「……ねぇ、真選組ってなんだっけ?」
着替えのために空き部屋へと通された春、夏、秋の三人は潜入捜査の際に山崎が使う女物の着物を貸してもらい、その着物に袖を通していた。そして、外にいる見張りの隊士達に聞こえぬように声を潜めながら春が秋に尋ねる。
「確か地球の江戸にある警察組織です。私の記憶が正しければ幕府に属していたはずですが……」
それを聞いて春もうっすらと思い出したようで納得する。その横では何も理解していない夏がキョトンとした顔をしていた。
「……ってか、なんで冬だけ別なの?」
今この場に冬の姿はない。それは部屋に向かう際に何故か一人だけ別室に通されたからだった。首を傾げる夏とは裏腹に春、秋の二人は大方の理由を察していた。
「おら、着物だ」
所変わって、春、夏、秋の三人とは別室に通された冬は隊士から男物の着物を渡されていた。余談だが、唯一帯刀していた冬は池から上がった際にその場で刀を取り上げられているため、現在は丸腰である。
「なんで俺だけ別室なんだ」
「はァ?男女で着替えが別室なのは当然だろうが、くだらねェ事言ってねェでさっさと着替えろ。妙なマネしたら叩き斬るからな」
そう言った隊士は音がするほど勢いよく襖を閉じると、冬が妙なマネをしないように部屋の外から見張りを行う。
「……まぁいいか」
立ち振る舞いのせいだろうか、男と間違われる事は珍しくない冬はここでもまた男と思われていた。しかし冬は気にすることなく、濡れた服を乱雑に脱ぎ捨てると隊士から渡された着物に袖を通す。
「お待たせしました」
着替えを終えた春、夏、秋の三人は近藤、土方、山崎、冬の待っている部屋へと、見張りをしていた隊士に連れられてようやくやって来た。
「やっと来たか」
先に着替えを終えて戻っていた冬だが、そんな冬が男物の着物を着ているのを目にした春、秋の二人はやっぱりかと言うように呆れた表情を浮かべた。
「なんだ、文句があるなら言え」
「別にありませんよ。それよりこちらの着物を貸してくださった方はどちらに?お礼を言いたいのですが……」
しかめっ面になる冬を見てクスリと笑った後、秋は近藤に尋ねる。ここに来てから女性を1人も見ていないのに、自分達が今着ている女物の着物は一体誰が貸してくれたのか、少し疑問に思ったのだ。
「あ、全然いいよ、それ俺のだから」
近藤の横にいた山崎が口を開けば、春、夏、秋、冬の四人は一斉に驚いた顔で山崎を見た。その表情を見て、山崎はすぐさま己の発言を後悔する。
「……え、女装趣味?」
「だ、大丈夫だよ!うちは気にしない!」
気を使うことも無く思いっきり軽蔑の眼差しを向ける春の横で、夏がしどろもどろになりながらも山崎を気遣う。そして秋と冬の二人はかける言葉が見つからずに口元を引きつらせていた。
「変な勘違いやめて!!俺別にそんな趣味ないから、任務で着てるだけだから!!お願いだから目逸らさないで!こっち見て!」
「失礼しやすぜ近藤さ……」
必死に弁解する山崎から四人が目を逸らしていると、ガラリと襖が空いて真選組一番隊隊長である沖田総悟が部屋に入って来た。そして見知らぬ四人の姿を見た沖田は思わず途中で口を閉じた。
「おう、どうした総悟」
「……池ん中にいた侵入者ってぇのはコイツらの事ですかィ?隊士共が騒いでやしたぜ」
目の前にいる四人が今屯所中を騒がせている元凶という事に、沖田はすぐ様気付いた。そして四人を指さす沖田に向かって近藤は少々困ったように頷く。
「侵入者って言われれば侵入者なんだけど……意図的じゃないっていうか、訳ありっていうか……」
「あぁ?どういう訳だ、言ってみやがれ」
今ここにいるのはあくまでも不可抗力であって、悪意を持ってこうなっているワケではない。しかし説明するにもしずらい。どうにも歯切れの悪い春に土方が圧をかける。
「……私達、逃げてきたんです。奴隷船から!」
突然その場に崩れ落ちた秋が少々声を荒らげながら放った言葉に春、夏、冬を含めたその場の全員が目を丸く見開いた。
「実は私達人攫いにあったんです。人身売買されそうになっていたところを、命からがら奴隷船から逃げ出し、船から飛び降りた先がこの屯所だったんです」
ある事ない事を言う秋に春、夏、冬の三人はポカンとした表情を浮かべている。しかし秋はそんなのお構い無しに、目に涙まで溜めながら迫真の演技力を発揮していた。
「そうかあああ!そんな事があったのかあ……!」
真選組随一のお人好しである近藤はあっさりと秋の演技に騙されてしまい、もらい泣きまでしてしまう始末だった。しかしながら他の面子は信用しきれていないようで、訝しい表情を浮かべている。
「近藤さん、そんな簡単にこいつらを信用するな。嘘をついてる可能性もある」
「そうですぜィ近藤さん。それに聞くところによると、この野郎は帯刀してたって話じゃねぇですかィ。奴隷が帯刀なんておかしな話でさァ」
鋭い物言いをする沖田に秋の嘘もここまでかと、春、夏、冬がギクリと肩を震わせるが、秋はそんな事ものともせずに泣き真似を続けている。
「腕に覚えのある冬は私達の脱走の手引きを率先してくれたんです。持っていた刀は人攫いから奪ったものなんです」
すらすらと弁明する秋に、春、夏、冬の三人は心の中で思わず感心してしまう。そして次の瞬間、秋の口から発せられた言葉に全員が驚愕した。
「私達は元々身よりもなく、行く所も帰る所もないんです。もしよろしければ、少しの間ここで雇って頂けませんか?」
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