青春ソーダ

及川が飛び立つ日は彼に似合う見事な快晴で、
今朝彼女が見たものは、幼馴染みの2人と仲良く
なるきっかけであるバレーチームにいた時の夢
だった。

「牧野さんもバレーやってたの?」


『う…うん、及川君と岩泉君も?』


「お前、デカいもんな。」


「岩ちゃん、それ女の子に失礼だよ!」


目を輝かせてこちらに話し掛けてきた彼らに緊張
していた頃が嘘のように、目覚めた時に見えた
熟睡した彼らの寝顔。


『長いようで、あっという間だったね。』


決まった過去の夢にもすっかり慣れっ子なはず
なのに、色んな想いが巡り、懐かしさで胸は
締め付けられる。


『辛気臭さを出してちゃ、駄目だ。』


美月はしっかりと腕を伸ばし、隣の床に敷かれた
布団の上で眠る幼馴染みを揺すって起こした。


「嘘でしょ。二人はどこまで一緒になれば気が
済むの?」


それは春休みになり、慌ただしく住まいを決めた
時に青ざめて発した及川の一言で、それを平然
と美月と岩泉は耳にしていて、同じ方向に首を
傾げる。


及川がそんな不満を吐くのも無理はなく、同じ
大学に進学が決まった美月と岩泉は、住む部屋
さえもお隣同士に決まった。
それはたまたまの出来事で、彼らを責めても
どうしようも無く、それがまた及川には辛い。


美月と岩泉の両親は共に、知人がすぐ隣にいる
環境に安心していたが、それを別意味心配する
人間はそこに1人いて、岩泉に変な気を起こすな
と釘を刺そうとすれば、逆に彼は岩泉に殴られ
てしまった。


及川のブーイングに構わぬままに時は流れ、2人
は新しい土地で日々を過ごし、数週が経った。
そして及川もまた新しい挑戦の為の準備は整い、
彼を送り出すその日。


「…クソ川、てめぇ。」


「そりゃあ、岩ちゃんの家か美月の家かって
言われたら、美月の方を選ぶに決まってるべ!」


『どっちで寝ても、一緒だと思うんだけどな。』


卒業後もマイペースだった彼は、前日は美月の家
に泊まると言い出して、そこから言い争いをする
2人に美月は呆れた顔をする。


「じゃあ、及川と岩泉が美月んち泊まって、
美月が俺の家来れば寝れるだろ?」


「「んな事、させるわけねえだろ!!!」」


「花巻、聞こえてるからな?」


出発前夜だからと駆け付けた花巻が2人の会話を
聞いて口を挟めば、血相を変える2人とその場に
参加出来なかった、電話越しの不機嫌な松川の
反応は相も変わらず。


未だ彼らの関係は残念ながら延長戦に持ち越さ
れ、牛島も東京にいることから、彼らの進展は
無いようだった。


「クソ川、お前鍛え過ぎだろ?無駄に大きく
なってやがるから、狭い。」


「岩ちゃんこそ、もう少し小さくなれない?」


『あちゃ、やっぱり狭そうだね。眠れそう?』


「やっぱり、美月のベッドがいい。」


「うんこ野郎、それ以上動いたらタダじゃ
おかねえ。」


「そっちが、自分の部屋帰りなよ!!!」


結局、狭い床に及川と岩泉は布団を敷いて喧嘩
をしながら美月の部屋で眠り、久しぶりに揃う
3人に、彼女は嬉しそうに笑う。


次に目が覚めた時には、何だかんだ爆睡をして
いた二人を見て、先程の感情が沸きあがる彼女
は、目を擦って寝ぼけている2人にコーヒーを
入れ始めた。


『徹、忘れ物ない?』


「うん、大丈夫。…あ、及川さんがいなくても
寂しくならないように、何か置いておこうか?」


予定通りに支度が済んだ3人は空港に到着して、
最後に念の為にと心配した美月に、及川が冗談
交じりで質問に質問を重ねて返すと、岩泉はまた
つまらない事をと言いたそうに彼を冷たく見る。


彼女必死に首を横に振りだすので、彼はそこまで
否定しなくも…と、少し拗ねた様子で口を尖ら
せていた。


『そんなものなくても、徹が頑張ってるって
思ってたら寂しくない!』


しかし彼女からは真面目な返事が返ってきて、
及川を見る彼女の目は、真っ直ぐだった。
涙を堪えた、最後まで彼女らしく頼もしい言葉
に及川は眉を下げ、強くあろうとする彼女の髪
を及川は優しく撫でる。


「…だな。」


彼女の言葉に続いて岩泉も彼女の頭にポンと手
を置き、岩泉はそれ以上は何も言わなかったが、
及川は岩泉と2人で交わした言葉を思い出した。


迷わず、進めよ。


その気持ちは彼女も同じで、言葉を詰まらせた
及川は彼らにくるっと背を向け、「まったく、
2人は狡いよ!」と嘆く声を上げ、歩き出す。


「じゃあ、行ってきます!」


出発時刻は迫っていて、再び幼馴染みに笑顔を
向けて立ち去ろうと、及川は振り返った。
最後に目が合う、大好きだった初恋の人。


『徹、ファイト!!!』


「美月…。」


何度、彼女のその言葉に励まされただろう。
愛おしかったその笑顔が目に入ると、どうしても
彼の中の抑えていた気持ちは溢れ、及川は足を
進める前に後悔をしたくないと、卒業式では
伝えられなかった言葉を口にする。


岩泉にも構わず美月の目の前にずんずんと進み、
両肩をガシッと掴んで発した言葉は突然のもの
だった。


「俺が一人前になったら、恋人になろう!」


『…徹?』



美月に向けて、はっきりと告げた言葉と貫く瞳。


「美月の事、ずっと好きだったよ。」


目を丸くして、口元を押さた彼女に再び及川は
満足そうにニッコリと笑顔を向け、彼女に再び
「行ってきます。」と微笑んだ。


「及川、お前…。」


「安心して。美月の事でバレーが出来ないって
事には絶対ならないから。てか、岩ちゃんも
油断してたでしょ?…俺は、前に進む。」


その説明は普段と変わらない、飄々とした口調
から最後の言葉を言った時、真剣な顔付きへと
変わる及川に、岩泉も息を飲んだ。


及川との長年と付き合いから、岩泉もそれはいつ
起こってもおかしくないと覚悟は決めていた。


ただそれがあまりにも突然過ぎて、彼女と同様
に目を見開き返す言葉を探す岩泉に、及川は
ニヤリと笑う。


「勝負だ。」


及川はそれだけの言葉を残し、鋭く見る岩泉は
上等だと口角を上げて返せば、及川は満足した
のか、そのまま足を進めた。


「ふーんだ、返事はまだ聞いてやるもんか!」


「最後まで、うんこ野郎かよ。」


岩泉の呟きに及川は声を出して笑い、岩泉は
そこで旅立つ友を相棒を恋敵を見送った。


呆然とする美月と岩泉だけが残り、彼は及川の
せいで自分の温めてきた気持ちを彼女に伝えな
ければならなくなったのが癪に障るのか、深く
息を吐く。


満面の笑みで旅立った及川とは反対に、岩泉は
仏頂面を美月に見せ、呆然とする彼女の頬を
容赦なく彼は引っ張った。


『ハジメ、いひゃいっ!』


「安心しろ、これが現実だ。」


美月に向けたその言葉を自分にも言い聞かせ、
彼はそのまま強引に彼女の手を引き、ずかずか
と空港を後にする。


「美月、話がある。」


彼の飛び立つ飛行機までは見送ってやるものかと
心の中で悪態をついて、この先の自分の恋路を
邪魔する輩達を目に浮かべ、彼も気持ちを引き
締める。


岩泉が意を決して口を開くまで、あと数秒。
それを聞いた彼女の反応は、予測不明。
彼らの新しい物語はもうすぐ幕開けだ。





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