「おい、あれが昨日の子らか?」
「なんでもそのうちの二人は隊士として入隊希望らしいぜ」
準備を整えた春、夏、秋、冬の四人が中庭に向かうと、そこにはすでに真選組のほとんどの隊士達が集まっていた。それを物珍しそうに眺める四人の姿が現れると隊士達の視線が一斉に注がれ、ザワザワと噂する声が聞こえてくる。
「夏ちゃん、冬君こっちこっち!」
人混みの中から夏と冬を見つけた近藤が手招きをすれば、二人は円を描くように出来ている人だかりの中心へと移動し、春と秋もその後をついて行く。
「……えーそれでは今から夏ちゃんの入隊試験と冬君の実力審査を行う。初戦の夏ちゃんには山崎と一戦交えて貰い、実力を見定めてから入隊を決める」
夏と冬の二人に木刀が渡され準備が整うと、マイクを持った近藤がアナウンスを始める。それはまるで何かのイベントのようで、緊張感の欠片もなかった。
「大丈夫ですかね、夏」
「なんとかなるんじゃない?」
隊士達の中に紛れて試合を傍観する秋と春だが、昨日騒ぎを起こした張本人達という事もあり、隊士達の視線は十分なほど二人にも向けられていた。
「ねー山崎って誰?」
「あ、やっぱり俺って影薄いのかな…」
夏が竹刀をブンブン振り回しながら冬に尋ねたのと同時に、昨日着物貸したにも関わらず、覚えられていない事に落ち込んだ様子の山崎が夏の前へと出てくる。
「ねぇ、夏の相手ってあの人?」
「どうやらそうみたいですねぇ」
春と秋までもが山崎の事を覚えていないと言った様子で話を進める。その二人の会話は山崎の耳にもしっかり届いていた。
「なんか特徴ないね」
「でも女装とかしてそうな顔してますよ」
「本当は覚えてるでしょ!?ねぇ俺なんか悪い事した!?そんな嫌われるような事した!?」
確実に覚えていると思われる会話を繰り広げた春と秋に、山崎が思わず声を荒らげる。しかし二人はそ知らぬ顔をして山崎からフッと目を逸らした。
「なんでィ、入隊試験なら俺が相手してやったのに」
「バカかてめぇは、誰が突破できんだそんな試験。……まぁあんな得体の知れねぇ奴らの入隊を認める気はねぇが……さすがの山崎でもあんなのに負けねぇだろ」
自分が参加出来ないことに沖田は口を尖らせ、山崎が負けるわけないと安心しきっている土方は煙草を口へと運んだ。試合開始からものの数秒で決着が着くとも知らずに。
「あの山崎って人がどのくらい強いのか知らないけど、あんまり舐めない方がいいんじゃない?」
「あ゙?」
自信満々な土方に思わず口を挟んだのは春だった。土方がその台詞に気を取られ試合から目を離した次の瞬間、スパァァンと威勢のいい音が響き渡った。そして慌てて音のする方を見た土方の目に映ったのは頭にたんこぶを作った山崎が倒れている姿だった。
「……夏ちゃんの、か、勝ち」
「やった!入隊確定!!」
瞬く間に終わってしまった試合に動揺しながらも、近藤が勝敗を告げる。思いよらなかった結果に周りの隊士達もより一層ざわざわと騒ぎ出すが、夏はそんなのもお構い無しに小さくガッツポーズをして見せた。
「まさかあんなのに負けるとはねィ」
「……そこの茶髪の子!あんなのってうちに対して失礼じゃないかな!?」
「うるっせぇなぁ。そんなに一番隊に入りたかったのか、歓迎してやりまさァ。それに俺は茶髪の子じゃねぇ、一番隊隊長沖田総悟でさァ。今この瞬間からてめぇの上司だ、死にたくなるほどこき使ってやるから覚悟しろよ」
「いや、あの……調子乗りました。ごめんなさい」
沖田のどす黒い笑みに恐怖を抱いた夏は慌てて謝罪した。
「情けないなぁ夏」
せっかく勝っていい所を見せたというのに、その後の沖田とのやり取りのせいで台無しになってしまい、春は呆れてため息をついた。
「えーでは、次は冬君の実力審査を行う」
「待て」
目を回して倒れていた山崎は医務室に運ばれ、次に行われるのは冬の実力審査。一人の隊士と冬が向き合い、試合が開始されようとしたその瞬間、待ったをかけたのは土方だった。
「そいつの相手、俺がしてやろうじゃねぇか」
「トシ!?」
「このままじゃ真選組の面目丸潰れだからな」
冬の目の前へと出て来た土方に、近藤を含めた隊士達は驚き目を丸くしていた。そして土方は冬の対戦相手になるはずだった隊士から竹刀を奪い、冬に向かって構えた。
「いや、そうは言っても……」
「別に俺は相手が誰でも構わねえよ」
「近藤さん、こいつもそう言ってんだ。……それにお前は腕に覚えがあるんだろ?副長である俺が直々に実力を見てやるってんだ、せいぜい楽しませろよ」
制止する近藤をお構いなしに、土方は不敵な笑みを浮かべながら冬を挑発して見せた。しかし冬は特に言い返すこともせず、気怠そうにしているだけだった。
「可哀想だなぁ、アイツ。よりにもよって真選組の頭脳と揶揄される鬼の副長、土方十四郎が相手だなんて」
ざわめき立っている隊士達の声が春と秋の耳にも入る。昨日から最も自分達を警戒していた土方だ。生ぬるい手合じゃないことは分かっていたが案の定、重要な役職を担っていた。
「副長という事は、つまりここのNo.2ですか」
「また大変そうなのに目をつけられたねぇ冬は」
02.入隊試験篇
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