迎えに来ました

会う度に頼もしいと思っていた後輩は更に成長を
見せていて、気がつくと彼を見届ける事が楽しみ
に変わっていく。

その関係は途絶えないまま友人のままでいたいと
願った幼馴染み達を見送った後、東京で暮らす
美月と国見の関係はずっと続いていた。

「美月さんに大切な報告があるので会いに
行きます。」

夏が終わって肌寒くなってきた時期に、スマホに
メッセージが一通届いていて、可愛い後輩からの
その連絡に、彼女はすぐに返信をした。

『逆に私がそっちに行きます!!!』

「えっ、こっちが誘ったのに。」

『ちょうど帰る予定もあったし、大丈夫。』

「そうですか。それなら…」

スケジュールを確認しながらメッセージをやり
取りして、その約束が決まった後で彼女は深呼吸
をする。

会う度に彼との距離が近づいて、彼女もまた一人
の男性として意識していた。

次の休みに慌てて帰ってくると、待ち合わせ場所
で美月を待っていた国見はすぐに彼女を見つけて
柔らかく微笑み、彼の前で走ると怒られてしまう
彼女はその時だけゆっくり歩いて見せても彼には
すぐにバレてしまう。

「美月さん、ちょっと顔赤い?」

『ん、寒かったからかな。』

「嘘だ、ここまで走ってきたんでしょ?
転んだら危ないからダメだって言ったのに。」

赤くなった鼻を彼の指でなぞられて、どちらが
年上なのだろうと悩んでしまう美月は、そんな所
も彼にお見通しの模様でクスクスと笑われた。

『大事な報告が気になってしまいまして。』

「だから俺に直ぐに会いたいと思われてたなら、
光栄なんですけどね。」

『うう…、何も言い返せない。』

「美月さんが面白いくらいに分かりやすいから。」

『英の勘が良すぎる気がするんだけど。』

もう少しだけ待ってくださいねと嬉しそうにする
国見に今度は羽織っていたカーディガンを整えら
れて、とりあえず移動をと国見の車へと向かい、
彼に報告はここでしたいと連れていかれた先は
デートにピッタリの公園だった。

こんな場所にもドライブで連れて来てくれるよう
になったのかと、後輩が大人になっていく姿に
しみじみとするのは今も健在で、しかしハンドル
を持つ反対の手が自分に重なると耳まで熱くなる
のは、今までに感じたことの無い感覚。

「この先にお楽しみが待ってます。」

『お楽しみ…?』

「せっかくならここでって決めていたから。」

国見に言われるがまま付いてきた場所には、一面
にコスモスが広がって見え、思わずその美しさに
彼女の口からは感動の声が漏れる。

『わー!凄く綺麗だね。』

「美月さんが好きだろうなって思って。」

『うん、好き。』

ありがとうと目を輝かせるその表情が見たかった
国見は嬉しく目を細め、釣られて自分も好きに
なるその景色を眺める。

あまり自分達が目立たない場所を彼は探して、
そこで彼はやっと、彼女に本題を告げようと
した。

「まず大切な報告の事なんですけど、前に言ってた
銀行の内定が取れました。」

『そうなの!?よかった、おめでとう!』

大好きなその人に一番に伝えたかった彼は、何気
無しに包めていたその小さな身体も今は緊張する
せいか勇気が必要で、彼女と真正面に向き合うの
が精一杯。

そして想像通りに美月が自分の事のように喜び、
それに僅かに緊張は和らいでも「だから…」と言葉
を続ける彼の手は震え、自然とそれを手に取る
美月が目を細め、ゆっくりでいいからと国見の
様子を伺っていた。

「やっぱり、そういう所が敵わないな。」

『英?』

「会う度に、そうやって手を差し出してくれる度に
美月さんの事を愛しいと思ってしまう。」

昔は簡単に言えた大好きという言葉は、なかなか
吐き出せなくなっていって、久しぶりに口にした
その言葉に胸の奥は熱くなっていく。

「美月さん大好きです。俺と付き合ってください。」

告げられたその言葉に美月は言葉を返す前に彼を
抱き締めて、その温もりに安心する国見は彼女の
背に手を回し、彼女の囁かれた言葉に思い切り
抱き締め返した。

『私も大好きです。よろしくお願いします。』

ようやく通じ合った気持ちに今までの積み重ねていた思いが溢れ、「やっとだ」と小さく感動の声を
上げる国見に美月は驚いて、ふ馴染みのある言葉
に彼女はバツが悪そうに顔を上げる。

『英はずっと気持ちを伝えてくれてたのに。』

「美月さん、ずっとサラッと返してましたよね?」

『うう…、面目無いです。』

「俺の力不足だったって事で気にしてないです。」

『そんな事ない、どんどん魅力的な素敵な人に
なっていってるじゃん!私よりも尊敬する所は
いっぱいだし…!』

「そんなに大真面目に言われると、それはそれで
恥ずかしいんですけど…。」

互いに段々と可笑しくなって笑い合い、そこから
は恋人同士として楽しむ彼らは、手を繋いで歩く。

「周りが凄すぎてまだまだ見合った人間にはなれて
いないだろうけど、俺なりに精進しますから。」

『待って、私こそ大層な人間じゃないって!
寧ろ、英みたいな優しい人が私なんかでって
思ってるのに。』

「美月さんにしかしてないんだけどな。」

『そんな事ない、みんなに優しいから。』

「そう言ってくれるのは、美月さんだけですって。」

何気ない会話が全て楽しく、高校時代から変わら
ない後輩のその表情が彼女もまた好きだと感じて、
思わず彼の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「美月さん、また子供扱いしてません?」

『はっ、違うの!この癖だけはどうも治り切ら
なくて…!』

「たしかに、美月さんらしいけど。」

パッとそれを手に取る国見は口を尖らせて、でも
撫でらた時の心地良さは変わらずなのか満更でも
無く、「たまになら」と自分限定とも付け加えて
許して離す。

「ほぼ、たまにになってしまいますけどね。」

『どうして?』

「これから、遠距離になってしまうし。」

『あー、そうだ。英、実は私も報告する事が
あったの。』

「報告する事?」

『うん、実はね…』

背伸びをして彼の耳元に近づく美月に合わせて
何故か国見も屈んで、ひそひそと耳打ちをした
彼女からの思いもよらない知らせに、彼は目を
見開いた。

「それって、じゃあ…!」

『うん。異動は11月からなんだけど、よろしく
お願いします。』

遠距離恋愛は1ヶ月で終える予定、そこからは
東京から宮城に転勤が決まり、会える時間は
増える。

『こっち戻って来たら、いっぱい甘やかしても
いい?』

ニヤリと歯を見せて笑う美月を可愛らしいと思い
ながらも、うーんと少し国見はわざとらしく悩ん
でみせて、そのままゆっくりと回った二人が車
まで戻った後で国見が思い返すように口を開いた。

「甘やかされるのもいいですけど、俺はこっちの
方が嬉しいです。」

美月が何なのかを尋ねる前に、助手席側へと身を
乗り出す彼は、彼女に触れるだけのキスをして、
きょとんと目を丸くした後に真っ赤に変わる彼女
を見ると、初めて彼女の頬にキスした時を思い
出し、国見は可笑しくなって思わず吹き出した。

「何で、あの時とリアクション同じなんですか。」

『だって、いきなり…そんな!』

「もう、あの時とは違いますよ?」

そう言ってもう一度、彼の顔がゆっくりと近づく
と、その感情は過去とは全く違うもので、鼓動が
段々と激しくなる美月は落ちつかせようと目を
伏せた。




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