男前と男前

『ごめん、誰か、ちょっとヘルプ!!』


思いきり走ってきたせいか肩で息をし、濡れた
手でずるっと滑らせながらも、急いで体育館の
扉をガラッと開ける。
先に練習をしている誰かいるだろうと考えて、
美月はみんなに声をかけた。


「牧野さん?えっ…ちょっ!?」


「わーお。マジか。」


「美月、どうしちゃったのそれ!?」


すると彼女の姿を見た途端、先に体育館にいた
レギュラーメンバーは、顔を真っ赤にして、
唖然として言葉を詰まらせる。


何故か美月は、頭から足の先までビシャビシャ
に濡れていて、Tシャツが彼女の体のラインに
沿うように張り付き、下着もわずかに透けて
いたのか、及川達側からすれば、美味しいが
とても目のやり場に困る状態。


その姿を見た金田一と国見は、眼福だが見ては
いけないものだと認識して顔を押え、渡は言葉
にならないまま口をパクパクし、矢巾は鼻から
何か出そうになるのか、付け根を押さえる。


花巻は絶景だなとニヤついて見る中、松川は
嬉しさからのショックでそのまま固まり、及川
は顔を手で覆って美月大胆!と言いながらも、
隙間から逃すこと無く、彼女の姿をバッチリと
見ていた。


彼女も仲間達の様子からハッと我に返ったのか、
頬を赤め、謝りながら自分の胸元を腕で覆って、
とりあえず見えないようにそこを隠した。


他のメンバーの動きが止まっている中、岩泉
だけは自分の着ていたジャージをすぐに脱ぎ、
慌てて彼女の元へ駆け寄ると、それで体を隠す
ように包んだ。


「馬鹿!なんて格好してんだよ。」


『ありがとう、ハジメ。 練習着に着替えた
後にさ、突然。別のクラスのバケツの水が
飛んできて、被りそうになった1年生の女の子
庇ったらこんなことに…』


彼女が自分の身体を包むジャージを握り締め、
突然の悲劇を困ったように笑っていると、
国見がタオルです!と岩泉にパスするように
すぐさま投げた。


体を隠している為、うまく身動きがとれない
彼女は、岩泉にわしゃわしゃとされるがままに
頭を拭かれ、漫画のような嘘みたいな理由に
周りは目が点になるのだった。


「だから、男前かよ!!!」


『カッコつけて去ったものの、制服をその時
手に持ってたから、着替えがなくなって。』


花巻の言葉に彼女がそう答えると、「いや、ただ
のアホだろ」と岩泉からの厳しい言葉に酷いと
彼女は肩を落とす。


『今日は友達みんな帰っちゃって、誰か着替え
貸してくれない?』


運が悪い事に、着替えの予備が尽きた美月は、
下は大丈夫だから上だけで出来れば下着が透け
ないやつ!と付け足す様にお願いをして、皆が
自分の手持ちの予備を思い出して黙る。


「今日に限って白なんだわ。」


「俺も」


「2人とも残念、俺の水色は?」


「美月、黒の替え持ってるから、すぐそのまま
部室行くぞ。」

仲間達が残念ながら彼女の希望する物を持ち
合わせていない中、及川の俺の貸してあげるよ
という言葉を遮り、岩泉が美月の手を引き進み
出すと、彼女も彼にされるがまま連れていか
れた。


「…岩ちゃんズルい。」


「諦めろ、アイツの男気に勝てるやつなんて
いねーよ。」


「岩ちゃんの癖にカッコイイとこを全部持って
くのムカつく。」


「お前、ほんとクソ川だわ。」


及川が羨む声をあげる頃には部室に到着し、
ロッカーの中のシャツを探しながら、思い切り
クシャミをする岩泉に美月は彼から借りた
ジャージをそっとかけ、隠すものがなくなった
彼女を見て、岩泉の頬は赤くなる。


「なっ。馬鹿、着てろよ!!」


『大事なエースが風邪ひいたら大変だし…。』


「お前のが風邪引きそうな格好じゃねーか!
ほら、あったからこれ着てろ。」


美月は差し出された渡されたシャツを受け取る
とお礼を言って、岩泉と自分の二人だけしか
いないこの空間に、彼女はつい気が緩んで
しまったのか、着心地の悪いシャツをガバッと
何の躊躇いも無く、その場で脱いだ。


「ちょっと待て、美月!!」


彼女のあられも無いその姿を目の前でしっかり
と見てしまった岩泉の顔は、もちろん真っ赤に
なっており、お前、場所を考えろよ!と恥ずか
しさから出た、悲鳴混ざりの怒鳴り声。


その嘆く声は他のメンバーの耳にもしっかりと
届いており、彼には同情の声が湧いた。


「あ。もう、美月のお馬鹿。
今、絶対岩ちゃんの前で着替えた。」


「えっマジかよ。羨ましすぎる。」


「牧野に男として認識されていない
岩泉が不憫すぎる。」


「幼なじみって可哀想だよねー。」


「及川、お前もじゃん。」


「マッキー、それ言わないでよね。」




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