せっかくならあなたと

美月が作業を止め、嬉しそうに自分達の元へと
駆け寄ったあの日、国見はすぐにそれは緊張感
から安心感に変わっていた。


彼女におかえりなさいと言われた事が嬉しくて、
変わらぬ笑顔で迎えてくれたことに感謝をして、
優しく触れた彼女の温もりを今も覚えている。


「…あー、もう、くそ。」


美月達を見送ってから数週が経ち、居心地良く
彼が見ていたものは、自分が入部したばっかり
の頃の彼女に会う夢で、彼女ともう当分は会え
ない現実に、悪態を付く。


今日は月曜日なので、春休みに入った本日は練習も休みの完全オフ。


まだ眠りについていたい国見は二度寝を決めよう
とすれば、彼に一通のメッセージが届いて、彼は慌てて飛び起きた。


ハッピーバースデー、英!先輩から囁かな贈り物
を渡したいと思うのですが、時間はあるかな?


「これは、夢じゃないんだよね?」


時々交わす、美月とのメッセージのやり取り。
彼女の性格上、自分を祝うメッセージを送って
くれるのは予想済みで、もちろん国見はそれを
楽しみにしていた。


ただ今ここにあるのはその期待を上回る文面で、
「嘘じゃないなのか。いや、エイプリルフールは
まだ先だ」と疑う気持ちで、興奮から頭の中を
ぐるぐると混乱させながら、思わず自分の頬を
思い切り抓る。


ズキズキと走るその痛みは、夢じゃない。
その喜びを噛み締めて、すぐに美月に返信をし、
待ち合わせ場所や時間を決めると、急いで彼は
私服に着替え始めた。


『英、せっかくの休みなのにごめんね。』


「美月さんこそ、わざわざすみませ…。」


きっとその場に金田一がいれば驚く程に、彼は
時間ピッタリ…否、早めにそこに到着。


もちろん、待ち合わせ場所にはそれよりも先に
美月が到着していて、彼が待ち合わせ場所に
到着した時、ふと国見は12月の合宿の時の五色
の会話を思い出す。


彼が先にその姿を知っていた事が腹立たしく、
確かに五色の言った通りに、彼女の雰囲気に
ピッタリで可愛い。


春らしい美月の服装をしっかりと目に焼き付け、
その時の動作が国見は止まっていた模様で、彼女
に声をかけられて我に返った。


「美月さんが素敵なので、見蕩れてしまい
ました。」


『もう、英は本当に上手いんだから。これだけ
じゃ、プレゼントは足りなかったかな?』


ぽつりと呟いた国見の素直な感想に美月は声を
出して笑い、彼に改めてお祝いの言葉を述べると
準備していたプレゼントを差し出す。


「ありがとうございます、嬉しいです。」


国見の喜ぶ反応に美月も満足した様子で笑顔を
返し、『今年はちゃんと渡せてよかった。』と
次に見せた表情は、少し寂しそうにも見えた。


『明日から、ついに東京に行きます。』


「そうなんですね、でも岩泉さんも一緒じゃ?」


『うん、一緒。だから心強いところもあるけど、
やっぱりずっと過ごしてきたここを離れるのは
寂しいね。』


「そうか…、そうですよね。」


自分からした質問の癖に、その答えに国見の心は
チクリと痛んで、さっきまでの浮かれた気分は、
すぐに現実に引き戻される。


『何だろう、英がそんなに寂しがってくれる
のは意外だったなぁ。』


「そりゃあ、すぐに会いに行ける距離じゃ無い
じゃないですか。」


『んー、意外と新幹線でダーッと…若しくは
車でばあーっと。』


「最近、先輩達に擬音が似てきましたよね?」


しかし、不思議と二人の間にしんみりとした空気
は流れず、国見は彼女のペースに流されている
のか、部活の練習中の時の様なやり取りで、彼の
中の寂しさは少しずつ埋められていく。


「だったら、次はゴールデンウィークには帰って
来てくれますよね?」


『帰れると思うけど、その頃バレー部は合宿中
じゃないのかな?』


「だから、尚更ですよ。あの頃を思い出して、
美月さんが元気が出るように。」


国見の言葉に、美月もまだ一年も経っていない
出来事なのにそれを懐かしく思い、後輩の彼から
「寂しくなったらいつでも迎えます」と大人びた
台詞を聞くとは思わなくて、彼女は感動から、
口元を押さえてしまった。


『英が、立派になってる。』


「まだまだ発展途上ですから。」


後輩の成長に動揺する美月に、国見はニッコリ
と笑顔を向けて、彼女に子供扱いはもう禁止だと
釘を刺しておく。


「だから、次にあった時は…。」


もっと、俺を意識してくださいね?


そう告げる予定が、このタイミングを狙うかの
ように、美月のスマホは突然鳴って、その連絡
は彼女の次の予定だったらしく、彼女は慌てて
顔を上げていた。


「すみません、美月さんもお忙しいのに。」


『いや、こっちから誘ったんだから!…これも
飛雄だから大丈夫。』


「…飛雄?」


忙しい彼女の時間を割いた罪悪感は、その名を耳
にするとパッと消え、国見もよく知る呼び方に
彼は怪訝な顔を見せる。


『そうそう!春の課題を手伝って欲しいって…
本当に卒業してからもあの子ってマイペースで。』


そして、美月も気が緩んで話を続けていたが、
とある事に気がつき、静かになっていく空気に
ハッと息を飲むと、国見の様子を伺った。


「なるほど、次の予定は影山か。」


他校の後輩の癖に勉強を見て貰ってるのかよ!


本音は隠していたが、目の笑っていない国見の
笑顔に美月は戸惑って固まり、それが試合以来
の不機嫌ぶりで、どうしちゃったの?と冷や汗
を流す。


続けて鳴るのは影山からの着信で、それを切る
わけにもいかず、彼女はそのまま国見に謝って
電話を取ると、それを国見がひょいっと彼女から
奪い取っていた。


「美月さん、あの…」


「悪いけど、今日美月さんは急遽予定が入った
から。課題は自力で何とかしなよ?」


「・・・は?」


何故、国見の声が?と、影山が状況を把握する前
に国見は容赦なく彼女との電話を切り、次は少し
強引に、彼女の手を引いて彼は歩く。


「美月さん、今日の予定は影山だけですか?」


『え…?あの、うん。』


「じゃあ、せっかくの春休みなんだから、勉強
ばっかりしてないでたまには遊んでください。」


『でも、飛雄が。』


「アイツには自分でやれって伝えたし、大丈夫
ですよ。」


そう言って顔を顰めた国見は、建前は彼女を
心配した口調になっているが、本音は影山に
彼女の最後の日を奪われるくらいならという
ヤキモチ。


誕生日という口実が出来て良かったと、今日が
生まれた日とオフの日が重なったことに改めて
幸運を感じながら、夢以上の期待を持って、
国見は彼女を連れて歩いた。


「美月さん、あそこの店塩キャラメルアイスが
あるらしいですよ?」


『アイス…それは素敵。…飛雄、ごめん!』


「美月さんその調子、息抜きしてください。」


この先もずっと隣にいる彼女と並んで歩けること
を願って。


「…マズい、俺の春休みは死んだ。」




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