僕らの歩幅@


校舎に影を落とす時計塔。
ちらちらと日向の光が水玉模様を作り、退屈な授業をやり過ごす。
学校生活は同じことの繰り返しで、ただ時間割を消化しているだけの気がした。

瀬原未来はイライラしていた。

‐僕らの歩幅‐

シャープペンの後ろを無くしたことに気を削がれ、数学の小テストはイマイチだった。
学期始めの微妙な緊張感、探り探りの人間関係。
クラスメイトはぎこちない。動きも固く真にやり辛く、未来の不機嫌は絶頂だ。前の席に座った男子生徒、今井翔太も気に食わない。なんとなくなよなよして、線が細い少年は未来の苛立ちに拍車を掛けた。プリントを回してくる仕草も嫌いだった。いちいち気遣いを忘れない所が女子生徒めいているのだ。
「なんだよ、お前。女子みたいになよっちい。イライラするよ」
とげとげしい言い方になってしまうのは致し方ないと言い訳する。だって、ボクの機嫌を損ねるようなこいつが悪いんだ、と独り言ちた未来の口ぶりに翔太はびくりと肩を震わせて取りつくような口調で謝罪した。
「ご、ごめん。オレ、何か気に障る様なこと、したかな?」
「うるさいな。ボクのことにかまってる暇あったら問題解けよ」
未来の態度にいちいちビクビクしながら、翔太は問題に向き直った。
ふん、と鼻で息をつく。椅子に座り直して、未来もプリントに取り掛かる。因数分解は苦手だ。家で勉強する暇はなかった。2人の妹と1人の弟の世話で、未来は忙しい。それに、家事や用事、買い物に支払い、洗濯物の取り込みに炊事―――――一手に引き受けていると、一日はあっという間に終わってしまう。宿題を片付けるだけで息切れがしてしまう。教師は未来の家庭の事情を知って黙認していたから、彼女は堂々と開き直っていた。
聞けば翔太は裕福な家に生まれ育ち、更に一人っ子だという。未来のような生活の煩わしさは知らないようだった。
ケッ、ズルいんだ、こいつ…。
口の中で毒づいて、消しゴムを無くしたシャーペンをノックする。
教室中に鉛の芯を走らせる音だけが響いていた。




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