「うわっ、これ思ってたよりもキツい」

低いエンジン音を唸らせながら、悠然と上空を漂っている船があった。そんなものここ江戸では数多く存在しているが、その船からは四人の人間が飛び降りてきた。下から上へと襲って来る風圧に顔を顰めながらも、四人は凄まじい速度で地上へと落ちて行く。

「ここホントに地球なの!?」

今自分達が向かっているのは四人の目的の星である地球なのか。それすらも把握出来ない状況に、夏は不安を抱きながら辺り見回した。

「それ以前の問題、このままだと死ぬけどな」

霞む地上を冷静に眺めながら溜息混じりの口調で冬が呟いた。それにつられて春、夏、秋の三人も順々に地上へと目を向ける。

「やだあああ!死にたくないいい!!!」

「夏、人生諦めが肝心ですよ」

「……いや、案外助かるかもしれない」

ポツリと呟いた春の示した先に夏、秋、冬の三人が目を向ければ、先程まで霞んでいた地上の風景が徐々に鮮明に見え始めていた。そして四人の目に映ったのは、ある屋敷に設置された池だった。

「……池、ですか」

「なんとかなるか?」

「え、水面落下って痛くない?」

春は地面ではなく池に落ちれば助かると考えたのだろう。それを察した秋は頬に手を添えながら少し考え、夏と冬の二人は本当にそれで助かるのかと疑問に思い、難しい表情を浮かべながら首を捻る。


「……夏、先陣よろしく」

「え、待って待って待ってぇ!!」

夏の両腕を掴んだ春はニッコリと微笑んだ後に、思いっきり夏を池に向かってぶん投げた。すると落下速度が早まった夏は、泣き叫びながら池に落ちて行く。


「よっしゃ池命中」

狙い通りに夏が池に落ちたのを確認した春は、小さくガッツポーズをした。

「ひっでェ事するなお前」

「冬に言われたくない」

「……よし、じゃあ春も続くか」

「え、ちょっと待って、何この手」

ニヒルな笑みを浮かべた冬が力強く春の腕を掴めば、春は嫌な予感が頭を過り、額に冷汗をにじませながら口元を引きつらせる。

「夏にうまく受け止めてもらえよ」

「ちょ、やめ……冬てめぇこの野郎ー!!」

冬は春の腕を掴んだまま自らの身を軽く捻り、背負い投げの要領で春を勢い良く下へと投げ飛ばした。そして春は夏と同様に池に向かって落ちて行く。


「……はーっ!まじで春ひどい、もう口聞かない」

先に池に落下した夏は何とか無事なようで、池から顔を出すと自分を先に落下させた春にフツフツと怒りを募らせる。しかしそれも束の、新たな災難が夏の身にスグそこまで迫っていた。


「バカー!!そこどけー!!」

「え?」

真上から聞こえて来た春の切羽詰まった声に夏は慌てて振り向くが既に遅かった。夏は落ちてきた春を顔面からキャッチしてしまい、二人は大きな水音を立てて池に沈んでしまった。


「いたたた……春急に落ちて来ないでよ!」

なんとか無事だった春と夏は池の中から同時に顔を出した。そして夏は思い切りぶつかった頭を抑えながら春に怒りを表すのだったが、そんな事をしている場合ではない事に気付いていない。

「……夏。上」

「なに、上?……え!?」

夏よりも先にそれに気付いていた春が夏の真上を示せば、夏はそれに従って上を見る。するとそこには、目を瞑った秋と冬がすぐそこまで迫って来ていた。

「またァァァ!?」

度重なる不運に夏は叫び声を上げるが、いくら二度目の展開でも避ける事は出来なかった。夏は春の時と同様に秋と冬の下敷きになってしまい、再び池の中へと姿を消した。

「……あー、なんかに当たった」

「やっぱり目は開けとくべきでしたかね」

水中から顔を出した冬と秋は、ぶつかったのが夏と知ってか知らずか、そこまで気にする様子もなく、びしょ濡れになった服を不快そうな表情で絞っている。

「当たったのうちだからソレ!!目は開けとくべきだったよ!とりあえずうちに謝ってええ!!」

「あ、悪ィ」

「そんな薄っぺらい謝罪で許されると思うなよ!」

全く悪びれる様子のない冬に、夏は思いっ切り声を張り上げた。そんな四人の声は当然の如く周囲に響き渡っているわけで、周りに人がいる以上は騒ぎにならないはずがなかった。


「オイ、向こうから話し声が聞こえるぞ」

「誰だ、侵入者か!!」

四人が落下した池は運良くか悪くか江戸の武装警察、真選組屯所の敷地内にあったもので、屯所にいた真選組の隊士達は四人の声を聞き付けて次々に集まって来た。そして、四人はあっという間に包囲されてしまう。

「……え、何?うちらめっちゃ囲まれた!」

夏は突然の出来事に状況が理解できず、集まって来た隊士達をきょろきょろと見渡すが、それは春、秋、冬の三人も同じだった。

「オイ、テメェら何者だ」

すると集まって来た隊士達の間を割いて、一際鋭い目付きをした男、真選組副長である土方十四郎が現れる。そして土方は、その鋭い眼光に四人の姿を映した。

「どうしてここにいる」

土方が鞘から抜いた刀を四人に向かって突き付ければ、春と夏はそれに怯んだのだろう。ビクリと肩を震わせ、素早く秋と冬の後ろに隠れた。

「私達は怪しい者ではないので、刀をしまっていただけると嬉しいのですが……」

このままでは面倒な事になりかねない。そう思った秋がなんとか警戒を解こうとするが、土方はそんな言葉に耳を傾ける気はない。刀を突き付けたまま、四人を睨み続けている。


「トシ、こりゃなんの騒ぎだ」

遅れながらも騒ぎを聞きつけてやって来たのは、真選組局長の近藤勲だった。

「「え、ゴリラ?」」

彼女達の目には近藤の姿がそう見えたのだろう、春と夏は思わず口を揃える。

「何この失礼な子達!というか何で池の中にいるの!?」

近藤は見知らぬ相手にいきなりゴリラ呼ばわりされた事よりも、彼女達がなぜ池の中にいるかの方が不思議だった。

「いや、まぁなんて言えばいいのか……」

問い詰められたら問い詰められたで答えにくいが、純粋に尋ねられてもどう説明すれば良いのか分からず、頭を悩ませた四人は困った表情で顔を見合わせた。

「それより、ここはどこですか?」

「どこって……ここは真選組の屯所だよ」

周りを見渡して、ここは何らかの組織の拠点なのだと察した秋が尋ねると、近藤は自分達を知らないことに少し戸惑いつつも質問に答えた。

「真選組?」

「なんかどっかで聞いたような……」

どこかで聞いたことのある“真選組”と言う言葉に、夏と冬は記憶を辿ったが全く思い出せない。しかしその横では、何かを察した秋がすっと目を細めていた。

「それより、テメェらは何者だっつってんだよ」

近藤の登場により場に張り詰めていた空気が若干和らいだ気がしたが、そんなことはお構い無しに土方が再び四人を問い詰める。

「まぁ落ち着けトシ。池の中にいるこの状況のまま取り調べっつーのもなんだ、ひとまず屯所の中に連行しよう。このまんまじゃ風邪でも引きかねんしな、着替えでも貸してやったらどうだ」

「……はぁ……仕方ねェ、山崎!」

お人好しな近藤に深く溜息を吐いた土方は、監察に所属している山崎退に指示を出した。すると山崎は二つ返事で着替えを取りに向かう。