不良、嫁に出会う。

暗い照明の中でカラフルなライトが光り、若者が乱れ蠢いている。その広い空間を抜けた場所、10畳ほどの部屋に男女が2人いた。

男、御堂 昭隆(みどう あきたか)は退屈そうにテレビを見ていた。深夜のくだらない番組が流れている。纏わりつく女の肩を抱きながら、紫煙を吐き出す。

昭隆の人生は何も面白くなかった。楽しい、嬉しい、悲しい、怖い…そんな感情を抱いたことはなく、退屈に毎日を過ごしてきた。
暇だから気に入らない男を殴り、性欲が溜まるから女を抱く。何も楽しいことはなく、昭隆は色のないモノクロの世界に生きていた。

「へー…こんなアイドルいるんだ」

女の言葉を聞いて、テレビに意識を向ける。音楽番組が流れているらしい。そこに出演している3人の少女達。

『僕たち男の娘アイドル、Flowerです!』

男の娘アイドル、聞いたことがない言葉だった。どうやら男の娘とは、女装して女のような見た目の男の事を言うらしい。
左端の少女、いや少年から昭隆は目が離せずにいた。
司会者の男が、少年達に自己紹介を頼んだ。

『はじめまして!常に一所懸命、Flowerのリーダーのアズサです!』
『アズサちゃんか。君、笑顔が素敵だね〜!』
『本当ですか?嬉しいです!』

照れ臭そうに笑う、その姿から目が離せない。アズサの笑顔は綺麗で、花のようだと昭隆は柄にもなく思った。高すぎず、低すぎない落ち着いた声色が耳に入ってくる。
アズサから世界が色づいてきたような気がする。
歌が始まり、3人は踊って歌いはじめた。アズサは他の2人より断然歌が上手く、リードボーカルはアズサがしているようだった。
アズサはセンターではないが、昭隆の中ではアズサしか見えない。アズサに夢中だった。

「ーーっと、ちょっと、昭隆?」

女の声にハッとした。Flowerの曲は終わり、次のアーティストが出てくる。

「どうしたの、昭隆」
「…なんでもねえ」

昭隆は胸が高鳴るのを感じた。頭の中ではずっとアズサが浮かんでくる。居ても立っても居られず、立ち上がり荷物をまとめた。

「え、…もしかして帰るの?!」
「ああ、じゃあな」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!エッチするんじゃ…」

女を無視して、昭隆は世話役に連絡し車を呼んだ。車の中でスマホを弄り、早速Flowerを検索した。

Flowerは3年前から活動していて、去年メジャーデビューしたらしい。綺麗目な顔立ちのカエデ、可愛い顔立ちのミク、2人に比べると普通の容姿のアズサ。
アズサはリーダーで歌も上手いが、他の2人程人気はないようだ。
画像検索をすれば、ライブでの写真やプライベートな写真までいろいろ出てきた。素朴だが愛嬌のある笑顔に愛しさが湧いてきた。

掲示板らしきものを見れば、『アズサは俺の嫁』という言葉が書かれていた。嫁、嫁…いや、アズサはテメエの嫁じゃなくて俺の嫁だろ。自然とそう思ってしまった昭隆は、すでに沼にはまっていた。


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