ないはずの過去


「ステラ様ー!どこですかー!ステラ様ー!」

遠くで使用人が自分を呼ぶ声がする。
それでも反応しないのが私だ。
反応したらそれはそれでまた連れ戻されてしまう。
車椅子に乗っているか弱い少女が健康体五体満足の方に勝てるもんですか。
必死に車椅子を動かしてあの場所へ

風が吹く度にさわさわと揺れる木の葉。
大きな木でよく子供達の遊び場になる。
木の陰に移動して見上げながら目をつむる。
そうすると鮮明に思い出されるこの木での思い出。


「ステラー!ステラー!どこに行ったー!」

遠くで聞こえる愛しい兄の声に私は顔を出した。
大きな兄が自分より小さく見えるのが面白くてつい笑ってしまう。

「お兄様ー!お兄様ー!ステラはここですー!」

枝に跨りバランスは崩さないように兄に手を振る。
いつもはこの木を眺めるか登ろうと頑張るかの二択だった。
今日は思い切って登ってみた。
きょろきょろと辺りを見渡したあと下を見下げ上を見上げたお兄様。
ぱちりと目が合えば少しばかり目を見開く。
面白くてくすくす笑うお大きく少し焦りを含んだようなお兄様の声が聞こえてきた。

「ステラ!おりろ!危ないぞ!」

そんなお兄様をはじめてみた。
でも、はむかいたくなるのが当時の私。
「大丈夫ですよ」と返して立ち上がる。
また上へ上へのぼりたい。
せめてせめて街が見渡せるまで。

べりっと木の幹が剥がれた。
私はそこに体重をかけていたので猿ではないので足ではつかまりきれずに落ちてしまう。
それは酷くゆっくりに見えた。足が足が。
どすんと衝撃が来た。それが想像以上に痛くて、三ヶ月泣いていなかった記録が破られてしまう。

「…ぅわーん!痛いよ!お兄様ぁぁあ!」

「言わんこっちゃない!」といいながら焦りながら近づいてくる。
それからそれから足がうまく扱えない。

ひとつその時気がつかなかったのは、
私は確かに背中から落ちたはずなのに背中ではなく足に被害がいったこと。
何故だろう。
考えても考えてもわからなかった。



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星空