遠方にいる仲間が帰って来て店に寄ると、毎度
の如く飲み会が行われ、今回は治、侑、角名に
銀島、そして美琴とお馴染みの面子が揃い、1つ
の卓袱台を囲った。
今回は人の目を気にしたくないと角名が言い
出したので、本日だけ特別に店を早めに閉め、
治と美琴で適当につまみを作り、飲むものは
侑と角名と後から合流した銀島が準備。
『そういえば有名人2人一緒に買い物お願い
して大丈夫でしたか?銀島さんも来たばっかり
やのにすいません。』
「ええよ、こんくらい気にすな。」
「俺達も大丈夫だよ。俺は元々気配消すの得意
だし、侑は帽子被ったらただの治じゃん。」
『私が行けばよかったのに、すみません。』
「いや、お前が行く方が絶対に危ないからな。
もう夜の7時やで?」
『まだ日が明るいから。』
「美琴、甘い。不審者はこの微妙なタイミング
で現れやすいんだから。」
カウンター越しから、先輩達にお使いをお願い
した事を美琴が気にかけると3人にはそう言っ
て注意され、ふと昔もこうしてよく心配をして
くれていたことを思い出し、何処か可笑しく
なった彼女はふふっと笑いながら、彼らに礼
を言った。
『銀島さん、お酌しますねー。』
「何で瓶ビール買う買う煩いんやろ思うたら、
そうゆう事か。」
メインは治が作り、副菜は美琴も手伝って、彩り
良く並べればそれぞれが座って、トクトクトク
と早く飲み干したい音が目の前で聞こえ、可愛
らしい後輩のお酌に思わず銀島の口元は緩む。
頑なに2人が瓶がいい!と言い出すので、何事
かと思えば、1杯目のこれには彼も納得して、
侑が先陣を切って乾杯の音頭をとった。
『ここで治さんの作ったもの皆で食べるのは、
なかなかの贅沢ですねー。』
「美琴が嬉しそうで何よりや。」
「ほんま、久しぶりに皆が集まったもんな。」
「なんだかんだ、このメンバーが楽だよね。」
「今日は貸切やしな。」
2人が作った料理を皆が美味いと表情を緩ませ
ながら食べるので、治と美琴は、嬉しそうに
微笑みあった。
そして、治の作った天ぷらを美琴もやっぱり治
が1番やと顔を緩ませて、美味しそうに口に
するので、治は1番の酒の宛を眺めながら、
美琴が作ったナスの揚げ浸しを口にし、こっち
も最強やんと言葉を返す。
「治、新商品あったからこれも買うたで?」
「おっ、美味そうやん。銀さすがやな。」
ある程度お腹に溜まったところで、これからが
本番だと銀島が日本酒の瓶をドンと置けば、
その銘柄を見た治は、見たこと無いラベルに目
を輝かせていた。
『私、グラス持ってきますね。侑さんも日本酒
のグラスいります?』
「いや、俺はええわ。」
『じゃあ、ハイボール作りますね。』
慣れたように彼女はそう言って、侑のグラスを
持って厨房へ行くと、手早く作って、治と銀島
用のグラスも手に持ち、彼らにどうぞと渡す。
「ありがとな。」
『いえいえ!』
「美琴、相変わらずお酒弱いんだ?
さっきから、全然減ってないじゃん。」
『そうなんですよ。やっぱり軽いものしか
ダメみたいで。』
そう言って彼女は弱めの缶チューハイをグラス
に注いでちびちびと飲み、こてんと寝てしまう
のが嫌で、今日は皆とゆっくり話をしたい彼女
は、その隣にはお冷も置いてあり、いつもより
も更にペースが控えめとなっていた。
「なんや。そんだけ弱いと、お持ち帰りされそう
で恐ろしいな。」
「せやから、最初同じゼミの子と飲む時は北さん
かサムがしょっちゅう同じ店行って、変な輩が
おらんか隠れて目を光らせて、見張りしとる。」
「…うわ、想像してしもうた。」
「2人ともなかなかに過保護だもんね。
美琴に対しての執着心すごいし。」
「角名、お前だけには言われとうない。」
『皆の親切には、ほんま感謝です。』
侑の話を聞いて、青ざめた銀島の向かいでは
美琴は気にしていない様子で微笑み、両隣の治
と角名はどちらが過保護かで揉め合い、それを
見た侑と銀島は「ヤバいやろ?」「なかなかや。」
と頷き合った。
『ピリ辛キュウリ、まだ食べますよね?』
空になった食器を目にした美琴がそう言って
動こうとするので、治が彼女を止めて、冷蔵庫
にあるそれを補充しようと立ち上がる。
それを見ていた銀島は、変わらない彼女気配り
の良さを感心していると、隣にいた侑が「やらん
から。」釘を刺す様に彼に言って来たので、お前
も大概やと彼は苦笑いを浮かべた。
『ん?これ…ほんのり甘い?』
ふと美琴は口にした手元のお冷をやたら甘く
感じ、不思議そうな表情でグラスを見つめる
と、侑と治は「あかん!」と焦る様に叫んだが、
時は既に遅し。
「間違うて、俺のグラス飲んだんやろ!」
「美琴、それは日本酒や!」
治は胡瓜をよそう手を止めて、侑はしまったと
頭に手を当てるので、角名は状況がわからない
まま、 隣にいた彼女の顔を「大丈夫?」と伺った。
酒が回るのが早かったのか、突然彼女がとろん
とした目で『りん…たろーさん?』と舌足らず
の発音で角名の名前を呼んだので、彼はその
表情とまさかの下の名前呼びに、ピシリと
固まってしまった。
「ど…どうしたん、美琴?」
恐る恐る銀島も彼女の名前を呼ぶが、彼の声は
彼女の耳には届いて居らず、彼女は大胆にも足を
伸ばして座っていた角名の上に跨り、彼の首に
手を回すと、ふふっと微笑んでちゅっと彼の頬
に手を添えて、そのまま彼女は頬に口づけを
落とした。
「あかんて!するならこっちや。」
侑が急いで銀島を跨いで2人を引き剥がそうと
するが、妙に力が強い彼女はなかなか離さず、
ちゅっとまた優しく角名の頬にキスをすると、 今度はペロッと舐め始める。
「は…?え?美琴??」
彼女からの不意打ちの誘惑に角名が耐えきれる はずが無く、その言葉を最後に白目を向いてる ので、角名が死ぬわ!と銀島も一緒になって、
2人を引き剥がした。
「女の子がそんなことしたらあかんやろ!」
侑と治が気を失う角名を横に寝かせて、銀島が
彼女にそう言って注意をするが、やっぱり人の
話を聞いおらず、『銀先輩も美味しそう。』と
ペロリと舌なめずりをしたと思ったら、今度は
彼の首筋へと吸い付いた。
「んあっ…ちょっ、美琴!」
「おい、今度はそっちか!」
「銀にもて、やっぱり誰かれかまわずやん!」
ちゅっちゅっと美琴は楽しそうに口付けを落と
し、普段の彼女とのギャップに動揺したのか、
銀島も動けずで、喘ぐ仲間の声に青ざめながら
今度は双子が彼を助けると、銀島は顔に手を
当てて、しくしくと泣き始める。
「何なん、美琴…テクニシャンやん。」
「いやこの子な、日本酒飲んだらキス魔に
なんねん。」
治が困り果てた顔で説明を初め、彼の話による
と、最初にそれを口にさせたのは、彼女が成人
して2回目の飲み会の時。
ちゃんと、どこまで飲めるかわからんとと北が
とりあえず一口と彼女に飲ませてから、彼女の
酒癖を知ることとなった。
その最初の犠牲者はもちろん北と治で、その後
は彼女の為にも、彼らの中では絶対に飲ませて
はならないと誓いを立てる程の大事件で、最近
はすっかりそのハプニングも無く、つい油断を
していた。
『治さん、ちぅしてくれへんの?』
「んー。したいのはやまやまやけど、俺は 美琴がはっきりと意識ある時にしたいねん。」
彼女の唇にかぶりつきたい衝動に駆られるも、
後から北にバレてしまった時の恐ろしさを考え
ると手は出せず、ぐずぐずに甘えてくる美琴を
治が背中を撫でて、宥める。
侑は彼女の誘惑に負けそうになのか、わからん
のやから流されてもええんちゃう?と能天気に
言い除けて、彼女においでと催促すれば、相手
をしてくれない治に痺れを切らして、侑の方へ
とすぐに抱きついた。
『あつむさーん!』
「美琴、ほんまに食べてええん?」
侑の質問に彼女がこくんと頷くと侑の耳朶に舌
を添え始め、治はそれを見て「やめえアホ!」と
怒鳴るので、侑は知ったことかと言う様に治に
向けてニヤリと笑った。
すると準備中と書かれているので、誰も入って
は来ないはずの扉が開き、「何を食べるん?」と
ひんやりとした声色が聞こえてきたので、顔面
蒼白の治を見て、侑もまさかと怯える様に振り
返る。
「き…北さん?」
「角名が来とるて連絡が美琴からあったから、
用事あったけど少し顔出そうと思うたら…
侑は何をしとん?」
そう言って北が微笑む冷えきった空気の中、
美琴はとろんとした顔で、北さんやー!と
嬉しそうに彼に抱きついて、また恥じらう事
無くの彼の頬にもちゅっと口付けを落とし、
普段からは感じない彼女のお酒の臭いに気が
ついたのか、そのまま一旦屈んで彼女を姫抱き
にした。
「あれ程、あかん言うたやろ?」
「俺らのせいちゃう!美琴が間違えて飲んだんです。」
「置いとった俺が悪いから俺の責任です。」
「すんません、持ってきた俺にも責任あり
ます。」
「治と銀は反省しとんならもうええわ。
次は気いつけや。」
北の言葉に治は頭を下げると、彼はため息を
吐きながらも彼を咎めることは無く、それより も…と侑の方へ目を光らせる。
「侑はわかっとった上で手を出そうとしたん?」
その後、彼はこってりと北に絞られてしまい、
美琴が目を覚ます翌朝には北が隣で眠っている
事に驚いた彼女は彼に迷惑を掛けてしまった
ことに半泣きで詫びて、彼女も彼らももう二度
と日本酒を飲まない飲ませ ないを改めて心に
誓うのだった。