僕らの歩幅B


セーラー服と学ランの群れ。ざわざわと飛び交う小声の会話。放課後、家路へと、部活へと向かう生徒でごった返す教室で、未来は教科書をまとめていた。
未来は部活動には所属していない。そんなこと、無理に決まっている。幼い頃に交通事故で父を亡くして以来、家事に弟妹の世話にと駆けずり回る生活が常だった。住んでいるのは団地の狭い一室だが、することは山のようにあった。小学1年生の弟・時之と、幼稚園年少の双子・今日子と明日香。自分と父親が一緒の時之は可愛いと思えたが、父親が違う今日子と明日香は憎たらしく思えることもままある。それでも、「みっちゃん、お願いね。お姉ちゃんだもんね」と母親に言われると、未来の憎まれ口ならよく動く唇はきゅっと結ばれて黙ってしまう。

「瀬原さーん、残ってトランプしていかない?」
クラスのリーダー格の女子生徒、野々山理央が未来にも声を掛けてくれた。手には中学生向けの漫画雑誌の付録と思しきカラフルなトランプが握られている。理央の持ち物はシャープペンの一本、消しゴム一つまでどれも可愛らしくしゃれていて、前々から彼女を「甘やかされたいけ好かないやつ」と思っていた。
「ボク、忙しいんだ。じゃあな」
短く言って鞄をひっつかむと、タッと上履きの底を鳴らして未来は教室を出た。
どうして、同じ中学2年生でこんなに差があるんだろう。野々山理央も今井翔太も、未来のような苦労はしていない。同じ学校に通っていて、同じ授業を受けていて、理央と未来は同じデザインの制服を着ていて、どうしてこんなに差があるんだろう。
夕映えの廊下を走っていると、衝撃と共にどしんと音がして視界がひっくり返った。
「いってて…」
ぶつかったんだ。尻もちをついた未来は、慌ててスカートをおさえた。中を見られたかもしれない。そう思うと、跳ねっ返りの未来も流石に頬が赤く染まった。取り敢えず、立ち上がらなくちゃ。相手はどうしたのだろうかと視線を上げると、そこには今井翔太が立っていた。


- 3 -

*前次#


ページ: