淋しい獣の檻
ーーー私はあの日罪を犯しました。
幼い頃から神の教えに従い、神を信仰し、神に全てを捧げていた私は、牧師であった父が亡くなったあとその教会を貰い受け牧師になりました。
聖職者の私ですが、普通に恋をして人を愛します。昔から同じ性別の男性にしか恋愛感情を抱けませんでしたが、これは神の教えに逆らってはいません。神は同性愛者も異性愛者も愛を持つものとして受け入れてくれていました。
村のある美しい青年に私は恋をしていました。何年も何年も、彼に想いを伝える勇気がない私はただその姿を遠くで見ていただけでした。
しかし、ある日彼には恋人ができました。その相手はつい最近引っ越してきた可愛らしい少年です。凡愚でその少年のように美しくない私は哀しい気持ちに蓋をするつもりでいました。
なのに、あの夜私は見てしまったのです。少年が別の男性と愛し合っているのを。
私の教会は広い庭があり、昼は子供達や神に祈りを捧げる人々が訪れますが夜は誰も人がいません。静かで誰にも見られることはないと思っていたのでしょう。
愛し合うその2人を見て酷い憎悪と吐き気を催しました。彼に告げ口をしてやりたいとも思いました。
それでも愛しい彼の傷ついた顔は見たくありません。私は見なかったことにしようとしたのです。
そう決めたのです、でも……
「アダムのことは愛してないよ、俺はお前だけが好きなんだ」
少年のその言葉を聞いて全身が燃えるように熱くなりました。
なんてことを!あんな素晴らしい方と恋人になり、愛されているのにどうしてそんなことが言えるのか!!こんなに彼を愛している私は彼に愛されないのに…!!
今まで感じたことのない激しい怒りが私を狂わせたのです。
気づけば私は血溜まりの中にいました。地面に咲いている白いアネモネたちは赤く染まり、そのすぐ横には少年と男が事切れています。大きく重いスコップには赤い鮮血がべったりと付着していました。
私は涙を流しながら絶望しました。一瞬でもザマアミロと思ってしまったのです。守るべき人々を自ら悪意を持って殺してしまった私は、神を信仰する資格はなく地の果てに堕ちた悪魔でした。
私の命1つで償えるものではないほどの大きな、大きな罪でしたが死のうと考えました。
「ーーならその命、オレにくれよ」
いきなり背後から低い声が聞こえました。慌てて振り返ればそこには燃えるような赤い髪、褐色の肌、太い二本の角、そして大きな漆黒の翼。
明らかに人ではないその姿に私は息を飲みました。
「っ、な、何ですか貴方は!」
「そう怖がるなよ、人間…お前その2人を殺したんだろ?」
「わた、わたしは…っ」
ずいっと男は私に顔を近づけました。私は、その顔のあまりの恐ろしさに目を逸らすことができませんでした。
「オレがそいつらを生きかえらせてやる、ついでに記憶も消してやるからさ」
だからオレにお前の命くれよ、それは鋭い無数に生えた歯を見せながらニンマリと笑いました。この男の姿は、昔何度も本で見た悪魔そのものでした。
悪魔に従うことは許されません。悪魔に命を捧げるということは悪魔と契約することなのです。神を裏切り、私は人ではなくなります。
断るしか選択肢はありません。それでも私は気持ちが揺らいでいたのです。だって、愛しい人の恋人を殺してしまった私は彼に憎まれてしまう。優しいあの瞳が憎しみの色を浮かべて私を見るなんて考えただけで涙があふれました。
私は浅ましく、自分勝手な人間でした。涙を流し、恐怖で震えながらその鋭い爪を持つそれに手を伸ばしたのです。
*
次の日、信じられないほどいつも通りの日常が私を待っていました。殺した2人はあの時の傷も、殺された記憶もなく普通に生活しています。
私もいつも通りにしようとそう思っていましたが、愛しい彼にもあの2人にも会うことはできませんでした。平然を装うことが無理だと思ったからです。
「なぁ、ユリウス…あんな男のどこがいいんだァ?」
私のベッドで寝そべっている悪魔、グラハムはつまらなさそうにそう言いました。恐らく昼間に見た彼を思い出したのでしょう。私はその物言いにムッとしながら、読んでいた本を閉じました。
「グラハム、アダムの話はやめてください」
「失恋したこと思い出すからってか?はやく忘れちまえよ」
「それができたら苦労しません」
私は蝋燭を消してグラハムがいるベッドに腰を下ろしました。ベッドサイドにあるカンテラに火を灯せば、オレンジの温かい光が私たちを照らし出しました。
「オレがいるんだからあんな人間放っておけ。オレたちは死ぬまでずっと一緒なんだからよ」
「っ、グラハム…」
「お前の友人役も恋人役も、ぜーんぶオレがしてやるさ」
グラハムは低く甘い声でそう囁きました。背後から抱き締められ、私はその腕を振り払うことができません。この熱い腕は信じられないほど力が強いことは知っています。でも、そんなことではないのです。
私はこの腕の中にいたいのです。母も兄弟もいない私は、父が亡くなってからずっと孤独でした。恋人も友人もいない、寂しく孤独な生活を送っていたのです。
だから、例え相手が悪魔だとしても私は誰かと触れ合えることに満たされていました。
「わたしは、私は…なんて罪深く、浅ましい人間なのでしょう…っ」
「あぁ?何だよいきなり」
「憎き悪魔に愛されることを求めるのは可笑しいことだとわかっています、しかし…っ、わたしはさみしいのです…っ」
首にかけた十字架を握りしめながら私は涙を流します。悪魔に魂を売った身でありながら私はまだ神に祈りを捧げているため、こうして毎晩のように懺悔をします。
罪が赦されることはありませんが、醜い私はこうするしか生きていけないのです。頬を伝う涙をグラハムの長い舌が何度も拭います。
大きな掌がいやらしく私の体を撫でて愛撫していきます。グラハムはどうやら懺悔をして涙を流す私に酷く興奮するようでした。
「っあ、ぁ…っ、おゆるし、くださ…っ」
「お前は一生赦されない」
「ひ、あああっ、そん、なぁ…っ」
熱く太い楔が肉壁を貫きました。何度も何度も繰り返される暴力的な行為に今は快楽しか感じられません。
私の体の両脇に手をついた悪魔の逞しい腕はまるで檻のようでした。私は堪らずその腕に縋るように手を伸ばしました。グラハムは腕の中に私を閉じ込めるように、きつく抱き締めてくれました。
より中を突き上げる動きが激しくなり私は痙攣する様に身体を震わせます。
「ン、ぁっ、ひぃ、いいいっ!だめ、っ、も、いくっ…い、〜〜〜〜っ♡」
「イッちまえよ、ユリウス」
背を弓形にそらしながら私は果てました。グラハムはそんな私を休ませてくれる筈もなく、最奥を狙って突いてきます。
みっともなく涙も唾液も、全て垂れ流しながら私は悦びました。
「ら、め…っ、あっあっあっ♡ぐらはむ、もうっ…ゆるして、くらさ…っ、あっひぃ、ぃ♡」
「っ、はぁ…出すぞ」
「んあ、あ〜〜〜〜っ♡♡」
孕め、そう言いながらグラハムは大量の精液を中に吐き出しました。私は男で孕むことはないのですが、こんなに大量の精液を注がれると本当に孕んでしまいそうです。
穢らわしいと自分でも思いますが、私は毎回中に出されると達してしまうのです。今も小さく喘ぎながら絶頂に震えていました。
グラハムは、私のしっとりとした長い髪を一房手に取り口付けました。荒い呼吸を吐くことしかできない私はその姿を見つめることしかできません。
「お前は神の元へも天国へもいけない」
「…………」
「赦されないお前はオレと共に地獄へ堕ちるのさ」
嬉しいだろう?ずっと一緒だ、そうグラハムはニンマリとした笑顔を私に向けました。
そうです、私は地獄へ堕ちます。この悪魔と共にこれから地獄への道を歩んでいくのです。小さく頷いた私を見て悪魔は満足げに頷きました。
薄い唇が私の唇に触れて、鋭い歯が唇を小さく裂きました。少し流れた血を恍惚とした表情をした悪魔が舐めています。嫌がることもせずそれを受け入れました。
「ユリウス、ユリウス…オレのものだ」
楽しげな声が耳に入ってきました。
もう、私は人ではなく…卑しい獣になり下ったのです。グラハムのものになった瞬間から私は人ではなくなりました。
こんな穢らわしい私が、恋しくて愛しかった彼と同じ人間な訳がありません。そう思うとひどく辛い気持ちになりますが、不思議と寂しくはないのです。
グラハムが私が死ぬまで、いや…死んだ後も側にいてくれると約束してくれたからでしょうか。
私は小さく微笑みながら、目の前の悪魔を抱きしめました。そして、2人で抱き合いながらいつものように眠りについたのです。
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