その隣に



自分の学校では絶対に目にしないタイプの同い年
の選手に驚いて、一歩、自分の前に出てくれた
白布の背中を頼もしく感じ、それでも相手に圧倒
されている美月は白布の服を思わず掴んだ。


自分よりも絶対に目の前にいるセッターと深い
付き合いになる方が、絶対にメリットがあると
大真面目に答える美月に白布は頭を抱え、彼ら
はそういう意味で聞いたのとは違うと言いたく
なった。


「君、マジで面白いタイプじゃん。」


相手側にも彼女に言っても意味が無いと認識して
欲しいのに、かえってそれは好奇心に変化して
白布の眉間には皺が寄り、口元は引き攣る。


白布が冷静にその相手に対応しようと心掛ける
のは、美月の頼る声が後ろから聞こえるから
だった。


「向こうの主将がまともで助かった。」


『ちょっと強引でビックリしちゃったね。
フォローしてくれてありがとう。それと迷惑
かけちゃってごめん。』


「お前が悪い訳じゃ無いんだから、別に謝ら
なくてもいいだろ。」


『うーん。頼りなく見えて声を掛けられたの
かもだし、完全に悪くない訳じゃないかも。』


「(…本当にお人好し。)」


だんまりする白布が見つめ、美月達が開放された
のは30秒後の事。


相手がぐいぐいと容赦無く迫ってくるのは気に
入らなかったが、美月が自分よりもと沢山の長所
を上げ始めた為、まだ気分はマシだった。


自分の学校の主将に見つかったその金髪の生徒は
血相を変えて立ち去って、後にそれが次の対戦
相手となる事を知った美月は苦笑いを浮かべる。


自分のモチベーションを気にする美月の表情も
想定内で、彼は心配させまいとポンと彼女の肩に手を置いた。


「お前の仇は、試合で取るから安心しろ。」


『賢二郎、私何もされてないよ。』


「いや、時間を無駄にされた。」


そして同じくそれを知った白布は表情一つ変えず
に美月に決意を告げて、川西は何があったのか
察しがついたらしく、「お疲れ」と白布に労いの言葉を掛けていた。


「白布さん、表情は変わらないけどいつもより
気合いが入ってますね。自分も負けられない。」


「五色…心掛けはいいが、今日は白布にあまり
絡むなよ?」


「???」


そして、これ以上刺激しない為にも川西は白布
の様子に戸惑う後輩への対応も欠かさず、上手く
遠ざけてアップを続ける。


相手の学校には白布の感情を悟られず試合を終え
有言実行、白布の発言通りに先程遭遇した相手
の条善寺高校には1セットも取らせることなく
勝利して、見事勝ち抜いた白鳥沢は例年通り
決勝まで駒を進める事が出来た。


「今年も決勝の相手は青城だってよ。」


『そうなんだ…。』


青城も決勝まで勝ち進んだという情報を得た
美月は及川との約束が記憶から蘇り、囁かれた
熱までも思い出す彼女は咄嗟に耳元を押さえた。


「どうした、なんかあったか?」


『ううん、やっぱりそうなるかと思って!』


「何だかんだ、毎年恒例だもんな。」


心配する川西に上手く誤魔化して、美月はその後
も及川に出会わないまま片付けが済み、帰り道は
とてもスムーズだった。


色々なハプニングが重なって予想よりも体力を
消耗していたらしく、バスに揺られると眠気が
襲ってうとうとと身体が振動と共に揺れる。


マネージャーの珍しい光景は先輩も気になる模様
で時折様子を伺えばつい話題に出してしまい、
同じ方向に彼らの視線は向いた。


「頭をぶつけそうでヒヤヒヤするな。」


「こういう時に限って一人で座ってるし。」


「美月ちゃんの寝顔ってレアだよね。」


「お前はまたそうやって…」


山形と瀬見がそう会話をしていると、前の席に
座っていた天童はスマホをかざしてその寝顔を
写そうとして、それを見逃さない大平が止める。


「美月さんの寝顔…?」


楽しそうな3年生の会話が聞こえてくると、彼女
を慕っている後輩も気になってしまい、様子を
覗き込もうとしたら、遮る角度にいた白布と目
がバッチリ合ってしまい、五色は慌てて窓側に
視線を戻した。


「牛島さん…?」


驚きの光景は、五色に注意が逸れた時だった。


信号待ちのタイミングで思わぬ人物が席を外し、
驚きから白布が彼の名前を白布と口に出すが
牛島はその呼び掛けを気にとめないまま、隣側
の席に移動して、その支えを自ら行った。


自然ともたれる場所を求める美月はその隣に誰
がいるかも分からずコテンと傾き、その行動に
驚く仲間は隣にいたもの同士で顔を見合わせる。


「牛島さん、しんどくないですか!?」


「これくらいなら、大した事ない。怪我をする
よりマシだろう。」


「二日連続で美月ちゃんのお世話しようとする
なんて、珍しいね。」


「普段こちらが要望する前に気がついてくれて
先回って動いてくれている。こういう時は主将
として、恩を返すべきだろう。」


意識がはっきりしている時なら、彼女は慌てて
その厚意を遠慮したりするのだが、今は完全に
逞しい支えに安心しきってすやすやと眠り続け、
牛島も役割を全うする。


牛島が目を細めて言う姿と一緒に見ると微笑ま しくも思えるのか3年生は温かい眼差しを向け、
白布や川西、そして五色は見た事ない牛島の
表情の衝撃が大きいのか、言葉を詰まらせた。


「慕ってくれる妹的存在に嬉しい感じか。」


「妹?美月はマネージャーだ。」


「そうだね。うん、やっぱり写真撮って後で
美月ちゃんに見せてあーげよっ!」


「お前、後で怒られるぞ?」


天童がスマホを再びかざせば、シャッター音は
予想よりも大きく響き、優しく見つめた牛島の
表情が真顔に変わって、「彼女が起きてしまう」
と嗜めるので、周りはそれにも驚愕する。


「ごめん、若利君。」


「天童も謝ってるし!」


「明日の決勝、雨じゃねえよな?」


「若利、これ掛けてやれよ。」


「分かった。」


少しだけ羨ましいと思ってしまう気持ちを抑え、
未使用だからと瀬見が牛島に渡した大きめの
スポーツタオルが美月に掛かり、もうしばらく
到着まで穏やかな時間は流れる。


バスが到着し、起こされてゆっくりと瞼を開けた
彼女はパチパチと数回瞬きをして、反対側に
いたはずの牛島との距離に驚きの声を漏らす。


『えっ、牛島先輩…?私…何で…!!?』


「ゆっくり眠れたのであればいい。」


弾力のあるその支えと牛島の発言で状況をすぐ
に把握した美月は、ひょっこりと前から顔を
出す他の先輩の集中する視線にも気がつくと
体温が急上昇。
咄嗟に瀬見から借りたタオルで顔を隠した。



「美月寝顔、可愛かったよー。」


『うう…、私はなんて事を…。』


「まあまあ、たまにはアリだって。」


結局、ミーティングの終わりまで揶揄われる彼女
は嘆く声を上げながら仕事して、最後は思い出す
と恥ずかしさが再び混み上がるのか、白布の背
を頼って彼の服を掴み、自分の心を鎮めた。


「美月、動きにくい。」


「そう言いながら、お前顔はホッとしてない?」


「太一、うるせえ。」


『牛島さんの肩に支障をきたしてしまったら
どうしよう。明日が決勝なのに。』


「…俺はそこまで軟弱な人間では無い。」


『!!!?』





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