ」

 泣きそうな顔で何度も謝る三葉の着流しが、肩からするりと落ちた。敏寿がニヒルな笑みを浮かべ、背後から三葉の薄い胸を揉む。次第に薄桃色の突起が赤く色付き始め、尖り切ったそれをキツく摘んだ。
 頬を赤らめ小さく喘いでいる妖怪を見て、敏信は息を呑んだ。思い出すのは父の下で喘ぐかつての姿だった。

「ほら…三葉が欲しいくないのか、敏信。妻を娶れ、さもなければ此奴はやらんぞ?」
「ぁ、あっ、としのぶ、っ…ん、ああっ、ぁ…っ」

 いやらしく三葉の耳を舐める父親を憎しみを宿した瞳で睨みつけ、敏信は三葉の股の間に手を差し込んだ。小ぶりなマラから出ている先走り汁を指に纏わせると、そのまま奥へと手を伸ばす。窄まりを撫でつければそこはヒクヒクと収縮した。
 苛立ちに任せて、中指をグッと押し入れると三葉は甲高い悲鳴をあげた。

「…約束ですよ、父上。必ず三葉を貰いますから」
「くく…っ、お前が務めを果たせばな」

 その日以降、敏信が妻を娶り子を産むまでの間。お互いが決めた日に譲り合って三葉を抱いたが、父と息子、二人で三葉を抱く日もあった。
 それは敏信も、敏寿もかつての父がこの淫らな妖怪を抱いている姿が忘れられなかったのだ。


「あぁっ、ぁ…っ、ちくび、だめ…っい、ぁっ、あぁっ!」

 赤く膨張した亀頭がずりずりと三葉の乳首を擦り上げる。年老いてもなお、敏寿のマラは硬く先走りを溢していた。そんな父親の様子に呆れながら、敏信は力強く腰を突き上げた。

「乳首でセンズリこかれて善がって…、どこまで淫乱になれば気が済むん、だ!」
「おWぉWっ!ぉ、あ、あぁっ、らって、乳首、っきもち、ぃから、っふ、あぁっ!」
「敏信のちんぽより私のちんぽがほしいんだろう?だからこんなひんひん鳴いているんだ」

 父親の言葉に苛ついた敏信は三葉の腰を掴み、激しく突き刺した。最奥の行き止まりにめり込み、薄い腹がぽこっと膨らんだ。三葉は痙攣したように何度も身体をビクつかせて、性器から白濁液を吐き出した。
 そんな姿を見て笑みを深めた敏寿はより乳首にマラを擦り付ける。前と後ろ、どちらも激しく責められている三葉は涙も涎も垂れ流して喘いだ。

「ひっ、ぐぅ、っぁ、ぁ…っ、あ…っひ、っ!」

 敏信は結腸に先を嵌めたまま、敏寿は乳首を鈴口に嵌め込むようにして射精した。びゅっ、びゅーっと熱いものが身体の中と外にかかるのを感じながら、妖怪は何度目かの中イキをし、力なく垂れたマラから小便のような液を噴き出した。


 *


 湿気の多い夜。真っ暗な中庭を敏信はゆっくり歩いて行く。離れに目を向けると窓には仄かに明かりがついていた。わざと音を立てるように鍵を開け、南京錠を下に落とした。そのまま少しだけ扉を開けたままにして、敏信は蔵の中へ足を踏み入れる。

 敏信は幼い息子に自分の愛しい妖怪を見せたことはない。それはかつて自分がしたように、勝手に三葉に手を出されたくないという独占欲からだった。
 でも、その独占欲ももうすぐ手放さないといけない。一族の子孫を残すため。三葉をこの家に縛りつけるため。

 その日の夜、敏信は三葉をいつもより激しく犯した。三葉が獣のように喘ぎ、潮や尿を垂れ流すまで執拗に何度も何度も抱いた。後孔の縁から溢れ出るほど大量に種付けをした。

 暗闇の奥で地下牢を見つめる熱い視線を感じながら、敏信は腕の中で意識を失った妖怪に優しく口付けを落とした。敏信と三葉の荒い呼吸音、それにもう一つの呼吸音が混じっていたのはきっと気のせいではないだろう。




 *




 遠い昔、この村にはある祭りがあった。土地の神様に子供の生贄を差し出し、村の繁栄・豊穣を祈るのだ。勿論、本当に生贄に差し出しはしない。
 さらに昔は本当に生贄として子供を差し出していたのだが、この数が少し減ったこともありその行いはいつしかなくなった。

 この年は村の村長の息子、トシゾウが生贄役として選ばれた。トシゾウは祭りの日、山奥にある祠の中で三日間過ごすことになった。
 そこでトシゾウは不思議な少年と出会うことになる。

『ねぇ、おまえって人間?』
『そうだよ。君は…人間じゃないの?』

 トシゾウは祠の中でいきなり声をかけられ、そう答えた。目の前に現れた少年は見たこともないほど綺麗な白い肌をしており、思わず触れたいと思ってしまう程だった。
 しかし、少年は人ではない形をしていた。額に目があったのだ。二つの目と連動して瞬きをするそれを見つめながら、トシゾウは再度何者なのかと尋ねた。

『おれは…何なんだろう。わかんないや』
『そうなの?じゃあ名前は?』
『名前?そんなのない』

 じゃあなんて呼べばいいの?そう言うと、三つ目の少年は何も言わず困ったように笑みを浮かべた。トシゾウはそんな少年の元へ近寄りジッと顔や身体を見つめた。少年は涼しげな浅葱色の浴衣を着ていた。

『三葉ってどうかな?三葉もきみの目みたいに三つあるし、浴衣も緑色だから』
『へぇー…三葉かぁ、いい名前かも!』

 少年は頬を赤らめて心底嬉しそうに笑った。その笑顔を見て、トシゾウの胸は何故か切なく傷んだ。その痛みを不思議に思いながらも少年と他愛もない会話を続ける。

 その日の夜、持ってきた芋餅を分け合って二人で食べる。この頃には二人の距離は大きく縮まっていた。

『おれ、トシゾウのこと好きだなぁ』
『おれも三葉のこと好きだよ。お嫁さんにしたいくらい』
『へへ…うれしいけど、おれ男だから子は産めないんだ』

 だから嫁にはなれない、それを聞いたトシゾウはきめ細かい柔らかな白い肌に手を伸ばした。吸い付くような肌はトシゾウの身体の奥を熱くさせていく。村の女子よりも綺麗な肌だった。
 三葉はいきなり体に触れてきたトシゾウに目を瞠りながら、時折擽ったそうに身を捩る。

『なら、子は他の女子に産ませるよ。それならおれと一緒にいてくれる?』
『でも、嫁はひとりだけだろう?おれは…』
『嫁じゃなくていい…ずっと、そばにいてほしいんだ』

 トシゾウは赤く染まった頬に口付けを落とした。大人がしていたことを見様見真似しただけだが、胸の中が満たされたような気持ちになった。昔嗅いだことのある甘い香り。
 トシゾウは幼いながらも三葉に欲情し、三葉を自分のものにしたかった。

『神様にお願いしたら、きっと叶えてくれるよ。村のこともお願いしなきゃいけないけど、おれたちのこともお願いしてみよう』
『いいのかな…トシゾウ、バチ当たったりしない?神さま、結構こわいんだ』

 三葉はかつて一度だけ会ったことのある神を思い出し、顔を曇らせた。やんちゃな三葉は山で悪さをして一度こっ酷く怒られていたのだ。
 そんなことがあったことも知らないトシゾウは大丈夫だよ、と優しく微笑んだ。
 そうして二人は三日間神に祈り続けた。

 村がこの先もずっと繁栄し続けますように。
 ずっと二人で一緒にいれますように。

 そして、欲深いトシゾウは自身の一族の繁栄も祈ったのだった。それが歪みを産むとは知らず、ただ純粋な気持ちで祈りを捧げた。

 三日目の夜が過ぎ、朝になるとそばで寝ていたはずの三葉の姿が消えていた。祠中を探し回ったが見つかることはなく、父親が迎えに来るまでずっと三葉の名を呼び探し続けた。

 三葉がいないことが悲しくて家に帰ったあともトシゾウは泣き続けた。次の日の朝、トシゾウは誰かに身体を揺すぶられ目を覚ます。

『ーートシゾウ!ここってトシゾウの家?』

 元気に笑う三葉が目の前にいて、トシゾウはその小さな身体を抱きしめてまた泣いた。








 自身の上に馬乗りになってきた男を見上げ、妖怪は幼い頃の出来事を思い出していた。あの日から何百年もの間、一人の『男』を一途に愛し続けている。
 涼しげな切れ長の双眼。意志の強さを表している太く形の良い眉。骨ばった男らしい輪郭。高く美しい鼻に、厚く大きな唇。この精悍な顔が堪らなく好きだった。
 傲慢で自信家なのに妖怪が怒った時や泣いた時には引っ付いて離れない。甘く優しく可愛がって、人間じゃない自分だけを一途に愛してくれた。かけがえのない、存在。

 呪いのように『男たち』は自身と似た息子を産み、その息子も自身に似た息子を産んで、その連鎖がもう何百年も続いていた。
 それでも、だからこそ、妖怪はこの『男たち』から離れられずにいた。幼い頃とは違う、成人して何百年も生きた妖怪だ。これが良くないことだと理解しているのに、手放せない。突き放すことができない。

「お前…っ、父さんの何なんだ」

 太く逞しい腕が妖怪の二本の腕を纏めて縛った。熱い吐息に当てられて、冷たい身体の奥底からどんどん熱が膨らんでいく。
 妖怪から漂う、誘うような甘い香りが男の鼻腔を擽った。鋭い瞳により一層熱が籠る。


「俺は三葉だよ。お前は敏信の息子だな?」


 妖怪は頬を赤らめて無邪気に笑う。何も知らない子供のように振る舞い、甘く淫靡な糸を憐れな男へ垂らすのだった。

 ーーそして、また性懲りも無く…繰り返す。




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