おかえりなさい
彼女は顔を見た瞬間、すぐにその場に駆け寄り、
2人に笑顔を見せた。
久しぶりの再会にも関わらず、前に会った時と
変わらぬ様子で他のメンバーから見れば、新顔
の2人に嬉しそうに笑いかけている。
『金田一、国見、おかえりなさい!』
初めて顔を出したバレー部初日。
新しく入部してきた新入生の中にいる同じ中学
校だった顔見知りを見つけると、直ぐにカゴに
入れていたタオルを置いて、美月は背の高い
2人の頭を背伸びをしながらクシャッと撫でた。
『すごーい、2人とも背が伸びてる!』
「牧野さんっ…!」
「子供扱いしないでください。」
そう言われても美月は2人の反応を気にすること
なく、自分の元へむぎゅっと引き寄せて、2人を
挟んで抱きしめていた。
右隣にいる金田一と呼ばれた後輩は真っ赤な顔
で、そして左隣にいる国見と呼ばれたもう1人の
後輩は照れ臭そうにする。
しかし、彼らもその彼女の行為は嫌ではなく、
ずっと待ってたよ!とまで言われてしまうと、
寧ろその言葉が嬉しくて仕方がない。
「俺が入った時はあんな事しなかったのに。」
「牧野の奴、嬉しそうだなー。」
「セクハラする先輩達いなくなったから、
解放されて伸び伸びしてんな。」
「伸び伸びしてんのはいいが、早速、逆セクハラ
になってねーか?」
指を噛み締めて見ている矢巾の横には、花巻、
松川、岩泉の姿。
いきいきとした彼女を微笑ましいと松川と花巻
は温かい目で見守り、岩泉は「またうるせーのが
騒ぎ出すぞ。」とボール片手に呆れ顔。
そこに「ストーップ、そこまで!」と、及川の
止める言葉に彼女は振り向き、岩泉はそれを
見ると、ほれみろと軽く舌打ちをした。
「美月、嬉しいのはわかるけど、金田一と国見
が困ってるでしょ!
そんなに誰かに抱きつきたいんだったら、
及川さんがハグしたげるから!」
「困っては無いです」の国見の否定する言葉は
聞かずに、いつでも来い!と及川はめいっぱい
両手を広げる。
すると、彼女は抱きしめていた2人を解放し、『じゃあ後でね』と手を振ってタオル入りの
カゴを持ち、彼の横をニッコリと笑うと、及川
の言葉に反応も示さず、そのまま素通りをした。
美月が何事もなかったかのように作業に戻る中、
その様子を見ていた、3年生達ははダセー!と指
をさしながら爆笑中。
「美月、まさかの俺のことは無視!
てかお前ら笑うなー!」
『及川にするわけないじゃん。
私、女の子達泣かせたくないもん。』
彼女が足を止めて指す方向にはいつも目にする
取り巻きの女の子達が及川の姿をキャーキャー
騒ぎながら見に来ていた。
『ファンを悲しませないでよ?主将。』
と彼女は彼の肩にふわっとタオルをかけるだけ
で、それ以上のアクションは起こすことなく、
彼からスッと静かに離れた。
「おっとこ前ー。」
『ありがと、花巻。』
はい、タオル。と彼と横にいる2人にもタオル
を一人一人に配って回ると、そこには先程の
彼女の行為に妬いて、口を尖らせて拗ねている
矢巾の姿も。
「牧野さん、顔見知りってだけでズルい
ですよ。」
『そうなの?』
私のハグってそんなに嬉しいの?と彼女は首を
傾げると、彼女の質問に矢巾は思い切り頷き、
拗ねる後輩をつい可愛いと思った彼女は、矢巾
の背中に手を回し、ぎゅっと彼を抱きしめた。
『寂しがらせてごめんね』と彼の背中を優しく
撫で、君だって可愛い後輩だからねとおまけの
嬉しい言葉付きで、予想外の抱擁と合わせて
矢巾の頭の中はオーバーヒート。
3年生はみんな羨ましさで思わず言葉を失った
が、松川と岩泉はハッと我に返り「はーい、
そこまで。」と2人をすぐさま引き剥がした。
「頼むから後輩を殺してやるな」と岩泉が彼女へ釘を刺せば、美月は慌てたように『私、そんな
物騒な事してないよ?!』と否定をする無自覚
な彼女。
彼はそんな彼女に呆れて、鈍感野郎とため息を
吐いた。
「ちょっとーー!なんで矢巾はOKで俺は
ダメなのさ!?」
美月が来ないならこっちから抱きついてやるー!
と及川が彼女めがけて飛びかかり、その反射で
相手は身を屈めていると、目の前には美月では
無く、両手を広げた松川の大きな壁。
松川が彼女を庇って及川を包む様に抱きしめ、
岩泉と花巻は松川に包まれる滑稽な及川を
見て、ゲラゲラ腹を抱えて笑った。
「仕方ねぇ、俺が抱きしめてやるわ徹。」
「お前のむっさい胸板なんかいるかー!」
彼の悲鳴が混ざった叫び声も虚しく、本日も
バレー部はいつもと変わらず通常運転。
彼らは今日も元気で何よりだと、周りはその
光景をただ暖かい目で見守っていた。