ドライブ作戦

『貴大、頑張ったねー!』

「だろ?マジでもっと褒めて。」

ピカピカに反射して自分が映って見える程に、
輝かしい新車の登場に美月はパチパチと拍手を
した。

それは花巻がローンを組んで買った訳ではなく
ちゃんと地道に貯めたお金で買った代物で、
美月は彼の努力を褒め讃える。

『昔から貴大は陰ながら努力家だったもんね。
レシーブ特訓とか頑張ってたの思い出すな。』

「…うん、ちょっと小っ恥ずかしい思い出を
振り返るの止めようか、美月ちゃん。」

高校時代のバレー部とマネージャー、そして
友人関係から距離が縮まっていた2人は、互い
の下の名前を呼び合う間柄までになっていた。

彼女の幼なじみの最強コンビが海外へ行くと
いう目標を立てる中、邪魔にならないように
その仲から退いた彼女の隙を狙うように同じく
東京にいた花巻が彼女の隣に並ぶ。

というよりも彼女を守らねばという使命感に
気がつけば彼女の隣に自分がいて、彼女も彼が
隣にいることが当たり前のようになっていた。

しかし彼らはまだ付き合ってはいない。

この友達以上、恋人未満の関係を昇給させたく
て、花巻はドライブに誘うも、早速玉砕しない
か不安になりながら、彼女の様子をちらっと
伺う。

彼女の家から近いコンビニで飲み物を買って、
ドアを開け彼女を助手席へと誘えば失礼します
と少し緊張しながら、乗る姿にこちらもそれが
移りそうになっていた。


カフェラテにストローを刺し、手渡してくれる
表情はかつてのドリンクを差し出してくれた時
と変わらずにいて、花巻を彼女の笑顔に微笑んだ。

『どこ連れてってくれるんです?』

「それはまだ内緒なんだわ。」

行き先を内緒にしたくて、わざとカーナビは
セットをせずに花巻は車を走らせる。

「昔さ、お前が伊達工の応援に釣られて口ずさん
で、俺も真似したら松川に怒られた事あった
よな?」

『あったあった!私あの時が1番彼に怒られた
かもしれない。』

「マジか、アイツもお前に甘々だったもんな。」

松川の話をする事に余裕が出来たのは、彼が
花巻にお前には敵わないと、飲みの席で言われ
たからだろうか。

時折、音楽を口ずさみながら運転をする花巻を
隣で見ながら、美月も優しく微笑むと一緒に
口ずさんで思い出話をして笑い合い、移動の
距離の1時間はあっという間に過ぎていた。

『水族館、久しぶりかも。』

「渡が割引券くれたからさ。」

『なるほど!やっぱり彼は優しいね。』

青く透き通った大パノラマを目を輝いた目で、
見つめる美月を花巻は隣で見ながら、初めて
2人で出かけた別の大画面を色んな表情で見て
いた時の光景をふと思い出す。

涙を流す自分にハンカチを差し出してくれた
あの時の彼女のかっこいい姿まで思わず頭に
浮かんでしまうのだが。

うっとりと水槽を眺める彼女の隣で、つい引っ
付きたくなってしまって、隣で彼女に手を絡め
れば、昔は顔を真っ赤にさせていたのに、今は
距離が近くなりすぎたせいか、すっかりと彼女
は慣れてしまって、照れること無く花巻に笑顔
を向けるので、彼は少し肩を落とす。

「あーあー、及川の奴はこんな所に…。」

『貴大、絶対にそれ言うと思った。』

少し歩いて川魚のコーナーへ足を止め、花巻が
哀れむ目で元主将と同じ名前の魚を見つけ、
美月の想像通りの言葉を出して、彼女は笑って
その魚を見る。

「そういえば、あのTシャツってまだ持って
たりすんの?」

『いや、ハジメが向こう行く餞別にあげたんだ
よね。いつでも、徹と一緒だよって。』

及川と岩泉がお揃いのTシャツを着ている姿を
想像してしまった花巻は、しばし黙り込んで
しまう。

彼女は欲しかったの?と花巻に申し訳無さそう に尋ねるので、彼は全力で首を横に振り、それ
は完全なる否定をした。

『頑張ってるだろうね。』

彼女のその目は優しくも何処か遠い人物を見る
目で、花巻は優越感に浸りながら、残念ながら
俺が貰うと心の中でオイカワに話をかける。

もうアイツらを見ている美月はここにはいない。

ふとその魚は近づいてくるので彼女の手を引き、
それ以上は見せてやるもんかと相手は魚なのだが、
花巻は少しムキになって、前に進んだ。

一通り回って2人は満足すれば、次は近くの海
へと走らせ、彼女はそこでも嬉しそうに車から
降りていた。

『綺麗だねー。』

「暑くなったらまた入りに来るか。」

『賛成。』

靴を脱いで砂浜を歩けば、天候が良い影響から
か、少し暖かい砂が歩くとどこかそれが心地
いい。

手を挙げて笑う彼女に笑顔を返して、浅瀬で
足をつける彼女が転ばない様に腕を支える。

『今日、楽し過ぎて帰りたくないかも。』

「えっ?」

水面を蹴りながら零した美月の言葉に花巻が目
を丸くして驚き、彼女はへへっと笑いながら
言葉を続け、彼女は潮風を気持ちよさそうに
受け止めながら、瞼を伏せる。

『貴大、素敵な所にいっぱい連れてってくれる
から。』

「…あー、喜んでもらえて光栄だわ。」

なるほど、そっちね。

ゆらゆらと長い髪が揺れる彼女があまりにも
綺麗で、しかもその心は未だに透き通って
見えて。

純粋な彼女の回答に疚しさ剥き出しの自分が
恥ずかしくて、彼は頭を押さえて、彼女から
顔を逸らした。

その後も美月が喜びそうなジェラートの店に
行ってみたりパスタが有名な店へ行ってみたり、
いつもとは少し雰囲気の違う店を選んで楽し
んでいると、あたりはすっかり暗くなって、
美月を帰す時間が刻々と迫ってきていた。

このまま友人の距離が今しばらく続いてしまう のだろうかと考えていると、何処か赤信号で
止まるこの時間までもが惜しくなる。

「俺もお前を帰したくないかも。」

『貴大…?』

ついポロッと零してしまった自分の言葉に花巻
は慌てて、咄嗟に何故か近くにあったコンビニ へと車を停めた。

というよりも、安全も兼ねて止まるしか選択肢
はなかった。

「…えっと、帰したくないです。」

改めて言い直して頭を掻いた後に、ちゃんと
彼女の目をしっかり見つめ、真っ直ぐな眼差し
で口を開いた。

「お前はさ、俺達の距離どう考える?高校から
ずっとダチで…その一緒の時間が増えてさ。」

このまま俺は恋人になりたい。
お前の傍にいさせて欲しい。

本当は海辺でちゃんと伝えたかった言葉を言え
なかった事に後悔をしたくなくて、コンビニの
照明しかない、薄暗い車内で美月へ真剣に思い
を伝える。

『私なんかでいいの?』

彼女の言葉にもちろん美月もその顔は真剣で、
不安そうに少し泣きそうになっている表情を
見せるので、花巻はお前がいいんだよと彼女の
問いにすぐに頬に手を添えて答えた。

『こちらこそなんだけど。』

「何で泣くんだよー。」

大きな雫が頬を伝い、泣き始める彼女の涙を
花巻は優しく拭った。
ずっと自分ばっかりが好きなのかと不安だった
と彼女は震えた声で答え、試合で負けたその
瞬間ですら見せなかった彼女の涙に驚いて、
嬉し涙だとわかっているから、彼もまた彼女に
釣られて泣きそうになった。

計画をしっかりと練った割に全然ロマンチック
じゃない場所で伝えてしまったけど、この際
そんなもの関係は無い。

やっとの思いで手に入れたこの幸せを実感する
ように彼女の額にコツンと自分の額を寄せ、
もう一度彼女に自分の想いを告げた。

「絶対、大切にするから。」


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