本命には不器用
美月の髪の毛はあれから5センチ伸びたら、
物差しで測ったのかと言いたくなるくらい、
きっちり肩につくかつかないかのところで
髪の毛が切られていた。
「おまっ、せっかく伸びかけてたのに!」
新学期に入り体育館が使えない本日は、少し
ゆっくりめの登校で、待ち合わせて彼女の姿を
見て早々に、本当に切るやつがいるかよと震え
ながら崩れ落ちる黒尾を美月は呆れたように
見下ろした。
『いやいやいや、傷んだ髪を伸ばす訳には
いかないでしょ?』
「じゃあ黒髪に戻せ!」
栗色の髪の毛を気に入ってそのまま同じ色に
染めれば、黒尾は黒髪の方が似合っていたと
悪態を着く。
『もーせっかく、新学期で心機一転しようと
してたのに、そこまでがっかりすること
ないじゃん。』
自分的にはうまく纏めやすくて、重たくなら
ない髪を気に入っている美月は髪をかきあげ
ながら、そんなにおかしいかな?と自分の
センスに少し不安になる。
そこに同じく待ち合せた孤爪も合流し、昨日も
夜更かしをしてしまったのか、少し眠たそうに
欠伸をしながら2人に挨拶をした。
『おはよ、研磨。』
「んじゃ、行くとしますか。」
みんなが揃ったところで、いつものように
美月を挟んで3人並ぶと、駅まで歩いて向かう。
「あれ、美月髪切ったんだね。似合ってる。」
『ありがとう。よかった、研磨の一言で
救われた。クロがさっきから酷くて。』
「美月はロング!」
研磨は、しょんぼりする美月の横で顔を背ける
黒尾の様子を見てみると、いつもの決まり文句 に納得して素直じゃないなと呆れたように
ため息を吐く。
本当はどんな姿だって可愛く見えて、ふんわり
とした雰囲気に、今の髪型はバッチリ彼女に
似合っていて、口元緩みそうになってるのを
堪えてるのは孤爪から見たらそれは丸わかり。
お洒落になって行く彼女に悪い虫がつくのが
嫌なんだろうなと思ってはいるが、本人達には
言わないまま、孤爪は自分の心の中にだけ
吐いておいた。
『クラスどうなってるかな?』
校門に入り、学年が違う孤爪と別れたら掲示板
に貼ってあるクラス表を2人で確認をすると、
美月の名前は5組にあり、そこに黒尾の名
だけではなく夜久の名も同じ箇所にあり、
彼女は驚いて目を丸くさせた。
「おやおやおや、同じみたいですね。」
『すごい、3人一緒!』
キラキラした目で喜ぶ美月を見れば、黒尾も
一緒のクラスが嬉しくなった。
正直、彼女に好意を抱いている夜久の積極的な
アプローチを毎日見るのは少し憂鬱なのだが、
彼女がすごく喜ぶ姿を見れば嫌な顔は出来ず、
「だな」と答えながら彼女へ笑いかける。
そして、美月がクラス表に一通り目を通せば、
そこの枠に海の名前は載っておらず、隣の4組の
ところに彼の名前があるので、彼女はせっかく
なら海も一緒がよかったと肩を落とした。
「まぁまぁ、部活で会うんだからいーじゃねーか。」
「本当だ、美月と違うクラスは少し
残念だな。」
いつの間に来たのか、隣で落ち込む彼女を
「俺は大丈夫だから」と彼女の頭を撫でながら、 微笑んでいる彼を止める勇気は無い黒尾には
無い。
「隣なんだからすぐ会えるし。」
『そっか、そうだよね。』
海が話を切り替えるように明後日の新入生の
部活見学の話題を出せば、彼女がすっかり元気
を取り戻した所で、海との話に夢中になって
いる美月を黒尾は自分の元へ引き寄せるように
「とりあえず、行くぞ」と彼女の背中を押し
ながら、教室へ向かった。
「悪い、嫌だったよな。」
海は彼女に先に教室へ入るよう促し、軽率
だったと突然謝り出すので黒尾は「別に何も
言ってねーだろ。」と困った顔で笑うように
海を見た。
「黒尾、焦らなくても俺は何もしない。」
黒尾の耳へ近づきそう言うと、黒尾は海の言葉 に何も答えないまま、片手を上げるとそれぞれ の教室へ別れた。
「美月、やったな!」
教室に入れば夜久の姿が既にあり美月の姿が
見えたら、嬉しそうに笑顔で駆け寄ると、彼女
も笑顔になり、2人で楽しそうにハイタッチを
交わした。
「美月、髪切ったんだな。
めっちゃ可愛い!似合ってる、好き!」
『ありがとう、やっくん。』
夜久は交わした指を離すことなく、指を絡めて
恋人繋ぎのように手を組み、それを聞いた
美月は照れたように微笑んでいる。
『これから1年よろしくお願いします。』
「こちらこそ!」
黒尾は素直な言葉をぶつける夜久を見て、周り
も彼らを微笑ましく見ているのを半分羨み、
半分妬みながらまだ10分しか経っていない
この空間が既に苦痛になり、夜久の少し優越感
を感じた表情から、黒尾は苦笑いを見せた。
「やっくん、朝から盛らないでよ。」
「お前にだけは言われたくない。」
2人の間を邪魔するように、黒尾は絡まる手指を
解きながら彼を見下ろし、夜久が名残惜しそう に話す指を黒尾は容赦なく断ち切る。
遠慮なく寄ってくる邪魔者に少し苛立ちを感じ
ていると、ふと美月の手がクロも一緒に!と
黒尾の大きな手をぎゅっと彼女の小さな手が
包んだ。
『またいっぱい思い出作ろうね。』
黒尾に笑顔を向けて彼のの手を握る美月は
『やっくん、取られて寂しいんでしょ?』と
首を傾げる彼女に着眼点はそこでは無いと黒尾
は顔を顰め、でも先程言ってくれた言葉が
堪らなく嬉しくて、照れを隠すように彼女の髪
をクシャッと撫でた。
『もーせっかく綺麗にセットしたのに。』
お前は何しても可愛いんだからいいんだよ
やっぱり素直に出せない彼は、自分の本心を
誤魔化すように鼻で笑い、黒板に書かれた
自分の席に鞄を置いた。
「お前さー。余計な茶々は入れる癖に
本当、自分に素直じゃねーよな。」
「うるせー!」