傍にいなくとも
懐かしのファミレスで近況報告で盛り上がった後に決めた次の目的地は、以前及川達と夏に来た事
のある場所だった。
『この時期に花火ってあるのかな?』
「確かに、まだ5月。」
「え、ここ置いてんだけど。」
「まじかよ、季節を早取りしすぎだろ!」
その前に立ち寄ったホームセンターで、まだ早い
だろうととある物を探してみると、すぐに見つけ
てしまった松川が顔を顰め、花巻はそれを手に
取って笑い出す。
「あとバケツも買ってくか。」
『あとライター!』
「それなら俺の車にあるわ。」
「え、お前やっぱり年齢サバ読んでたのかよ。」
「ちげーよ。大学の先輩がこの前置いて帰った。」
移動中にすっかりと辺りは真っ暗になり、松川の
運転で砂浜まで辿り着くと、靴だと煩わしさを
感じ、裸足になって砂を蹴る。
誰もいない貸し切り状態で喜んで、手持ち花火と
バケツを持つ花巻と湯田の先には松川と美月が
歩いており、転ばないようにと支えてくれる松川
が美月の背を支える。
ぼんやりと遠くを眺めていた美月の目は何かを
隠しているようにも見え、やはり向こうで何か
あったと勘付く松川は、そっと彼女に囁いた。
「アイツらに言いにくい悩みがあるなら、こっち
でも聞くからな?」
『えっ?』
「離れてても、電話やメールって便利な機能は
沢山あるからさ。前みたいに色々語れるし。
まあ、無理に聞き出すつもりも無いけど。」
『松川…』
美月が返す言葉を探す前に、彼はそう言って彼女
の頭に優しく手を置き、彼女が答えなくてもいいもように「自分が言える時で」と目を細める。
それは彼女にだけ聞こえる大きさで伝わって、
後ろで見事に置いてけぼりをくらう花巻と湯田
は、松川と美月が甘いムードになっているだけに
しか見えておらず、つまらないとブーイングを
松川に送っていた。
「ちょっと松川さん、ここにもお友達いるの
ご存知?」
「ごめん、久しぶりだから浮かれちゃって。」
「危ない雰囲気出しまくりだから離れようか。」
ニヤリと嫌な笑みを向けている松川の表情が
気に入らない花巻は間に入って、それに便乗
する湯田も美月を自分の隣に置き始めた。
「同級生とは思えないムード出すなよ!
でも、参考になります。」
「湯田からフェロモン出されたら心配ものだわ。」
「うるせえ、俺だってモテたいわ!!!
つーか、花巻はこっち側だろ!何で突然裏切る
んだよ。」
『ふふっ』
「美月は笑う所じゃねーし!」
湯田からは羨む声を上げると、松川と花巻からは辛辣な言葉が帰ってきて、すっかりと賑やかな
やり取りに美月も笑いだすと、彼女は誤りながら
フォローを入れた。
『今のままの湯田も素敵だから、きっと可愛い
彼女見つかると思うけどな。』
「美月…!」
「そろそろ花火出す?」
「お前、せっかく美月がいい事言ってくれそう
だったのに!!!」
『湯田、落ち着いて。』
ガサガサとマイペースに袋から花火を取り出そう
とする花巻と松川に湯田が怒り出して、卒業して
間もないといえど、なかなか変わらない彼らの
やり取りに美月は呆れて笑った。
「久しぶりにしてみるとアリだな!」
「昔より種類増えた?」
『色々増えたけど線香花火が一番好きかも。』
「それはわかる。」
色鮮やかな光が砂に落ちていき、せっかくなら
写真に収めたいと花巻はスマホを取り出して、
美月の肩を組んでパシャリと1枚撮った後に、
煙に巻かれた湯田を1枚撮った後で満足そうに
メッセージアプリを開く。
鼻歌を歌う花巻の横で美月も画面を覗き込んで、
その送り主が怒り出さないかを心配した。
『花火ってやっぱり写真じゃ上手く撮れないね
…て、花巻その煙だらけのをハジメに送るの?』
「雰囲気、雰囲気。」
「火事か?て返事が来るのに1票。」
「アホか?ってくるのにアイス1個。」
『え、どうしよ。迷う…。「何やってんだよ」に
1票かな。』
「お、目付きが変わった。」
「そこも相変わらずなんだな。」
掛けられたもので真剣な表情で悩む美月を彼らは
面白く観察をして、悩み抜いた答えは美月のスマホ
から本人の声で聞こえてくる。
すると彼女は『文句はこの人にと』スピーカーに
切り替えて、花巻の笑い声が岩泉の耳にしっかりと入ってきた。
「お前らはさっきから無駄に写真送ってきや
がって!」
「楽しそうでしょ?」
「美月、残念ながらアイスゲット出来なかったな。」
『本当だ、怒られちゃったね。』
「ほう、俺を賭け事に使うとはいい度胸だな。
お前ら今度は覚えておけよ。」
口調は怒っている様子だが、電話越しでは一緒に
楽しんでいる岩泉の様子が目に浮かんで、それに
笑っていると向こうもお見通しなのか、すぐに
岩泉から指摘の声が飛んでくる。
「美月、アイス食いすぎんなよ?休み明けに太った
って嘆いても知らねえからな。」
『なっ、分かってます!ハジメこそインスタント ばっかり食べ過ぎないように。』
「…そんなに食ってねえよ。」
「ズボシの声か。」
「まあ、声聞いたら安心したわ」と最後に呟いて
電話を切った岩泉に、湯田や花巻は「過保護か」
とツッコミを入れたら、一人違う捉え方をした
その男は無言で美月のスマホを見つめた。
いつも通りを装っていても、些細な一言で美月の
意識が変わっているのが見えてくる。
離れている分、それが焦りに変わる彼はやっぱり
と美月の手を引いて話を切り出した。
「連絡取るの、週一にしよう。」
『ん…何が?』
「近況報告の電話。今はこうやって顔見れるけど、
やっぱり声も聞きたいし。また前みたいに月曜日
でもいい?」
『うん、でも忙しくない?大丈夫?』
「大丈夫。週の初めだと頑張れるからそっちのが
いい。寂しくなくなるし。」
『うん、分かった。色々気にかけてくれて
ありがとう。』
「そこは気になさらず。
以外と寂しがり屋さんなんだなって思って。」
『ふふっ、本当に優しいよね。』
それは、2人だけになった隙をみて交わした
約束。
何の疑いも見せずに寧ろ感謝の言葉と一緒に承諾
をする美月に「そうゆうとこ」と心配をする松川は
本音を心の中に閉じ込めておく。
『逆に松川が辛い時は私もいつでも相談に乗る
から。』
「それは心強い。」
『松川だって大切な人だって思ってるよ?』
「美月…」
離れていたって、他の奴らには適わないとは今は
思いたくない。
そう考えている彼は、こちらこそありがとねと
抱き締めたくなる衝動を抑えて、名残惜しく他の
2人が戻って来る前に引き寄せた手を離した。
「あー、帰したくない。」
『やっぱりこっちが心地いいから、確かに帰り
たくない。』
「じゃあ、このままこっち戻っちゃう?」