続・絡まれ体質
「あれー、小鳥ちゃんだ。また会えたね。」
『あっ、その…お疲れ様です。』
「お前、ちょっと距離置かれてね?」
それはインターハイ予選の2日目。
忘れ物をして皆の元へと戻ろうとしたタイミング
で、突然声を掛けられた美月は驚いた拍子に肩が
跳ね、振り返る彼女はとある人物との遭遇に目
を丸くさせた。
「失礼な!俺と美月ちゃんはハグした仲だよ?」
『及川さん、誤解を招く発言は止めてください。
確かにあの時は支えていただいて助かりました
けど…。』
彼女の存在を知るその2人は片方は嬉しそうに
ヒラヒラと手を振って挨拶し、もう1人は不思議
そうに美月と自分のチームメイトを交互に見て、
彼女との関係を胡散臭いと疑う。
会って早々、及川のペースにまんまと飲み込まれ
る美月は拗ねた表情を見せ、そのリアクションを
待っていたと楽しんでいる及川は、また1歩彼女
に近づいた。
「今の美月ちゃん、もしかして先輩達と一緒に
来れば良かったと思ったでしょ?」
『思って…無いです。』
「本当に美月ちゃんは可愛いよね。及川さんに
会いたかったんだね。」
「いや、1つもそんな事言ってねえだろ。
及川は、他校の女の子困らせてやるなよ。」
及川の質問は半分正解。
分かりやすい彼女の返事に及川はニコニコ笑い、
彼の隣で呆れた声を上げる彼の仲間は、美月に
ごめんなと困った顔で笑っていた。
『すごい、主将以外の方達は大人。』
「美月ちゃんとやら、本音が盛れてるけど?」
『はっ、初対面なのにすみません。』
「いや、試合で見かけてるから初対面でもねえ
けど。ってまあ、自分の学校に必死なら見えて
ねえよな。」
冷静に分析をする美月の態度が花巻には面白く
感じていたのか、興味深そうに彼女を観察して
及川と目を合わせると「確かに」と何かに納得を
する。
「何か…こう、揶揄いたくなるタイプだな。」
「でしょ、マッキーも分かってくれた?この子、ウチで飼ってもいい?」
「しかし、松川母さんと岩泉父さんに聞かなきゃ
だろ。」
これ、スルーしちゃってもいいのかな?と頭に
過ぎる彼女は、勝手に盛り上がっている2人に
静かに一礼をして、そのまま彼らから背を向け
て進もうとしたら、隙を与えてくれない及川は
「あ!」と大きな声を出すので、再び彼女の肩は
跳ねる。
「小鳥ちゃんが逃げようとしてる!」
『いや、私も次の用事がありますので。
マッキーさんお相手よろしくお願いします。』
「ごめんごめん、面倒臭い奴に絡まれちまった
よな。」
「ちょっとしか話が出来てないじゃん!あと
ちゃっかりマッキーはポイントを稼がない!」
「不思議とお前に言われるマッキーとあの子に
言われるマッキーだと響きが違う。」
足止めして悪かったと謝る花巻とは逆に、子供
みたいに口を尖らせて、自分のお気に入りが
去るのが気に入らない主将はもう少しだけと
美月を引き止めたい様子。
自分の先輩とはまた違った曲者に彼女は一息を
吐き、それならとついいつもの癖で宥める言葉
を彼に吐いてしまった。
『また決勝で会うでしょうから、その時に
及川さんのお話聞きますから。時間が足りない
なら連絡…。』
先もと言いかけて、彼女は自分の出した条件に
後悔をする。
「今、連絡先もって言おうとしたでしょ?
聞き逃さなかったからね。」
しまったと美月の眉間に皺が寄るがそれも遅く、
満足そうな笑みを見せる及川は、彼女の耳元で
囁く。
「楽しみにしてる。」
ぞくりと背筋に何かが走り、耳の熱さに咄嗟に
彼女が自分の手で押さえると、及川は「本当に
可愛い」と小さく零した。
そう言い残した後は及川の方からその場を去り、
同じく後にする花巻も「じゃあね」と彼女を気に
入った様子で手を振って背を向け、彼女は呆然
として2人を見送った。
「美月ちゃん、結構可愛かったな。」
「やっぱりマッキーに見せるんじゃなかった。」
「いや、お前のもんでも無いだろ。」
謎の口論が飛び交う中、それを耳に入れる余裕も
無かった美月は、また余計な事を言ってしまった
と余計な不安は増える。
もちろん、彼もまた人気のある選手だという事
を心得でいたのだ。
『私、とんでもない約束をしちゃったよね?』
自分の何処が面白いのだろうと彼女は疑念を
抱き、とぼとぼ皆の元へと戻っていけば、つい
うっかり足取りが遅くなっていたせいか鷲匠
から一喝入れられてしまう。
「大丈夫かよ、何かあったのか?」
『いや、大した事無いよ。心配かけてごめん。』
美月が遅くなるなんてらしくないと、その異変
にいち早く気が付いたのは白布で、気にかけて
くれる彼に困った顔で笑い返せば、勘のいい彼
は見当がつくのか、ため息を吐く。
「年上だとしても、嫌な時は嫌ってはっきり
言った方がいい時もあるからな?」
『いや、悪い人じゃないってのは分かってる
から。ただ、勢いに飲まれちゃうだけで。』
「そこが厄介だろ。」
寧ろ気軽に声をかけてくるあたりはいい人?と
首を傾げる彼女にまた呆れた返事をして、飄々
とした態度で美月に寄ってくる光景が白布の目
に浮かぶのか、顔を顰めた。
「まあ、あの人は特例なんだろうけど。」
『牛島先輩のオーラに近いから負けちゃいそう
になっただけだよね。うちのセッター達だって
負けないくらい格好良いぞって気持ちを強く
持たなきゃ。』
「〜〜!!!?」
勝手に自己解決をする美月の結論が突然の褒め
言葉へと変わるので、それにグッと胸の奥が
掴まれる白布は、目を見開くと唇を噛み締める
と緩む口元を堪える代わりに身体が震えていた。
「あらあら?賢二郎喜んでる??」
「とばっちりでこっちも恥ずいんだが。」
そしてたまたまそれを聞いていた天童や瀬見も
思わず彼女の方向に意識が向いて、天童は2人の
セッターの反応を面白がり、むず痒い気持ちに
なる瀬見は、口元を押えていた。
『駄目だな、言い返す勢いが無いと。』
「美月ちゃーん、ブロックも素敵ですって言って
欲しいな。」
いつの間に彼らの間に入ってきたのか、彼女の
両肩にポンと手を置くと自分も欲しいと天童も
催促し始め、どこから聞き付けたのか、目を
光らせた五色も直ぐにその場に駆け寄った。
「じ、自分も、励みの言葉を頂ければより一層
実力を発揮出来ると思います!」
「…うわ、一気に煩くなった。」
賑やかになってしまったその場で、ボソリと
不満を吐く白布と美月は目が合って、ニコリと
笑顔を見せる彼女を見るとなんとも言えない
感情が出る彼は、視線をずらす。
「それ、無意識かよ。」
彼女の嬉しいエールもあったからか、調子はいつ
になくいい状態のまま試合に望み、準決勝を
控えた彼らは、淡々と駒を進めていると実感する。
このまま平穏に進むのだろうと次の準備に取り
掛かかるも束の間、どうも今日は厄日に近いの
では?と頭を抱える美月は、その派手な髪色の
相手に数歩下がるやり取りをする事となった。
「君、結構可愛いね!ね、メアド交換しない?」
『ま、間に合ってます!』
「まあまあ、そんな硬いこと言わずに。白鳥沢で
マネージャーやってるなんて、凄くね?」
「すみません、ウチのに何か?」
『賢二郎!どうせなら、うちの凄腕セッターと
仲良くなる方がメリットがあるかと!』
「馬鹿、そうじゃねえだろ。」