チームメイトの歯車

「お前達は、強いよ。」


耳にタコだろうがと、最後の注意をしっかりと
伝えた入畑が言い切ったその言葉に、一気に皆
の気持ちは固く結ばれる。


美月は、いつも最後に自信を付けさせてくれる
彼の言葉が本当に好きだった。
その言葉に深く頷き、及川達に誘われて、彼女
もその組まれた輪の中に一緒に入っていく。


「行くぞ!」「オエーイ!」と気合い十分の声を
出して、彼女はエンジンが完全に入った京谷の
背中を言葉はかけずに、しっかりと押し出した。


仲間達を見送って、自分の居場所へと戻り、
まずは東峰の強烈なサーブを1本で留めた事に
喜び、声援を送る。


ただ、及川のサーブを上げてくるようになった
ので、彼女も油断は出来ない。
京谷が押し込んで、彼の調子が保っていること
を確認して、再び幼なじみのサーブの成功を
しっかりと祈る。


残念ながら、彼のサーブは2本目は止められて
しまうが、気持ちは次に切り替えて、まだ
向こうに点を譲ることなく1周を迎えた。


東峰のサービスエースに、月島のドシャットと
京谷の気持ちを煽る出来事が繰り返され、本能
で田中と京谷の煽り合う姿も目にしたからか、
彼女も段々と京谷の苛立つ様子がわかって、
彼の気持ちを落ち着くことを願っていた。


『お願い、焦らず…焦らずに。』


しかし嫌な心配は当たってしまい、及川が自分
で取り返させようとした、京谷の攻撃は、
惜しくもアウトとなり、向こうに逆転をされて
しまった。


物理的にタイムアウトを取って流れを切り、
その後も空気が変わらないまま、彼の強打は
ブロックに阻まれ、苛立ちは増す一方。


烏野が2桁に乗り、先程の京谷のミスに対して、
励ましの言葉を掛けようとした渡の腕を振り
払い、入畑も声を掛けられて、美月は国見に
視線を向けて、手招きをして彼を呼び出した。


岩泉で止めようとしていた及川は、入畑の指示
に驚いた顔を見せたが、今の彼には1番冷静に
なれる正しい方法。


『英、頼むね。』


彼女の言葉に応えるように深く頷き、交代を
する京谷とは少し気まずそうな顔を見せるので、
彼女は小さな声で、申し訳なさそうに国見に
謝った。


「冷静になりなさい。またコートに出たい
なら。」


今回ばかりはタイミングが悪かったというのも
あるので、彼女はあまり京谷を強く責める事が
出来ず、目があった松川も同じ気持ちなのか、
苦笑いを見せていた。


そして矢巾に京谷のフォローをして、出番の
松川はコートに入り、矢巾の顔が素直なもの
では無かったように見え、彼女はコート外に
いる彼らの様子を時折伺っていた。


「さっさと復活しろよ、もう後が無いんだぞ。」


「…うるせぇ、知るかよ。」


「相手の挑発にまんまとノッて、アツくなって
自滅。くそダサいな。」


「…あ?」


矢巾から思わぬ罵声が聞こえてきて、彼らを
止めようか迷う美月だが、今この席を離れる
訳にはいかず、とりあえずまだ黙って見守る。


「…お前がのこのこ戻ってきて、あっさり試合
なんか出たりしてさあ。それに不満がある奴も
いるワケよ、俺とかな。」


でもそんな事は問題じゃない、勝ちに必要な
人間がレギュラーに選ばれる。
そしてお前が選ばれた、だったら相応の仕事
をしろ。

淡々と冷静に吐く矢巾の言葉に、今熱くなって
いる京谷が、どんな反応を示すかもわからない。

美月だけでなく、2年生達も2人のやり取りを
ヒヤヒヤしながら見届けていると、矢巾は、
今までのは建前だと言って、今度は容赦なく
京谷の胸ぐらを掴んだので、思わず彼女は言葉
を失い、目を見開いて口元を押さえた。


「先輩の晴れ舞台に泥を塗ったら、許さねえ
からな。」


単なる挑発じゃなくて、自分達を思っての矢巾
の言葉を聞いて、頼りにしているとお願いした
時の彼の表情を思い出し、感謝の気持ちが込み
上がる。


押さえていた口元の手をゆっくりと下ろし、
再び彼女はコートに目線を戻すと、入畑から
指示があり、京谷を呼び出した。


『…矢巾、ありがとう。』


そして矢巾に視線を向け微笑むと、彼は少し
罰が悪そうに視線を逸らし、格好よかったと
続けて本心の言葉を彼に送った。


国見のフェイントを読まれ、向こうに2点の差
を付けられてしまったところで、再び京谷を
コートに戻し、主将は自分で取り戻せと伝える
ように、京谷にトスを送る。


『彼には今、この荒治療しかないもんね。』


及川の使い方に共感と尊敬の気持ちを向けて、
トスが上がった人物をしっかりと見つめる。
例えミスをしても、何度でも。

その覚悟をいい意味で裏切ってくれた後輩は、
緊迫感に打ち勝つように、内側に鋭く入り込み、
彼のスパイクは、澤村のレシーブも破って得点
となった。


『やったあああ!!!』


見ていて気持ちの良かったスパイクに、コート
の中からも、外からも歓声が沸いて、仲間に
釣られて、思わず悦びから前に飛び出しそうに
なった美月は、ジャージを溝口に掴んで貰い、
何とかその場にいることを保つ。


「よく打った。」


及川の讃える言葉に、歯車が噛み合ったことを
美月も確信して、烏野を乗せることなくすぐに
追いつき、同点でコートチェンジまで持って
いった。


『飛雄、今のは驚いただろうな。』


金田一の進化したブロードに、動揺した影山の
表情も見逃さず、このまま及川に呑まれること
を願ってしまう意地悪な先輩である事を今だけ
は許して欲しい。


「俺が居れば、お前が最強だ。」


同点から動かないこの状況から、そんな気持ち
が芽生えてしまうが、彼のチームメイトの格好
良過ぎる言葉を聞けば、そんな思考は気持ち
いいくらいに、吹き飛ばされる。


「かっけぇな、オイ…!」


「全くだよ。」


『こっちの邪念も飛ばしてくれちゃって。』


そしてその言葉の通り、京谷の打った攻撃を
ワンタッチで止め、ネットに近すぎる日向に
躊躇う様子も見せずにトスを送る影山に、尊敬
と憎らしさの両方の感情が生まれる。


『でも、先輩達も優しくないもんね。』


その成長を止める為に、及川と岩泉も容赦なく
仕返しをして、その点は絶対に譲らない。
3年生の意地を見せつけて、1点を取られても
それはすぐに取り返した。


『矢巾、頼むね!』


そして、ピンチサーバーとして出る頼もしい
後輩の背中を押して声援を送り、上手くカバー
し合って、獲得した点をしっかりと讃えた。


「クソガキ…。」


及川に悪態を付かせる程に、日向はここでも
また進化を見せ、美月の背中にも嫌な冷や汗
が流れた。


松川のコース絞りをフェイントで交わした日向
に、仲間も同じく苛立ちを見せ、矢巾との連携
プレイは切られてしまった。


『矢巾、ナイスファイトだった!』


「ありがとうございます。」


しかし、その後も集中力は絶対に切らせず、
向こうの攻撃を絶対に許さない。



『松川、ナイスキー!』


そのラリーの最後は、松川が悔しさを取り返し、
互いに20点を迎えたところで、山口がピンチ
サーバーとして、またその場に現れた。


彼は再び迷いなく打ち、京谷が見逃すか悩み、
インを避けて手に当てたサーブは伸びてしまい、
今度は逆の結果に下唇を噛み締めたら、岩泉が
粘りを見せ、滑り込んでそれを止めた。


『ハジメ、凄いっ!!!』


スイッチの入った彼は、誰も止められない。
後輩達も彼のプレイに憧れ、興奮をする。
そしてそれは美月も同じで、ギラついた彼の瞳
を見た時、レシーブを受け取った快感が彼から
伝わって、自然と身体が震えていた。


シンクロ攻撃の東峰のスパイクも、乗っている
岩泉はまた止めて、花巻がフェイントを掛け、
山口のサーブは1本で止まり、22点対23点で、
こちらが1点のリードをキープしたところに、
及川がボールを手に取った。


『サーブに磨きをかけているのは、烏野だけ
じゃない。それにウチの主将の方が上だ。』


その気迫で、スピードで、コースで。
彼の一発は、すぐに周りを圧巻させた。


ミスを許されないこの場で、誰にも触れさせは
しないサービスエースに、美月もぐっと、手元
には力が入る。


「もう一本!」


マッチポイントで、タイムアウトを使って流れ
を切られることなんて、何度もあった。
この空気にはすっかり慣れっこだ。


美月はその何度も耳にした、その彼を遮ろうと
する笛の音に耳を傾けながら、仲間達の元へ
ドリンクを渡しに急いで駆け寄った。







top