一緒に温もりたい

海外特有の猫足バスタブは、彼女のお気に召し
たらしく、キラキラと子供みたいに目を輝かせ
た美月に、及川は可笑しくて笑ってしまった。

『わー、すごーい!』

「そんなに嬉しい?」

『こういうの映画でしか見たこと無かった
から。』

及川が先に湯船に入って、彼女が足を滑らせ
ないように手を差し出して、片手はタオルで
隠している姿は納得いかない部分だが、一緒に
入れば優しく触れる柔らかい心地よさに彼は
目を細めた。

湯船を溜めるという習慣はこの国にはもちろん
無いので、今回は泡風呂へと変更し、チャポン
と浴室内の音が響き、先程彼と体を重ねあった
せいなのか、妙な照れ臭さが美月にはあり、泡で
見られたくない部分が隠れる事に感謝をした。

近くに置いていたスポンジに及川が手を伸ばし、
彼女の体を楽しそうに洗ったら、変な所にも
手を伸ばそうとするので、それは美月に厳しく
払い除けられる。

そして彼女がお返しに彼の頭を洗って上げれば、
及川は嬉しそうにして、彼女の肩に身を委ねて
いた。

「美月とこうしてのんびりするのが、やっぱ
一番だわ。」

『昔からの平常運転だもんね。』

湯船の中で2人まったりその温もりを堪能して、
及川は自分の上に乗せた美月の濡れた髪を指で
梳きながら、そして、美月は彼の肩に凭れて、
互いが互いを癒し合う。

「美月がここにずっといてくれたら、徹さんは
幸せなんだけどなー。」

『まだ、お仕事が山積みなんですよね。』

「ですよねー。」

お互いに試合やら仕事やらで忙しく、住む国
すら違う2人は酷なことに、ゆっくり会う時間
がなかなか取れない。
それぞれが理解ある関係で、かれこれ17年
以上の付き合いになるのは、相性がいい証。

あれ程、高校生の頃は傍に必ず居たはずなのに
と時折過去が妬ましくも思い、しかし過去は
過去として、とてもいい思い出だった。

「明日はどこ行きたい?」

『んー、お任せします。』

「それ、1番困るヤツ。」

なんとなく及川が明日の予定を確認すれば、
変わらず美月は彼に合わせようとするので、たま
には彼女の我儘も聞いてみたい彼は、困った顔
で笑ってみせる。

彼が初めて海外に行く事もあっさり受け入れて
懐の広さには感謝しかないのだが。

「本当に相変わらず聞き分け良すぎのいい子
ちゃんめ。」

『私、それ褒められてる?』

顔を顰めてくるっと彼女が向きを変え、及川の
顔をじっとりと見つめれば、彼は褒めてるのと
にっこり笑う。

嘘くさい表情の彼を疑って、美月は遠慮も無し
に、彼の鼻をぎゅっと強く摘んだ。

「いでっ、酷いな。最近岩ちゃんの乱暴さが
移ってきてない?」

『それ、ハジメに失礼じゃない?
あの行動は徹が怒らせるからじゃん。』

相変わらずもう片方の幼なじみに甘い所は変わ
らずで、彼女が岩泉の肩を持てば、不服そうに
及川は頬を膨らませた。

彼女も彼の名前を出せば妬く事に気がつき、
しまったと罰が悪そうに及川から視線を逸らせ
ば、それも彼は気に入らなかったのか、くいっ
と彼に頬を押さえられて、戻された。

「やっぱ、岩ちゃんの名前出すの禁止。」

『そっちから、言ってきたのに。』

それは理不尽な嫉妬なのだが、今岩泉は日本に
いる為、どうしても及川は岩泉を信用していて
も意識をするなと言われるのは無理がある。

もちろん、彼には美月に悪い虫が付か
ないよう
に見守ってくれていたりもするので、感謝する
部分の方が大きい事は及川だってわかっている
のだが。

彼女も逆の立場なら辛いとこなので、何も言い
返さず、お詫びの印の様にチュッと彼の唇に自分
の唇を寄せた。

「〜〜〜っ、可愛いから許す。」

突然の可愛いらしい行動を受けた及川はもちろん
ノックダウンで、顔をお湯で半分隠してブクブク
と泡を吐く。

はにかんで笑う彼女に彼の方もチュッと触れる
だけのキスをすれば、そこからは止まらなく
なるので、仕返しに何度も何度もチュッと音を
立てて、その愛しさを伝える為に、触れるだけ
の口付けを彼女に落とした。

「ちょっと、またエッチしたくなる!」

『私はご飯食べながら、映画見たい。』

「えー、何この生殺し…。」

『私は徹君とまったりしたいでーす。』

「可愛いなぁもう、喜んで!!!」

ダメ?美月に額をコテンと寄せられてお強請り
をされればそこはもちろん及川の完敗で、湯船
の栓を抜いて、泡をシャワーで流して、身体も
拭いて服を着たら、彼女をお姫様のように抱き
上げて、リビングまでご機嫌で運び始める。

『ちょっと徹!自分で歩けるよ。』

「いいから、いいから、お姫様。」

その呼び方は嫌なのにと口を尖らせ、恥ずかし
がる彼女を無視するのは、彼なりのちょっと
した仕返し。


夕飯はカップ麺だが、デザートは彼女の大好き
なメーカーのアイスがきちんと準備をされて
いて、ちょっぴり大人の気分も味わいたい
ので、その後にはちゃんとワインも用意して
みたりもして。


2人の大好きな映画を仲良く幸せそうに引っ
付いて見ていたら、やっぱり自分達にはこれが
一番だと美月は愛しそうに彼の手をぎゅっと
握った。

『徹、大好きだよ。』

「もう、ホントどうしちゃったのさ。」

そんな彼女に弱い及川は、何度も見た美月の
お気に入りの洋画を今回も選び、嬉しそうに
すり彼女の表情に、及川も目を細めた。

「多分、俺の方がもっと好きだからね。」

『徹、もう酔っ払っちゃった?』

「まだ飲んでもねえし。美月こそ酔っ払ったん
じゃない?」

『私、そんなにお酒弱くないもん。』

小さな口論も今は貴重な時間で、互いに笑い
合って寄り添い合う。


そして、美月の好きな台詞をすっかり覚えた
彼は耳元で囁き、彼女を赤面させ、にっこりと
ご満悦だった。


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