その後の反応



「わーかとーし君、何かいい事でもあった?
練習が終わってからもご機嫌だなって思って。」


「いい事?特に変わった事は無かったが。」


「そう?でもいつもより楽しそうだから。」


「お前、またそうやって若利に無茶振りを。」


「…いや、一つ面白い事はあったな。」


食堂でのその会話は見慣れたやり取りだったが、
天童からの質問を肯定する一瞬のその表情は
他のチームメイトを驚かせる程優しく、そして
彼らは初めて牛島の思い出し笑いを目にした。


「面白い事ってなになに?」


「あれは別に誰かに話す程の事では無い。」


「勿体ぶってないで教えてくれてもいいのに。」


天童が掘り出そうとしても牛島は黙々と口にし、
答えようとする素振りは見せず、そのまま先に
食べ終えた牛島が席を立つ。


このまま会話は終了したものだと思った矢先、
しばらく経ってから「少しこちらも恥ずかしく
なる」と牛島の口から予想外の答えが返った為、
天童だけではなく同じテーブルにいた瀬見や大平
も目を丸くして驚く声を上げた。


「今、恥ずかしいって言わなかったか?」


「若利君にあんな顔させる子なんて、一人しか
思い浮かばないんだけど。」


天童の言葉に苦笑いを浮かべる瀬見は、頭の中に
浮かんでいる人物が天童と同じなのか、その後の
とある後輩の様子を心配し、天童は頬杖を付いて
牛島の背中を見届ける。


「ホント、たいそうお気に入りだねえ〜。」


「確かに、若利は彼女をよく気にかけてはいた
気がするが。」


「美月、若利と会話して生きてたかな。
緊張のせいで熱出さなきゃいいけど。」


「えっ、まさかのそっちの心配?」


「何だよ、そっちの心配って。」


「瀬見先輩、ドンマイ。」


「なんでお前にそんな顔されなきゃならねーん
だよ!そもそもお前の先輩でもねえし!」


瀬見が鈍感な返事をすると、何故か哀れみの目を
向ける天童は彼の肩を叩き、それに納得いかない
瀬見が彼の手を振り解いて怒れば、その反応を
面白がる天童は「先輩、こわーい!」と一つも
怖くなさそうな声を上げて瀬見を苛立たせた。


「本人は無自覚なのが余計に厄介。」


ひっそりと呟いた天童の声は誰にも聞かせず、
彼は今度は自分達の会話を耳にしてまたもや
闘争心を燃やし始める五色を見つけて遊び始め、
天童は自分の本心は上手く誤魔化す。


「俺だって、いつかは尊敬される立派なエースに
なってみせる!」


「また暑苦しいのが増えた。」


すっかり食堂は五色の威勢のいい声が響き、その
状況を見て、影響の受けやすい五色を見ていたら
冷静になる白布は、鬱陶しそうに後輩の宣言を
眺めていたが全く気にならないと言ったら嘘に
なるのか、翌日にはつい彼女に意識が向く。


「お前もじゃん」と川西に呆れた言葉を掛けら
れていたが、白布は聞く耳持たずで様子を伺い、
美月も練習中は特に変わった事は無く至って普通
通りだったが、白布が教室に戻った時には彼女の
様子は変わり始めていた。


『先輩も笑っていたけど、やっぱり図々しい奴
だと思われたかな。あの会話をもし賢二郎が見て
いたら、失礼だろって確実に怒ってたかも。』


美月は嘆く声を上げながら机に伏せていて、
何となく、彼女の反省する言葉から白布が想像
していたものとは違う判断し、深く息を吐く。


「お前がぐずぐず言ってる方が怒られたいのかと
思うけど?」


前の席に座った後に彼女にそう答え、彼女の頭に
貸す予定 だったノートを乗せると美月は恐る恐る
白布を見上げた。


「んな目でこっちを見るなよ。」


自分に助けを求めるその目に弱い白布は、わざと
ノートで美月の目を隠すと、彼女から弱々しい
が返っきて、またいつものが始まったと再び
ため息を吐く白布は「聞こえない」とあからさま に美月に嫌そうな顔で答える。


『賢二郎〜!』


「昨日、先輩達の間で話題にはなっていたけど、
牛島さんはお前の態度については一言も言って
無かったって。」


『牛島先輩は優しいから。』


「お前、よく分かってんじゃん。」


昨日の牛島のぽつりと吐いた感想は今は伏せて
おいて、「この心配性」とノートをぐりぐりと
美月の頭に押し付ければ、『痛い!』とそこを
押さえる彼女の表情は何処かホッとしたように
見えた。


少し面倒に思えてしまう心配性の相手をしなくて
済んだのに、何故か白布の胸の奥は少しチクリと
傷んで、複雑な気持ちになる。


「朝練の時は平然としてただろ。」


『挙動不審な行動をとって余計に変人だって
思われたくないから。』


「天童さんにも揶揄われてた癖に。」


『天童先輩は、いつもだから慣れっ子だし。』


「変な奴。」


『酷い!ここだとリラックス出来るんだって。
賢二郎には不思議と正直に答えられるんだよ。』


「ふーん。」


『もう、分かってるよー。心配し過ぎだった事も
ちゃんと認めます!』


「よし」と認めた彼女に納得をした顔を見せると
美月は申し訳無さそうに笑い、白布はいつもの
様にそっけなく背を向けた後、 牛島が美月を
見る時の表情を考えると脳裏に不安が過ぎって
しまった。


人の事言えた口かよ。


心の中でそう嘲笑する白布は、気持ちを落ち着か
せる為に目を伏せ、今はそんな事を考えている暇
など無いと、自分に言い聞かせる。


『賢二郎、今笑った?』


「あ、いや…何でもない。」


そしてそれと同時に、敬意を表していた牛島を
疑うなんて失礼だと彼は深く反省し、しかしそれ
も美月に知られたくない白布が素っ気ない返事
を返すと、彼女は少し不服そうな顔をしていた。


『賢二郎は本当に相手に読ませないよね?
これでも少しは賢二郎の事を分かってきたと
思ってたんだけどな。』


「これでもお前には素直な方だけど。」


『それ、初耳だ。』


いつか、もしも、本当の気持ちを伝えた時には。

その言葉を飲み込んで、楽しそうに笑う彼女に
目を細める彼は自分の性格を今は厄介に思い、
今日に限ってと言いたくなるほど、その日は正直
に生きている後輩の姿が午後の練習からはどうも
白布の目に付く。


「白布は若利を申し訳なさそうに見たり、五色を
じっとりと目で追ったり、忙しそうだな。」


「美月の事だけは、わかり易過ぎ。」


「んー、若い…青春だね。」


「一個しか変わんねーだろ。」

自然とトスは彼に上がり、珍しくも白布の感情が 表れる日となり、彼女と一部の人間以外は、
黙って見つめているだけなのに分かりやすいと
哀れみの目を送り、変わらない練習は日が沈む
まで続いていた。


「美月さん、今の見てくれてましたか!?」


『うん、すっごく綺麗に決まってたね。』


「これくらい、出来て当然です!牛島さんを
超える男になりますから!」


「お前見ていると清々しい気分になれるな。」


「お褒めに預かり光栄です!」


「白布、顔と言葉が合ってねえけど?」





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