自分色に染めたい


誇らしげに買ったばかりのユニフォームを掲げる
美琴を見て、相変わらずの暖かい目で見守る治は
目尻を下げ、シーズン前の息抜きで立ち寄った
角名もまた表情は変わらないものの、頭の中は
彼女の可愛さに若干興奮気味で見つめていた。


「そんなのわざわざ買わなくても言ってくれたら
あげたのに。」


『ちゃいます!自分の働いたお金で買うこと
に意味があるんです!しかもこれ、ええ値段
するやないですか。』


頬杖を付いて穏やかな素振りを見せながら角名
がそう言うと、美琴は必死に首を横に振って
まだ袋から開けていないそれを彼女は大切そう
に抱きしめる。


彼女が抱きしめているものは、自分のチームの
自分の背番号と名前が入ったユニフォームだった
ので、角名はその光景を目にするだけで、十分
満足どころか、喜びで発狂したいレベルだった。


「もう、美琴は俺の持っとんやからええやろ。」


そしてその光景が気に入らないのは、自分も
プロチームに所属をして、彼の様にグッズも
販売されている双子の片割れで、彼もこちらに
たまたま立ち寄り、不貞腐れた顔でカウンター
から見ていた。


「嫉妬は見苦しいで。」


「可愛い可愛い後輩がよそのチームカラー
持っとって気分いい奴なんかおるか!」


「お前が突然来るからやろ。」


『侑さん、気分悪くさせてしもうてごめん
なさい。でも、角名さんも大事な先輩やから
応援しとうて。』


「美琴ほっとき。
コイツに合わせようたらキリないで?」


「うっさいわ!自分とこの制服ほぼ毎日拝める
からて余裕こきよって。」


「可愛ええから、えーやん。」


「めちゃくちゃ可愛ええけども!!!」


角名に嫉妬する侑を美琴が宥めようとしたら、
治が話に入ることによって、謎の惚気大会と
発展し、どうでも良くなった角名がアイツらは
ほっとこうと彼女をそっと2人から避難させた。


「袋からはまだ開けないの?」


『ああ、そうでした!角名先輩にお願いが
あって持ってきたんです。』

そう言って美琴が急いで袋から取り出したら、
厨房にある油性マジックを急いで持ってきて、
目をキラキラと輝かせて、そのユニフォームを
角名に見せるように広げて差し出した。


『先輩、サインください!!!』


ユニフォームを手に入れたらまず最初にやって
貰おうと思っていたというお願いに、角名は目
を丸くして固まっていた。


もちろん、その彼女のお願いに騒がしかった
双子の動きもピタリと止まる。
それもそのはず、彼女からサインを求められる
のは、今回が初めてだったからなのだ。


『これを自分で買ったら、角名先輩にお願い
しようと決めていたんです。』


「え…、そうなの?」

そう言った角名は純粋な眼差しで美琴にじーっ
と見つめられ、その目に弱い彼に一旦ふいっと
顔を逸らすので、美琴は少しだけ傷付くのだが、
マジック貸してと手を出し、そのままサラサラ
と彼はサインを書いてくれたので、彼女は感激
して、 またユニフォームを大切そうにぎゅっと
抱きしめた。


『ありがとうございます!』


「試合の時、ちゃんと着てね。」


『もちろんです!!!』


「よかったなぁ、美琴。」


「俺との試合ん時は、俺の着ろや?」


彼女の仕草に射抜かれそうになった角名は目線
は合わせないものの、ちゃっかり彼女に自分の
それを着る約束を付け、治はヒーローに会った
子供みたいなリアクションの彼女を温かい目で
見守る。


侑はやっぱり、納得いかないように見えたが、
喜ぶ彼女の表情を見れば、少しだけ許そうと
いう気持ちになるのだった。


「てか、美琴。今見せてよ。」


『ん?今ですか???』


普段は絶対にそんな催促なんてすることの無い
角名が、変わらず目線は向けないものの、彼女
にそう言って着ることを強要したので、彼女
だけではなく、治と侑も彼の言葉を耳にして
「は?」「お前、今なんて言うた?」とぱちぱちと
大きく瞬きをしながら、角名を見た。


美琴は驚きながらも、せっかくなのでとへらっ
と笑うと、とある事を思い出して少し恥ずかし
そうに彼らを見た。


『せや、これ着ても決して笑わんといて
くださいね?』


「おん、笑わんけどどうしたん?」


『実は…』と彼女が制服の上からそれを着て、
彼らはその姿を見たらあることに気がついた
のか、ハッと目を見開き、彼女は照れ臭そうに
笑って見せた。


『サイズを間違えて買うたから、ちょっと
これ大きめなんです。』


ユニセックス仕様の為、Sサイズでも若干大きめ
になってしまう彼女は、誤ってLサイズを買って
しまい、所謂彼シャツ状態になった模様で、
下にデニムは履いているものの、疚しい彼らは
何も無い時をつい想像してしまう。


「はああぁ、何なんそれ!!ズルいやろ!!」


「あかん…美琴。それはあかん。
…俺のサイズの制服も着せたなるやん。」


「俺らのサイズやともっとエロ…エライ事
なるやん。」


興奮気味に食い気味の侑に口元を押さえている治と、彼らの謎の反応に彼女はなんの事やらと
戸惑うが、それよりも言葉を一言も発さず、机に
突っ伏している角名の様子の方が気になる。


彼女が心配して声を掛けるも、彼は震えながら 手を上げるので、その理由をちゃんと分かって いる侑と治は、死んだな。と苦笑いを浮かべて
いた。


『ちょっと角名さん、息してますか?!
私、変すぎてそんなにおかしいですか?』


「美琴、お願いや。ソイツは大丈夫やから、
そっとしたって。」


「(お前もいい加減慣れろや!!!)」


「(無理…てかアレで試合来たら俺卒倒かも。)」


彼女が触れてさらに状態悪化の角名を見た侑が
見兼ねて、彼女をゆっくりと遠ざけてあげて、
治はとりあえず水を飲めと彼に差し出す。


角名は伏せた状態でそれを受け取るも、治に
渡したのは自分のスマホで、さりげなくそれを
写真に収めるように指示してきた彼を見て、
治は「意外と余裕やん。」と呆れた様に、彼を
見下ろすのだった。


「美琴、頼むからその姿はここだけにしようなー。」


『はい、やっぱり似合わないですよね。』


美琴の肩に手を回して、こっそり彼女にそう
伝えると、悲しそうに肩を落とすその姿を見た
ら、彼女が少し可哀想になり、そこは全力否定
をし、近くで見たら不謹慎にも自分も少しムラ
っと来たのか、ついつい余計なお願いを追加
する。


「それ。今度俺のと同じサイズでやってくれ
へん?」


『侑さんのは、もう買うとるのに…?』


「んー、そこをなんとか!美琴のもんの色んな
とこに別のサインもいーっぱい書いたるから。」


「「侑、それやったら殺す!!!」」


『あ、先輩が生き返りました!よかったー。』


別のサインという言葉に嫌な予感がピンと来た
角名と治が反応し、むくりと起きた角名に美琴
安心をしてやんわりと微笑む。

すると、やっぱり自分で撮りたくなったのか、
彼は治に渡したスマホを自分の手元に戻し、
美琴とこっち向いてと笑顔の彼女を写真に
収めるのだった。


『角名さん、私と一緒に記念撮影もお願い
します。』


「え、いいけど。待って…近くない?」


「そう言いながら、お前ちょっと慣れてきとる
やろ。さりげなく腰に手を回すな。」


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