甘酸っぱい殺人事件
シャワーの蛇口を捻り冷水を頭からかぶる。
まだ少し肌寒い時期に冷水を被るなんて馬鹿だろう。
でも、今はかぶっていたかった。
肌を伝わり落ちる水は排水口に吸い込まれていく。
肌にまとわりつく髪の毛が邪魔ったらしくて払いのけるがそれでもまとわりつく。
別に女子でもないので髪の毛なんぞ気にしない…と言ったら嘘になるかもしれない。
彼女が綺麗と言ってくれたから伸ばしている…なんてこともある。
十年近く伸ばしている。適度に前髪は切ったりすいたりはしているつもりだ。
ざああとただシャワーの音だけが聞こえる。
それに耳を傾けて俯く。
水に混ざり薄くなった赤い液体が流れていた。
目を見開きどこから出血しているのかと思い腹を見ると見えた刃物。
鋭く尖った、どこにでもある包丁。
何かが逆流するような感覚。
吐き出したのは血。
遅れてやってくる激痛。
何故?一体誰が?
背後に誰かいる。気がつかなかった。
直接伝わる肌の感触。
濡れた金。
まだ柄を持っている。貫通している筈なのにもっとというくらいに突き刺してくる。
素人のようだ。
血が流れすぎたようでくらりと膝をつく。
その際に刃は抜かれその場に凶器を置いて逃走された。
まだ流れるシャワーは水と自身の血液を排水口へ流した。
目の前がぼやける。
腹を触ると鮮血。
それも水に流されてしまう。
自身の唇を軽くなぞれば甘酸っぱい果実なような味と鉄の味がした。
前に傾く身体。
暗くなる視界。
流れる水。
まとわりつく髪。
そこからは意識はない。
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