懲りない結果


北に見つかった後は侑も美琴も一緒に彼からの
注意を受け、巻き込まれた彼女を不憫に思う他
の先輩達の視線を読んでか、美琴にきっちりと
理由を伝えた。


「これが侑やったから良かったけれど、他の
知らん人間やったら、美琴はもっと危ない思いを
しとったかもしれんで?」


「侑でも十分危なかった気もするけど。」


「侑は絶対に美琴に野蛮な事はせえへんよ。
意外とそうゆう時は思考止まるやろ。」


「遠回しにヘタレて言わてるだけじゃない?」


「うっさいわ。」


美琴に対しても厳しめの指摘をした後、それを横
で聞いていた尾白がそう指摘をすれば、北からは
予想外の答えが返ってきて、信用されていると
侑が調子に乗らないように、角名が釘を刺す。


そして侑の反論の声は聞く耳持たずか、顔を逸ら
した侑の肩を掴んでいる角名の力は非常に強く、
「うっさいわってどの口が?」と北よりも鋭い
眼差しで見つめる彼と目を合わせられない侑は、
先程よりも多く冷や汗が流れていた。


「美琴はそんなに気にし過ぎんようにな?」


『治さん…?』


「あのアホに合わせてくれとっただけなんや
から。俺やって美琴と同じ立場やったとしたら
多分断れんと思う。」


『いや、私もあかんかったです。勝負事になると
ムキになってしまいました。それによく考えたら
私ってはしたな…。』


反省中の美琴が気になった治は彼女にひっそりと
声を掛けると、彼女は侑との近過ぎる距離感を
思い出してしまったのか、話す途中に顔が真っ赤
に変わって話は途切れ、羞恥で耐え切れなくなる
と手で顔を覆い、何度も謝り始める。


「美琴、俺が悪かった!あんなアホの事考えとる
時間が勿体無いから今のはナシな!」


『すみません。本当になんて事を…。』


その反応に慌てている治の声を聞いた侑は、美琴の
様子も一緒に目にすると、自然と顔が熱くなって
照れ臭さを感じる。


そしてそれと同時に彼女が自分を意識してくれて
いる嬉しさから口元が緩みそうになると、再び
角名から調子に乗るなと注意を受けてしまった。


「後輩に動揺する侑のあの顔、初めて見たかも
しれん!」


「いや、それよりも美琴がこのまま明日以降も
引きずらんかったらええけど…。」


「美琴に謝るの禁止令でも出すか?」


想像以上に自分の行動を責め続けている美琴が
このままだと熱を出してしまうのでは?と心配
した人間もいたが、しかしその心配は無用だった
模様で、翌日になれば失態分しっかりと働いて
返そうとしていた。


すっかり万全といったところか、普段より更に
張り切って動く美琴は、侑の前でも動揺する姿を
見せることは無く、至って通常通り。


「美琴はほんま公私混同せんというか、気持ちの
切り替えが上手いというか。」


「逆に見習わんとあかんって思う時あるよな。」


「アランは今日は珍しく、ずっとコントロールが
イマイチな感じがあるもんな。」


「いや、こっからが本番やから。」


そんな美琴の様子を三年生の先輩達が冗談を混ぜ
つつ見守り、治は彼女が無理をしていないか心配
していたが、侑とのやり取りを見ていたら昨日の
出来事が嘘のように感じた。


どちらかといえば、昨日の事を気にしているのは
侑の方で、少し寂しそうな顔をする彼に治は呆れ
た目を向ける。


「その顔キショいわ。変態か。」


「お前は同じ顔になんてこと言うねん!」


「美琴は練習中はずっとああやろ。あの子が周り
に迷惑をかけんってくらい分かっとる事やろ。」


「そう言いながらお前も美琴の事ずっと心配
しとったやん。」


「当たり前や。変態がトラウマになっとらんか
誰だって心配するわ。」


「変態変態うっさいわ!お前もそこまで変わらん
やろ!」


「お前ら、元気が有り余っとるんならもう少し
外で走って頭でも冷やして来るか?」


口喧嘩がエスカレートしてそのまま取っ組み合い
が始まろうとしていたが、勘づいた北が二人に
冷静に言い放つと、双子の動きは息ピッタリに
北を見た直後に動きが止まる。


北の言葉が正しいと二人は必死に首を振れば、
喧嘩が止まればその時間も惜しいと北はそれ以上
は何も言わずに練習を再開して、この後の練習も
何事もなく終えた。


『侑さん、そのタオル回収しますね?』


「ああ、これな?」


『ありがとうございます。』


後片付け中の美琴が侑からタオルを受け取ると、
何となく一瞬、彼女が逃げ出すようにその場から
去ろうとしている様にも見えて、侑は咄嗟に彼女の手を掴んで引き止める。


『侑さん?』


「美琴、何ともないフリしとるやろ?」


それに慌てる彼女の顔はすぐに真っ赤になり、
美琴の表情から嫌われていないと安心する侑は、
ついいつもの調子で彼女に悪戯めいた笑みを
向けた。


「美琴ー。ようやっとこっち見てくれたな。」


『あの…、それは!』


「何で今、逃げようとしたん?寂しいやん。」


『だって、昨日の事がやっぱり申し訳無くて!』


「謝らんといけんのはほんまはこっちなんや
けど、何で美琴が謝るん?」


本当は美琴を揶揄うのでは無く、自分の方から
謝りたかったはずなのに、何故か彼女の方が先に
頭を下げるので、侑はそれに戸惑い困った顔で
笑う。


「嫌な先輩やったら、ハッキリ言うてくれても
ええけど?」


『嫌やなんて、そんな事思った事ないです!』


「まさかのそこははっきり言うてくれるんや。
ほんま、美琴のそういうとこは可愛いらしいな。」


『この前から侑さんは、ちょっぴり意地悪
です。』


「何でやろなー。美琴の反応が面白いせいか、どう
しても意地悪したくなるみたいやわ。」


目を潤ませる姿を目の前にすると反省する気持ち
はどこかへ飛び、顔を近づければ恥ずかしさで
言葉を詰まらせる後輩の反応が愛おしく思えて
余計に彼女を離したくなくなる侑は、彼女を自分
の元に引き寄せようとする。


「いい加減にせえや、このクソブタ!!!」


しかし今は昨夜とは違い、我慢の限界を超えた
人間がもう一人、すぐにその腕を引き剥がして
自分の腕の中に避難させると、息を荒くして調子
に乗り続ける侑を鋭い眼光で睨み付けた。


「さっきから大切なマネージャーにベタベタ
し過ぎやろ!美琴は元々シャイなんやからお前
だけとちゃう!セクハラも大概にせえ!」


侑に容赦なく厳しい言葉を向ける治はその間美琴
をぎゅーっと抱きしめたままの状態で怒り続け、
何が起きたのか混乱中の美琴は、治との距離の
近さに目を丸くさせる。


『あ…あの!治さん!』


「は?やから、お前だけには言われたくないって
言うとるやろ!?」


「は!?お前と全然違うわ。」


「今、自分の状態を確認してから言えや!」


「いや、これ以上は触らせる訳無いやろ!」


自分の状況を確認したいのに、昼よりもすっかり
とヒートアップしてしまった口論のせいで侑の
指摘どころか、美琴の声すら残念ながら治の耳
には届かない。


美琴は背中に感じてる治の逞しさで色々と意識して
しまうのか、触れた箇所が熱くなっていく気が
していた。


「お前らはまた今度は何を…って美琴!!?」


すっかり治にガッチリとホールドされてしまって
いた美琴は他の先輩達が気がついた時は茹だって
いて、時既に遅し。


その後、北から昨夜よりもかなり長い説教を
食らってしまった双子は、マネージャー接触
禁止令を出されそうになった所を雑用を手伝う
約束をして免れるのであった。




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