新入生
美月から見たその人間が入ってきた
時の印象はただ綺麗だと思った。
日本人離れした身長、長い手足、
透き通った銀色の髪の毛に加えて、
捕らえられたら離せない緑の瞳。
「君が入部予定の灰羽君…かな?」
入部した新入生が今日から練習を開始し、
全員ちゃんと揃ったと思えば、もう1人が
なかなか来ず、「失礼しまーす!」と悪気の
ない無邪気な顔で、体育館のドアを
勢いよく開ける。
点呼を取っていた黒尾と美月は
それを見て、黒尾は顔をひくひくと
引き攣らせ、美月はぱちぱちと目を
丸くして瞬きをした。
「すっごく可愛い、妖精みたい!」
『へっ、何?…妖精?』
彼も美月の姿を捕らえた瞬間、
本能のままずんずんと彼は彼女に近づき、
名前からもハーフだということは頭に
入っていた美月も本人を目の前に
すると、思わず固まってしまった。
向こうの方が人形みたいに綺麗なのに、
そう言ってのける彼は美月を見て
キラキラとした目で周りに構うことなく
むぎゅっと彼女に抱きついた。
『ちょっと待って。灰羽君!?』
「小さい、柔らかい、いい匂い!」
顔を真っ赤にして困る美月を見て、
先輩達がその行為を許すわけがなく
夜久と黒尾が物凄い形相で飛びかかる。
黒尾は二人を引き剥がし、夜久は
灰羽に飛び蹴りをして押さえ込み、
見事な連携プレイを新しく入った
新入生2人は尊敬のまなざしで
見ていた。
「リエーフてっめぇ!遅刻しておいて
何やってんだ。」
「確かにコイツが可愛いのは認める。
だが、次美月に何かしてみろ?
この体育館は二度と通さねーぞ。」
来て早々、早速黒尾も夜久も彼の事を
リエーフと呼びながら怒り、正座をして
2人から説教を食らわされてる灰羽は
しゅんとしながら2人の話を謝りながら
聞いていた。
『ちょっと、可哀想になってきた。』
「駄目だよ美月。確かに上下関係
に厳しいのは俺も嫌だけど、美月が
怪我した方が困るから、ちゃんと
ここは話しておかなきゃ。」
『…はい、わかりました。』
少し彼が可哀想になった美月は、
彼に助け舟を出そうとすれば、珍しく
孤爪が止めるので、彼が少し先輩
の顔になっている事に、彼女は
少し微笑ましく思いつつ、2人に任せ、
残りの新入生2人の方へ向かった。
「これから、自己紹介をまた行うけど、
ちょっと今、先輩達は取り込み中だから、
先に名乗っておくね。」
牧野美月です。
わからない事があったら遠慮なく
私に聞いてください。
笑顔で傾ける彼女の姿は
新入生から見たら眩しすぎて、
彼らの頬はほんのり赤く染まった。
「犬岡走です。」「芝山優生です。」
よろしくお願いします!と元気に
一礼をする2人に彼女はよろしくね
と彼らの顔を覚えながら言葉を返した。
そんな彼女の様子を見ていた海は、
この部に馴染んだ彼女を嬉しそうに
頷いて見ており、福永も嬉しそうに
頷いていた。
『私の事は気軽に美月って呼んで
くれたらいいからね。』
「美月さんって言うんですね!」
後ろから溌剌とした声がして、
美月が声をした方を振り向くと
先輩達からの説教から開放された
灰羽は彼女の名前を聞くと、
そう言って早速彼女の名前を呼んだ。
「俺もリエーフって呼んでください。」
『あ、うん。リエーフ君。』
「はい、美月さん。」
満足そうに彼女の肩に手を置く灰羽
を見れば、山本が「美月さんに気安く
触るな」と頭に血管を浮かべるので、
彼女はそこまで怒らなくてもと
山本を宥めながら、苦笑いを浮かべる。
灰羽の悪気の無い笑顔を向けられると。
美月も年下にはつい甘くなってしまい、
彼のテンポに流されそうになっていると、
背後からヤキモチ妬きの2人の気配を
感じていた。
「はーい、美月さんは後輩を甘やか
さなでくだーい。」
目の前をシャットアウトする様に
黒尾の掌が見えれば、美月の身体は
そのまま彼の方へ引き寄せられる。
「さっき言った約束を早速破ろうと
してんじゃねーよ。」
『ちょっと触れただけだからね。』
「一個の油断が命取りだからダメだ!」
『やっくんまで厳しすぎる。』
「ガッツリと触ったらダメなだけ
だったんじゃないですか?」
鼻を膨らまして腕を組む夜久に
いまいち、怒られている理由に
ピンとこない灰羽は首を傾げる。
『ほら、向こうだとハグとかキスとか
スキンシップ激しいから、どうしても
距離が近くなるだけじゃない?』
自分だって激しいでしょうがと
引き寄せたまま離さないでいる
黒尾の腕を解きながら美月は
リエーフに笑いかけた。
『さすがに突然抱きつかれちゃったら
ドキってしちゃうから、程々にね。』
そう言って彼女に笑顔を向けられたら、
つい見蕩れてしまい、少し照れた様子で
納得をしたのか頷いていた。
「美月さん、ドキってしない程度
って、どれくらいならOKですか!?」
『えっ!!?』
「さっき、抱きしめた時はおっぱいが
当たっちゃってたからさすがに
ダメでしたよね。」
『えぇっ!!?』
大きいんですね!と彼女に向かって
さらっと笑って言い退ける彼に美月が
恥ずかしさで顔を真っ赤にさせる。
「お前っ、馬鹿か!何言って…」
『んっ!!!?』
灰羽のとんでもない発言に夜久が
怒って手を上げると、彼は言葉を
詰まらせピタリと動きを止めていた。
それもそのはず、彼の振り上げた手は
不覚にも美月の胸にあたってしまい、
ふにっとした柔らかい初めての感触に
身動きが取れなくなっていたのだから。
「わ、悪い。今のはわざとじゃなくて
不可抗力で…!」
一気に耳まで赤くなって取り乱す
夜久の顔を見て、彼女も恥ずかしがり
ながらも『わかってるから大丈夫だよ!』
と両手を振りながら彼を責める気は
全く無かった。
「これは俺のものだ、見るな。」
誰にも見せたくない、触らせたくない
黒尾は、美月の胸を自分の腕で
覆い隠すように、彼女の胸をむにっ
と感触を半分楽しみながら包むので、
今度はその動作に彼女が止まる。
すると、彼女は一旦喋らなくなったと
思えば、黒尾と自分の隙間から肘鉄を
落とすので、もちろん鳩尾に命中された
黒尾は力が入らず倒れ込んでしまった。
『悪意があるセクハラは全面禁止です!』
彼女はそう言い捨てて、頭から湯気が
出そうな勢いでぷんすかと怒り、足速く
歩き出すと、荷物を取り出して自分の
仕事に取り掛かった。
山本は刺激が強すぎる光景だったのか、
顔を覆って伏せており、孤爪は呆れた
目で彼らを見るが、言葉は出さないまま
怒っている美月の手伝いに行った。
そして、黒尾に向けて目は笑わない
まま、笑っている海の姿とそれに
気が付いて震えながら蹲る主将の姿を
見たら、新入生達はこの人に絶対に
手を出してはいけないと心の中に
誓うのであった。
「え、お前ロシア語喋れんの?」
「いや、日本生まれの日本育ちだから
全くしゃべれません。」
「おい、ふざけんなよリエーフ!
日本育ちなら距離感わかんだろ!」
「美月さんだから抱きつきました!」
「はぁ、…うるさくなりそうだな。」